第17話「電車で次に席を立つ人が分かる女」
朝八時十三分。
満員電車。
由香は吊り革につかまり、座席を見渡した。
分かる。
次に立つのは、端から三番目の男性。
由香はさりげなくその前へ移動した。
二駅後。
男性がスマホをしまう。
立った。
由香は何食わぬ顔で座った。
隣に立っていた会社員が、ほんの少し悔しそうな顔をした。
これが由香の能力だった。
同じ車両で、次に座席から立つ人が分かる。
何駅で立つのかは分からない。
降りるのか、荷物を直すだけなのかも分からない。
ただ「次に立つ人」だけが分かる。
朝の通勤には、それなりに役立つ。
「それ、結構当たり能力じゃない?」
昼休み、同期の麻衣に話すとそう言われた。
「そうでもないよ」
「毎朝座れるじゃん」
「立つまで二十分かかる人とかいるし」
「でも分かるんでしょ?」
由香は言った。
「あと、立っただけで降りない人もいる」
「そんなことある?」
「コート脱ぐために立ったおじさんとか」
麻衣は笑った。
その日の帰り。
由香は残業で疲れていた。
車内は混んでいる。
次に立つ人を探す。
いた。
優先席の端に座る若い男性。
由香は少し離れた場所から様子を見る。
一駅。
立たない。
二駅。
立たない。
三駅。
まだ立たない。
「長いな……」
小さくつぶやく。
次の駅で、杖をついた高齢の女性が乗ってきた。
若い男性はすぐに顔を上げた。
そして立つ。
「あ、どうぞ」
女性が会釈して座った。
由香は少し恥ずかしくなった。
自分はずっと、その席が空くのを待っていた。
能力は合っていた。
でも、何のために立つのかまでは分からない。
さらに次の駅。
目の前の席に座っていた中学生が立った。
由香の能力はすでに次の人を示していた。
座れる。
一歩出たところで、横に妊婦らしい女性がいることに気づいた。
由香は止まった。
「どうぞ」
女性が少し驚く。
「いいんですか?」
「はい」
座席を譲り、由香はまた吊り革につかまった。
疲れている。
足も痛い。
能力もちゃんと使った。
なのに座れない。
スマホが震える。
麻衣からだった。
《今日は座れた?》
由香は少し考えて返信した。
《能力は絶好調。私は立ってる》
すぐに《意味ないじゃん》と返ってきた。
由香は画面を見て笑った。
次に立つ人が、もう分かっている。
今度こそ、その前には移動しなかった。




