表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春のまにまに童のまにまに  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/49

川辺の少女たち

 

 カオルは鼻歌を歌いながら、川沿いの桜並木の下を歩いていた。

 蕾が大きくふくらんでいて、もう間もなく一斉に花開くだろうか。例年はすでに見ごろだというのに、今年は不思議と開花が遅い。全国で満開の報が聞こえる中、この街だけ取り残されているようだ。

 対照的に川辺には小さな花が可愛らしく咲き乱れ、草々は青々としている。特に菜の花は一足先に見ごろを迎えていて、一面の黄色が目に映える。


 カオルはそのまま川辺に降りた。カオルの歌に乗って春風が吹き、菜の花の花びらが舞う。

 今日は少し気温も高くなり、南風が身体を包んだ。カオルはくるくると風に乗る黄色い花びらたちを指揮するように、右手を大きく動かす。すると花びらたちは、静かに川面に着地する。絵の具を垂らしたように転々と、花びらはゆっくりと川下へ流れて行く。

 川を覗くと、花びらと一緒にオタマジャクシたちが泳いでいた。少し成長していて、この前よりも大きくなっている。 


「ちゃんと元気に、立派なカエルになるのよ」


 ほほ笑みながら、カオルは呟いた。

 そのままカオルは川辺に腰かけて、川の流れを見つめる。流れる水面や、周囲の動植物。自らもその自然に溶け込むように、身を預ける。

 目を閉じれば、凪いでいる風の音や、蝶が羽ばたく音が聞こえる。


「――カオル」


 そんなカオルに後ろからそっと近寄って、サクラは声をかけた。


「やっぱりここにいた、すぐわかるわ」


 よいしょ、とカオルの隣に腰かける。


「サクラだって、図書室へ行ってたんでしょ。すぐわかるわ」


 二人は目を見合せて、笑い合う。


「でも聞いて、カオル!」


 サクラは大きく手を動かして、興奮を表現している。


「今日はね、いつもと違ったの!」

「なあに、そんなに大きな声を出して」

「あのね、不思議な男の子に会ったの。私が本を読んでたら図書室へ入ってきて、喋ったの」

「喋った……? 学院の生徒ではないの?」


 カオルは眉をひそめた。


「ううん、多分中等部の子だと思う。でも、私が見えたし、会話もできた。しかも本の趣味がすごく合って、おすすめの本も教えてくれたの!」


 嬉しそうに話すサクラを、カオルは訝しげに眺めた。


「本当に? なんでそんなことが?」

「なんで、なんだろう……私にもわからないけど……――」


 サクラがそう呟いた直後、今度は強い北風が吹き上げた。


「――……不思議だよね、普通の生徒はもう私たちが見えないのに。大きくなったら、みんな見えなくなっちゃうのに」


 風は少女たちの髪をなびかせ、川辺の花びらを舞い上げる。


「……私、清光以外の人と久しぶりに喋った。カオルにも、あの子に会って欲しいな……」


 カオルはサクラから目線を外し、少し考え込んでから口を開いた。


「そんな人がいるなら、会ってみたい。けど……少し怖い気もする」

「怖い? 何が……?」

「なんだか、うまく言えないけど……」


 カオルは黙り込んで、何かを考えていた。考えすぎ、と言いかけたが、サクラも同じように考え込む。


「大人にも、見えるようになるのかな」

「普通の人間と同じようになるってこと?」

「清光だって、十を越しても私たちが見えたもんね」


 うーん、と互いに考えるけれど、答えはでない。


「――あっ、見てサクラ! このオオバコ」


 ふと横を見ると立派なオオバコが群生していて、カオルは考えていたことを忘れて、嬉々として言った。


「えっ、どれ?」


 サクラもカオルの指さす先に、身を乗り出した。

 その名の通り大きな葉を地面に広げ、ツクシにも似た花穂がすらりと長く伸びている。踏まれれば踏まれるほど強くなるといわれ、人が多く通る場所でも負けじと立派に育つ草花だ。


「本当だ。川べりだから、たくさん踏みつけられたのかな。すごく丈夫そう」

「私、これにする」


 カオルはぷつりと、一本の一際太いオオバコを摘んだ。


「あ、ずるい! 私もそれにしようと思ってたのに」

「残念、早いもの順よ」


 ふふふ、と笑うカオルをひと睨みして、サクラは二番目に太そうなオオバコを摘んだ。

 二人はそれぞれのオオバコを交差させて絡ませると、両端を持って引っ張り合った。昔からある子供遊びである。


「あっ」


 先に千切れてしまったのは、サクラのオオバコだった。


「また私の勝ち」


 カオルは勝ち誇った笑みを浮かべた。


「だって、カオルが先に選んだんだもん、当たり前よ」 


 認めない、という風にサクラは頬をふくらませた。


「太ければ太いほど勝つわけじゃないし、実力よ」

「もう一回!」


 二人は再び、オオバコを選んで摘んだ。今度はサクラが先に摘む。


「見て見て、これも丈夫そう」


 くるくると回しながら、サクラが嬉しそうに言う。


「これは細くてしなやか」


 カオルは細長いオオバコを選んでもてあそぶ。


「本当。千切れちゃうのがもったいないくらい」

「残念ながら、千切れちゃうのはそっち!」


 もう一度絡ませて引っ張ると、次に勝ったのはサクラだった。

 今度はカオルが頬をふくらませ、ぱたりと仰向けに寝転ぶ。


「あーあ、負けちゃった」


 きれいに澄んだ青空を見ながら、千切れてしまったオオバコを陽光にかざす。


「これで引き分けね」


 サクラは座ったままカオルを見下ろして、自分のオオバコでカオルの鼻の頭をくすぐった。

 カオルはサクラを無視して、思い出すように言った。


「清光は、強かったなあ。三人でずっと、遊んでいられたらよかったのに」

「確かに、清光は強かったね。どうやって見分けてたんだろう」


 清光が幼い頃はよく、一緒にオオバコを摘んで遊んでいた。清光に遊びを教えたのは二人だったが、清光は丈夫なオオバコを見つけるのが上手で、二人はいつも負かされていた。


「……今度はいつ、図書室へ行く?」


 思い出したように、カオルはサクラに問う。


「カオルが行く時に。よく図書室へ来るって言ってたから、気が向いた時に行っても会えると思うな」

「わかった。どんな子なのかしら……」


 あれこれ考えていたことを吹き飛ばすように、カオルはぐいっと起き上がった。

 千切れてしまったオオバコたちを手に乗せて、大きく息をかける。すると風が生まれて、オオバコたちはどこかへ飛んで行った。


「相変わらず、カオルは風の扱いが上手。どこかでまた、元気なオオバコが育つね」

「サクラにも、プレゼント」


 カオルは微笑みながらまた風を起こして、菜の花の花びらを舞い上がらせた。サクラを取り囲むようにして、花びらはきらきらと風に舞う。

 きれい、と笑いながら、サクラは持っていたオオバコを指揮棒代わりに、花びらたちを動かす。


「サクラのオオバコはどうするの?」

「この子は窓辺に生けるの。一輪挿しに、ぴったりでしょ」


 笑う少女たちと一緒に、風と花びらはくるくる舞った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ