第10話「ポテトチップスの袋の中で一番大きい一枚が分かる男」
袋を開ける前から、分かる。
「右下」
拓海が言った。
友人の健吾がポテトチップスの袋を持ったまま止まる。
「何が?」
「一番でかいやつ」
「分かるの?」
「分かる」
健吾が尋ねた。
「開ける前に?」
「うん」
健吾は半信半疑のまま袋を開けた。
中を覗く。
「どれ?」
「右下」
袋を傾ける。
何枚かのポテトチップスがずれる。
その奥から、明らかに大きな一枚が出てきた。
「うわ、ほんとだ」
「だから言ったじゃん」
拓海には、ポテトチップスの袋の中で一番大きい一枚の位置が分かる。
味は分からない。
割れているかどうかも分からない。
厚みも分からない。
ただ、袋に入っていた中で一番面積が大きい一枚だけが分かる。
それだけだった。
「これ、地味にすごくない?」
健吾が感心している。
「だろ」
「でも何に使うの?」
拓海は黙った。
使い道は特にない。
昔からそうだった。
家族でポテトチップスを食べれば、真っ先に一番大きい一枚を取れた。
友人と食べれば、ちょっとした自慢になった。
それ以上のことは何もない。
「一番でかいの、もらっていい?」
健吾が聞く。
「なんで」
「分かったのお前じゃん」
「だから俺のだろ」
「能力で独占すんなよ」
結局、じゃんけんになった。
拓海は負けた。
能力は何の役にも立たなかった。
それから数日後。
拓海は恋人の美月の家へ遊びに行った。
テーブルの上には、コンビニで買った菓子がいくつか並んでいる。
美月がポテトチップスを手に取った。
「食べる?」
「食べる」
袋を見た瞬間、拓海には分かった。
左奥。
一番大きい一枚はそこにある。
美月が袋を開ける。
拓海は何も言わなかった。
「どうしたの」
「何が」
「いつも言うじゃん。一番でかいのどこって」
「今日はいい」
「珍しい」
美月は袋に手を入れた。
一枚取る。
違う。
また一枚。
違う。
拓海は黙っていた。
三枚目。
まだ違う。
四枚目。
その時、美月の指が左奥へ入った。
出てきたのは、やはり一番大きな一枚だった。
「あ、でか」
美月が少し笑う。
拓海は何となく満足した。
「食べないの?」
「それ美月のでいいよ」
「なんで」
「別に」
美月は言った。
「なんか怪しい」
「怪しくない」
美月は大きな一枚を半分に割った。
片方を拓海へ差し出す。
「じゃあ半分」
「いいの?」
「一人で食べても大きいだけだし」
拓海は受け取った。
能力があっても、一番大きいものを自分が取らなくてもいい。
そう思った。
ただ、次の瞬間。
美月が別の袋を開けた。
新商品の厚切りポテトチップス。
拓海にはすぐ分かった。
中央。
しかもかなり大きい。
「それ、真ん中」
反射的に言った。
美月が笑う。
「我慢できてないじゃん」
「これは別」
「何が別なの」
「たぶん、相当でかい」
美月が袋の中を探る。
「これ?」
出てきた一枚は、見た瞬間に分かるほど大きかった。
拓海の目が少し開く。
「それ」
「そんなに?」
「過去最大かもしれない」
「大げさ」
美月はしばらくその一枚を見た。
そして、何のためらいもなく口に入れた。
パリッ。
拓海の顔が止まる。
美月が咀嚼しながら言う。
「おいしい」
「……そう」
「欲しかった?」
「別に」
「顔に出てるよ」
拓海は袋へ手を伸ばした。
次に大きい一枚は分からない。
分かるのは、一番だけだ。
もう能力は役に立たない。
「二番目も分かればいいのに」
「欲張り」
美月が笑う。
拓海も笑った。
世界で一番しょうもない能力だと思う。
それでも、ポテトチップスの袋を見るたび、少しだけ楽しい。




