第358話 知らない記憶からの
10:22
「美羽は?」
「うん、ようやく落ち着いたからか寝た」
「そっか……」
イリスに頼み、美羽を部屋に連れてってもらって暫く様子を見てもらえるように頼んだけど、その美羽が寝た事でイリスが戻ってきた。
「イリス……、やっぱ美羽も血の記憶か何かで様子がおかしくなったと思うか?」
「いや……、あの様子だとなんか違う気がする」
「と言うと?」
「確かに血の記憶で錯乱しそうになっちまうけど……、美羽姉の場合はそれよりなんか……、もっこう……、根本的に根深いところで影響を受けてると言うか……」
「そっか……」
流石のイリスでも原因が解らなきゃ対処のしようが無いな。
「でもあのミル姉がねぇ……」
「ん? ミルクがどうした?」
「ん? ……だって、ミル姉ってさ、元々アンタと付き合ってたのに、よく挨拶もしないで帰ったなと思って……」
…………は? 俺とミルクが……、付き合ってた?
それを聞いて直ぐ、知らない記憶が流れる。
は? ……は? なんだよこの記憶……。
頭が混乱し、何がなんだか訳が分からない。
「……ほら、……私はさ、そんなミル姉と憲明が別れたのを良いことにさ、奪うような感じで今付き合ってるから正直、……申し訳無くてさ」
な、なに、なに言ってんだ? 告白したのって……俺からだろ? なのに……、なんだ? え? は? どうして……ミルクと付き合ってたって記憶があるんだ? おかしい……、おかしいぞ? ん? 俺が……向こうに……行けないからって別れ、そこへイリスがカズを裏切って? 俺に告白……して……来て……。
身に覚えの無い記憶でどんどん混乱していたけど、美羽も同じような事があったから俺はようやくアイツの気持ちを理解する事が出来た。
なるほど……、……こりゃ流石に、様子がおかしくなっちまう……よな…………。
「憲明?! どうした?! だい! 大丈夫! なのか?!」
「だ……、大丈夫、……だ、とは……、言え……な……いな……」
「え~~! どうしよう! どうしよどうしよ!」
……俺を心配して慌てる姿も可愛いなんて、それを口に出したらきっと怒られるから言えない。
「あぁ……、でもなんか、納得した……」
「な、なにが?」
「俺、ミルクよりもお前が大好きって事」
するとイリスの顔が一瞬で赤く染まる。
やっぱ好き、可愛い。
だって俺、記憶があるけどミルクと付き合ってたって実感がねえんだもん。
俺の初めての彼女はイリスであり、初めてを捧げたのもイリス。
だから、イリスが一番可愛いって自信を持って言える。
異論は認めません!
「ば、ばか……」
くっフッ! 可愛すぎて軽く死ねる!
恥ずかしそうにしつつ、嬉しがるイリスは間違いなく世界一です。
「わ、私も大、大、……大好き」
キルュンとした顔で抱きつくイリスに鼻血が吹き出しそうになりつつ、なんとか堪える俺って偉くね?
とりまイリスの顔を見てるだけでご飯大盛り五杯はいける。
「はいはいご馳走さまです。だから邪魔なのでどっか行ってもらえます?」
「「…………」」
岩美に邪魔者扱いされ、俺達2人は逆に恥ずかしくなって身動きできない……。
でもこれで美羽が感じた謎がほんの少しだけど俺でも解り、この現象がなんなのか解らないために言い出せない。
同時に恐怖も感じた。
何時からだ……、何時からこんなふざけた事が起こり始めてたんだ……。
「ん? そんな怖い顔してどうしたんだ?」
「あっ、……ごめん、なんでもない」
……でもやっぱ言わなきゃ駄目だよな。
心配そうな目で俺を見つめるイリスに、俺は頭に手を乗せて心配無いよと言い、優しく撫でた。
「へへへっ」
……確かな事は俺がミルクとも付き合っていたって言う事実がある記憶。
でもそれは決してあり得ないって感情が沸き立つ。
知らない内にこんな得たいの知れない記憶に乗っ取られていると言うなら大問題過ぎるぞ……。
でもそれが何時から始まっていたのか知らない。
ヤバい、どうする……。やっぱ言ったほうが良いんだよな? だけどそれで変に思われたらどうする……。
それにこの話をして変にイリスを傷つけ、別れたけど元カノのミルクの事も傷つけるかもしれないって思うと言い出せねえ!
この時の俺は思考回路が既にまともじゃないって気づけないでいた。
それでも意を決して取りあえずイリスと離れ。今何があったのかを話そうと決め。
「皆、ちょっと良いか?」
「どした?」
「実は今、美羽が言ってたような感覚を感じた」
詳細は省き、とにかく身に覚えの無い記憶に侵食されていると話すと、それは俺やイリスだけじゃなく、何人かが同じ感覚があって気持ち悪い事があったと話す。
「記憶の変換なのかなんなのか知らねえけど、これってかなりヤバいんじゃねえか?」
「ヤバいとかそんな言っていられるレベルじゃねえよ、危険過ぎだ」
今のところ同じ経験があった奴は、一樹、ヤッさん、岩美、この3人。
「なにかしらの魔法でしょうか?」
「だとしたら相当ヤバい奴だって事だぞ」
「しかもそれを実行可能にする事が出来るってなると」
「…………カズしかいねえよな」
"変換"の力で記憶の改変をし、俺達全員を混乱させる気でいるならマズい。
下手すりゃ内部分裂を引き起こすかもしれねえんだからな。
「とりあえず、それぞれの記憶を照らし合わせないか?」
「うん、それが良いね」
マズい……、俺としては非常にヤバいんですが……。
「俺に流れてきたと言うか、いつの間にかあった記憶だと、俺は刹那に告白して見事なまでにフラれて撃沈した記憶があるんだが……その……、その記憶ってお前にはあるか?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい無理ですごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
真顔と言うかなんと言うか、ナッチの連呼に一樹が呆然とへたり込む。
「だ、だって、私と刹那に、そんな、告白された記憶ありませんし」
なん……だと?!
「一樹!」
「付き合って下さい!」
「ごめんなさい!」
ばかな!
俺達3人の声が同時に重なりつつ、一樹が撃沈する。
くっ……、どんまい……。
「だって! 先輩がどっちの事が好きなのか知らないですし!」
確かに! ナッチは二重人格だからセッチの人格だっている!
両方と答えればそれはそれで嫌われるリスクが高くなり! 優柔不断だと罵られる!
しかし! どちらか一方を選んだとしてもう一方が悲しむ!
くっ! なんて難しい選択なんだ!
「俺は……」
俺は?!
「うっ……く」
どうするつもりだ一樹?!
「俺……は」
ここで嫌われる覚悟で男になるのか?! それとも優柔不断になるつもりか?!
「俺は……、俺は2人の事が好きだ!」
言いやがった! 優柔不断を選びやがったよコイツ!
「え、最低ですね、先輩」
「カハッ!」
「一樹~!」
横から岩美による無情な一言に一樹が生気を失ったみてえに白くなる。
くっ! でもお前は男だぜ!
「その……、私は別に良いんですが、刹那にも聞いてみないと付き合うかどうかはまだ、ちゃんと返事を出せないと言いますか……」
はっ! セッチ次第だと?!
こりゃいけるんじゃねえのか?! 一樹!
ナッチの言葉に生気を取り戻し。
「んじゃ、刹那にも聞いてくれないか? その、俺は確かに優柔不断だけど、どちらか一方だけを好きになったんじゃなく、お前ら2人の事が確かに好きなんだ。なんか変な記憶になってるけど、これを機に2人と俺はちゃんと付き合いたい! それに俺が2人を守りたい! 守らせてほしい!」
お~! こりゃなんだか良い感じの告白になったんじゃねえの?!
するとナッチは顔を赤くさせながらセッチに聞いてみると言って目を瞑る。
どっちだ? どっちなんだ?! 答えは?!
スッとナッチが目を開け、次に右目の眼帯を外し、人格をセッチに渡す。
「優柔不断、ですね」
「ぐっ……はっ!」
そして一樹はまた倒れた。




