とある小鬼による愚痴
やってらんねぇよ、なんで俺がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだ。
俺は死んだ、それは覚えてる。でもそこからは記憶がない。死んだと思ったら、いつの間にかよくわからん世界にいた。これがあの世ってやつで、ここは地獄なんだろうか。少なくとも天国ではないだろう。
そりゃ見た目だけは天国みたいに見える。だだっ広いきれいな景色が広がってて、花がたくさん咲いてるし、暑くも寒くもないし、雨が降るのも見たことがない。けど、ここに住んでるやつらの見た目からして、ここは絶対天国じゃない。
ここにいるやつらは、むかしどっかで見た餓鬼ってやつにそっくりだ。肌が爺婆みたいにしわくちゃで、手足が骨みたいに細くて、なんでか腹だけふくらんでる。しかもそれに加えて、頭から角が生えてやがる。とにかく見た目が気持ち悪くて、はじめて見た時は驚いて吐きそうになった。
だけど何より驚いたのは、その気持ち悪いやつが、池に映った俺自身だったってことだ。俺は生きてた頃とは似ても似つかないその姿を見て、叫び声を上げた。いや、上げたつもりだった。実際に出たのは、聞いたことのない不快な音だった。俺の喉は潰れているのか、何も喋れないし、しゃがれた鳴き声みたいな音しか出せなくなっていた。
いきなりわけのわかんねぇ世界にいて、気持ち悪い見た目になってて、しかも喋ることもできないし、なんて酷い夢だと思った。ここにきてどれくらい経ったかしらないが、今でも夢であってくれと思う。
しかも酷いのは見た目だけじゃない。ここに来てから、ずっと喉が渇いてるし腹が減っている。
でも池の水を飲んでも全然渇きが癒えないどころかさらに喉が渇いたし、そこらへんに生えてる草や果物みたいなものは、不味くて喰えたもんじゃなかった。空腹に耐えられなくなって無理やり喰ってみる度に、あまりの不味さに驚くし、腹は全然膨れない。
ああ、喉が渇いた。でもこの世界で一番きついのは、ここでは何度殺されても、何度も生き返ってしまうってことだ。いや、そもそも俺はもう死んでるから、殺されるっていうのが正しいのかわかんねぇけど。
――この世界はシュテンドウジってやつが仕切ってって、そいつの命令には絶対従わなくちゃならない。逆らったら殺される。
実際に見たことはないけど、その手下みたいなやつがそう言った。ここには俺みたいな姿のやつがうろうろしていて、俺みたいに喉がつぶれたような鳴き声しか出さない。
けど、その手下は違う。そいつは人間で、いつも高そうな服を着ていて、しかも芸能人みたいに男前だ。イバラキドウジとかいう変な名前を名乗った。たまにそいつじゃないやつも来るが、大概はこのイバラキドウジってやつが俺たちに命令してくる。
俺たちは、そいつの前ではただ命令に従うことしかできない。なんでか身体が勝手に動く。オーラ、っていうんだろうか。こいつに逆らったらやばいって本能がそう言ってる気がする。情けないことに、そいつが姿を現すと俺は冷や汗が止まらなくなる。手下ですらそんなんだから、そいつを従えてるシュテンドウジってやつも相当なんだろう。
俺たちは毎日毎日、与えられた仕事をする。つまらねぇことばっかりで、空腹に耐えながら、ひたすら草をむしったり、ゴミを拾ったり。
もちろんやりたくてやってるわけじゃないし、ここから逃げようとしたこともある。
俺や周りにいる餓鬼たちの見分けはつかないだろうし、数を数えられたこともない。イバラキドウジは見張ってるわけじゃないから、あいつのいない隙を見て逃げ放題だと思った。
周りいる餓鬼たちみたいに延々とこき使われるのはごめんだったから、俺は草むしりだのを放り出して、ひたすら走った。とりあえずこっから出て、何か飲み食いしたかった。
でも、駄目だった。
走っても走ってもここに終わりはなかった。それどころかまっすぐ走ったっていうのに、いつの間にか元いた場所に戻っていて、他の餓鬼たちが俺を嘲笑うかのようにニヤニヤしてこっちを見ていた。馬鹿じゃねぇの、って目線だった。腹が立って殴りつけたかったが、このガリガリの身体じゃ全く力がでない。走った分さらに喉が渇いていたし、空腹も増していた。
むしゃくしゃしすぎて、俺はその後草むしりなんか放棄して、そこらへんに寝っ転がってふて寝した。この世界ではなんでか寝られないから、目を閉じて寝っ転がっただけだけど。そしたらいつの間にか、俺の側にあいつが、イバラキドウジが立ってたんだ。いつの間に現れたのか、全然気がつかなかった。
あいつはいつもニヤニヤ笑ってる。その時もそうだった。あいつは笑いながら、俺のことを殺した。
何が起きたのかわからねぇくらいに、あっという間だった。
急に喉に痛みが走ったかと思ったら、俺の首は切り落されていた。俺の首は転がって、そのまま身体がバラバラに八つ裂きにされていく様子をただ見ることしかできなかった。
いや、実を言うと速すぎてどうやって殺されたのかもよくわからなかったが、イバラキドウジの手が俺の血で赤くなっていたから、あいつに殺されたのは間違いない。で、やられた、完全に死んだと思ったのに、意識は途切れなくて、身体中痛くてたまらなかった。
俺を殺した後、イバラキドウジはそこらへんにいたやつらに、俺の身体を片付けるように命令した。それで餓鬼たちが慣れた手つきで俺の身体をパズルみたいに並べると、傷なんてまるでなかったみたいにくっついて、俺の身体は元のようになった。
身体は普通に動いたが痛みはなかなか治らなくって、俺はしばらくのたうち回った。
多分、他の餓鬼たちもここに来たばっかの時は同じように逃げ出したんじゃないかと思う。で、俺と同じように何度も殺された。そうなるって結果を知ってるから、仕方なしにこうやってこうやってこき使われて、新人が逃げようと無駄な努力をしてるところを見ては馬鹿にしてるんだ。ふざけやがって。
俺はその後もどうにか逃げようと色々試したが、何度やっても結果は同じだった。どうやってもここからは抜け出せず、最終的にイバラキドウジに殺されて、生き返らさられる。
ちなみにここに生えてる草や果物みたいなのを勝手に喰ったこともバレるみたいで、そういう時も絶対じゃないけど、高確率で殺される。イバラキドウジの気に食わないことをしても殺される。
俺は仕方ないから、最近は逃げるのを諦めて、素直に命令に従うことにした。逃げても痛い思いをするばっかりだ。
ここは終わりがない庭みたいなもんだから、草むしりやらもいくらやっても終わりがない。しかもずっと昼間みたいに明るくて夜も来ないから、ただひたすら、休憩もなく、毎日毎日毎時間ずっとこき使われる。
死ねないってことは、この苦しみがずっと続くってことだ。喉が渇いて腹が減って死にそうなのに、こき使われて、殺されて。
生きていた頃俺は、天国も地獄も全然信じちゃいなかった。ここが地獄だっていうんなら、なんで俺がこんな酷い目に遭わなきゃなんねぇんだ。こんな目に遭わなきゃなんねぇほど、悪いことなんてしちゃいない。ほんの数人、むかつくやつを殺しただけだ。




