第357話 揃うピース
とても長い夜が終わり、俺達は夜城邸へと戻った。
そのまま寝ようかと思ったけど、俺達は親父さんやナッチに呼ばれると思い、自然と皆集まって待機していると。
「……起きているなら呼んでくれるかと組長に頼まれたが、やはり皆、起きていたんだな」
そう言って犬神さんが来た。
7:00
ーー 夜城邸 大水槽前ホール ーー
俺達は勿論、大水槽前ホールで待機していた。
そこへ親父さんとナッチが来て、とある真実の1つを知る。
ナッチもまた生まれ変わり。しかもただの生まれ変わりなんかじゃない。
ナッチは元々"星獣"と呼ばれる言わば怪獣だった。そして、アズラエルの魂と、……以前話の途中で終わってしまっていた、ナタリーの魂も持っていた。
どんだけ生まれ変わってんだって話だけど、そうじゃなくて3つの魂を1つの身体に宿していたって事がどうやら正解らしい。
つまり、"星獣・オオワタツミ"の魂とナタリーの魂が1つになり、そこへアズラエルの魂の欠片も一緒になってしまった。
だから沙耶は生まれ変わっても記憶を喪ったまま生活し、アルガドゥクスの生まれ変わりであるカズと再会した事で昔の記憶が甦り始めてしまった。
でも完全じゃない。アズラエルの魂の欠片がナッチの身体にあるため、沙耶は記憶を取り戻しても不完全。
つまり沙耶ならどうにか抑える事が出来るって事だ。
「今さら言うのも遅いが安心するな。アズラエルの力と言うより、アイツが取り戻しちまった"サマエル"に問題がある」
「"サマエル"に?」
「"死鎌・サマエル"。アレは元々、アイツの兄の亡骸で造られた武器だ」
は? 兄ちゃんの亡骸で?
そこで俺はダージュの中から見た記憶をよく思い出そうとするけどなかなか出てこない。
クソッ、記憶が薄れちまったかよ。
「兄サマエルは"時"を操れた」
"時"って事は時間って事か?
「サマエルが"時"を操り、妹のアズラエルはそれを"制御"の力でより強力な"時"を操る」
「……まさか」
「そのまさかだ。例え死んだとしても、アルガドゥクスは"死霊術"の力で魂を呼び起こし、アズラエルに呪われた武器として新たな姿として生まれ変わった"サマエル"を返した」
"時"と"制御"が揃うって事は……。
「奴らはその時が来れば時を戻してやり直し始めるぞ。そうなったらお手上げだ。いくらでもやり直し出来るんだからな」
「でもこっちにはその魂の欠片があるから不完全のままなんじゃ?!」
「親玉はあの和也だぞ? 相手が相手だ、何かしらの手をうってくるって考える方が正しいだろ」
た、確かに……。
「想像してみろ。……そうなっちまえば全ての世界が真の地獄に突き落とされるぞ」
「ヤバい」
だからこそ、"サマエル"は厳重に封印されていたんだって理解した。
向こうにとっては最高のピースが揃い、こっちは最悪な状況に立たされている。
でもそれなら、どうして親父さんはカズを止めようと動かなかったのか不思議に感じつつナッチを見た。
……なるほど、ナッチはその為の切り札になるんだな?
「そして七海はそんな特異な存在として生まれ、和也を暗殺しようとしていた組織で育てられた」
だから暗殺スキルを持っていたりするのか。
「しかしだ、和也を嘗めてかかった為に組織は潰され、狂犬じみていたコイツは牙を抜かれた後、妹として迎え入れられた。その後の事はお前達も知ってる通りだ。本当ならアイツに甘えたかったろうが、コイツは一度は殺そうとした奴に甘えるわけにはいけねえって事で甘えられなかった。ほんっと、馬鹿娘だよオメエはよ」
「うぅ……」
「和也が向こうへ行ってショックなのは分かるが、何もまた"星獣"にならなくたって良いだろ」
……んまぁ、確かに、そりゃそうだ。
「止められなかったのはなにもお前の責任じゃねえんだ。前を向け、今のお前にはコイツらがいる。ましてやお前の横にいるのは誰だ? お前の親父だろ、だったらもっと頼れ」
「は……い゛……」
「泣き虫が。泣く前にやることあんだろ」
「う゛っ……、心配……させて……ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛ぃ゛~!」
結局泣いちまったし。
でもそれがナッチらしくってホッとする。
「一番心配してたのは一樹、お前だろ。和也にも言われたんだ、コイツの事、俺からも頼むな」
「うっす……、まぁ、言われなくても俺が支えますよ」
そういやもしかして……、一樹ってナッチやセッチの事が好きなのかな?
それを確認するのも野暮だし、それについては誰も何も言わない。
ただ1人、カズと付き合ってた記憶を封印された美羽がやっぱりようすがおかしかった。
「ばっかみたい」
「おい美羽」
「なに? なんか文句ある?」
「あるに決まってんだろ、なんなんだよお前マジで、夕べから様子が変だぞ」
それは俺だけじゃなく、全員が思っていた。
「は? なによこの空気。どうせ私は邪魔者だしそろそろ出て行くわよ。それで良いでしょ?」
「良いわけねえだろ、それともなにか? 俺に喧嘩売ってんのか? あ?」
「は? ……はっ、ノリちゃんが私に勝てる訳でもないし、私より弱いのにわざわざ喧嘩なんて売りませんけど? 自意識過剰なんじゃないの? だから馬鹿って言われるのよ」
「おい……、いい加減にしろよ?」
美羽の態度の悪さにキレそうになって胸ぐらを掴もうと手を伸ばそうとすると。
「それはテメェだろ美羽」
俺よりも先に親父さんがビンタして怒り始めた。
「憲明が悪い云々じゃねえんだよ。え? 憲明は夕べからお前のその横柄な態度に思うところがあるから言ってんだろ。それとも何か? テメェより弱い奴の意見は聞かねえってか? あ? んじゃ俺がテメェをこれからブチのめすぞ? お? 良いのかそれで? 良いんだな?」
「……ちっ」
「おい、今舌打ちしたな? って事はこの俺と喧嘩してえって事だな? ん? そうなんだな? 悪いが一発で終わらせてもらうぞ?」
胸ぐらを掴み、これでもかって言わんばかりのドスの効いた口調、そしてその睨みに流石の美羽でも冷や汗を流して目を反らし、押し黙る。
「人を見下すような奴はな、いつか痛い目をみなきゃ分からねえし成長なんざ出来ねえんだよ。分からなきゃクズだ。テメェはそんな奴に成り下がるんじゃねぇ。分かったか?」
「……はい、ごめんなさい」
「分かりゃあ良いんだ分かりゃあ。だがこれだけは覚えておけ? その気になりゃ例えお前でも俺は容赦無く叩きのめす事が出来るからな?」
「……はい……」
「声がちいせえなあ」
「はーいッ! 人を見下した態度をしてすいませんでした! ごめんなさい!」
それでもなんだか反省したか怪しいけどな。
「んで? お前のその態度が急におかしくなったのは何か理由があんのか? あ? 言ってみろ」
親父さんに聞かれた美羽はまだ目を反らしたまま黙っていたけど、至近距離からおもいっきり睨まれてるってのもあるからか、ようやく観念して重い口を開いた。
そこで聞かされた事はどうも不思議で、なんでだ? って考えちまう内容だ。
記憶に無い筈の記憶があり、何故か知らねえけどそれを身体は覚えているし、直ぐ実行出来る。
つまり、あのカズと同じ魔法や戦いかたを、ある程度出来るって話だ。
「"紅蓮華"は勿論"瞬炎"。あのカズがよく使ってた能力、技、それらをどうしてか使えるって記憶があるんです」
「……八岐大蛇と融合したからって事は?」
「いやそれは違うと思う……。"瞬炎"なんて前まで使えなかったのになんだか使えるって記憶があるし。それにまだ知らない記憶が他にも流れてくるの」
すると少しずつ美羽の顔色が悪くなり、身体を震わせ始めると怯え始め、状況は最悪な方へと傾き始めた。
「知らない……、こんなの知らない……! 私、そんなとこへ行った覚えないよ……! カズ! 助けてカズ! カズッ!」
正直言ってこれは異常事態だ。




