第13話「プリンのカラメルが多いか少ないか分かる女」
「それ、やめた方がいいよ」
コンビニの冷蔵棚の前で、佳乃が言った。
友人の優衣は手にしたプリンを見る。
「なんで?」
「カラメル少ない」
「見えないじゃん」
「分かる」
佳乃は隣のプリンを指した。
「そっちは多い」
優衣は二つを見比べた。同じ商品、同じ容量、同じ賞味期限。
「そんな個体差ある?」
「ある」
「メーカーに怒られそうな言い方だな」
結局、優衣は佳乃が指した方を買った。
会社へ戻り、ふたを開ける。
底のカラメルをすくった優衣が目を丸くした。
「ほんとに多い」
「でしょ」
「何、その能力」
「プリン限定」
優衣が尋ねた。
「ゼリーは?」
「分からない」
「茶碗蒸し」
「怒るよ」
佳乃はプリンのカラメルの量だけが分かる。
正確なグラム数ではない。どちらが多いか、少ないかが直感で分かる。
本人はカラメルが苦手だった。
だからいつも、一番少ないものを選ぶ。
その能力が初めて人に感謝されたのは、入社三年目の春だった。
営業部の送別会で、課長がデザートのプリンを眺めて言った。
「俺、カラメル多いやつ好きなんだよな」
佳乃は反射的に言った。
「右から二番目です」
「何が?」
「一番多いです」
その夜から、課長は佳乃を妙に信用するようになった。
仕事ではなく、プリンに関してだけ。
数か月後、優衣の誕生日が来た。
「ケーキいらないからプリンがいい」
昼休みにそう言われ、佳乃は少し悩んだ。
「カラメル多いやつ?」
「もちろん」
仕事帰り、駅前の洋菓子店へ寄った。
ショーケースには六つのプリンが並んでいる。
佳乃には分かった。
左端が多い。
その隣も多い。
真ん中は普通。
右端は少ない。
店員が笑顔で待っている。
「お決まりですか?」
佳乃は左端を指した。
その瞬間、背後から声がした。
「あ、その左端のがいい」
振り返ると、小学生くらいの男の子が母親の袖を引いていた。
「カラメルいっぱいのがいい。これ、多いかな」
母親は困った顔をする。
佳乃はもう一度ショーケースを見る。
左端。
かなり多い。
隣。
まあまあ多い。
数秒考えた。
「すみません。左から二番目で」
店を出てから、佳乃は自分でも少し笑った。
能力がなければ、こんなことで悩みもしなかった。
翌日。
優衣はプリンを一口食べて言った。
「うまい」
「カラメルは?」
「多い」
「一番じゃないけどね」
「何それ」
佳乃はコーヒーを飲んだ。
「世の中、一番じゃなくても十分なんだよ」
優衣はスプーンを止めた。
「プリンで人生語るのやめてくれる?」
佳乃もそう思った。




