第十九話 予想外の辞令。さようなら!あたしの素晴らしき職場
漸くタイトルに近づいて来ました。
社会人になっても紫苑ちゃんは相変わらずです(笑)
<ボス!それ本当ですか!?>
<ああ。二日後に迎えが来るから、それまでに荷物を纏めてくれたまえ>
イギリスの大学に進学したあたしは卒業後、そのままイギリスに就職した。
日本に本社がある食品会社のシステム課に所属となったあたしは、入社二年目を迎え、自分が得意とする事を仕事に出来て、その上リケ女の友人も多数出来て充実した日々を送っていた。
ああ!それなのに!何で本社に移動がペーペーのあたしなの!
“とうちゃんの転勤”は、もう、無いのに、何でまた“アノ国”に戻らなきゃいけないの?
<シオンは日本語が堪能だろ?>
あたしの心の中を読み取ったのか、上司であるジョージがポツリと言った。
この目の前にいるシステム課の上司は、生粋の英国人で、おじーさんだかひいおじーさんが貴族だったらしい。
金髪碧眼でスラリとした長身のやけに長~~~~~~い名前をお持ちのノーブル様だ。……今彼が住んでいるのは普通のアパートらしいけどね?
実は彼はあたしがここに配属になった時の指導者でもある。
日本語で彼を簡潔に表現するならば、イケメン子爵様兼課長兼指南役…ってとこかな?
ついでに言うと30代独身らしい。
<………残念だな。シオンがもう少し“慣れて”から口説こうと思ってたのに…>
<????何か?>
<いや。寂しくなるな…と思ってね>
<そうですね。あ!でもキャシー達がお別れ会をしてくれるって>
<ほう。それに僕も混ぜて貰っていいかな?>
<ボスが…ですか?>
<ははは…意外だって?僕だって可愛い部下とお別れしたいさ。それにシオンの今後の活躍を期待しているし?ほら、日本語であるじゃないか。かど何とかって>
<“門出を祝う”ですか?>
<そうそう。君のカドデヲイワイタイんですよ。それに、“ヴィーのサックス”が聴けなくなる事だし>
<…くす…そうですね。今日のパーティで披露させて頂きますよ>
<楽しみにしてるよ>
ヒロキ様と同年代のボスはあたしにとって兄のような存在だ。時には厳しく、時には優しく指導してくれた。
今、あたしがこうして穏やかに社会人生活を送れるのも、この、ボスのおかげなのだ。
<ボス、今までいろいろと、ありがとうございました>
<ははは……まるでこれで“本当にお別れ”みたいな言い方だな>
<………え?で…でも>
<いつでも“帰って”おいで?僕らはシオンの事をいつまでも待ってるから。な?皆!>
「「「「「Yes,sir!!」」」」」
ううっ。ここって本当に良い仕事場だったよおっ!
**********
<ヴィー!最後に“アレ”やって!>
<了解!>
キャシーのリクエストに、あたしは“相棒”を取り出した。
<最初はビタースイートサンバね>
♪♪♪♪♪♪♪♪
あたしが奏でるリズムに合わせて職場の皆が踊りだす。
皆、ハイスクール時代にダンパでパートナーと踊っているから慣れたものだ。
………日本で女子高校生をしていたあたしには、とうてい真似出来ないわ……
“相棒”で3~4曲演奏すると、今度はリズがバーに置いてあるアップライトピアノのイスに座った。
<ヴィーには劣るけど…ね?>
そう言って彼女は弾き語りを始めたんだけど……
All of me why not take all of me
Can't you see I'm no good without you
Take my lips I want to lose them
Take my arms I'll never use them
<リズ、なかなかやるわね…>
<うん。声も歌もサイコーに色っぽい!>
キャシーと二人、グラスを傾けながらリズの演奏に聞き入る。
歌詞はとても情熱的なのに、メロディーはどちらかというと“静”…と言うより、ムーディ?
ゆっくり目のダンスとかに丁度良いんじゃないかな。
なんて考えながらカシスソーダを飲んでいたら………
「Shall we dance?」
何て言って右手を差し出しているのは……何と!ボスであり……
<きゃぁ~~っ!ボス、ついにやったわね!>
<へ?キャシー、今何を……って!ボス!もしかして……>
<勿論。シオン、キミを誘ってるんだけど?>
ダンスは一通りひいお祖父ちゃんから教わったけど、それも随分昔の事だからなぁ……
<あの、あたし、ダンスパーティの経験無くて…>
<僕がリードするから大丈夫>
<で…でもあの<ヴィー、行ってきなさいよ!>…って!キャシー……わかりました。私で良ければお相手します>
同僚に背中を押され、あたしは戸惑いつつもボスの大きな手を取った。
【ヒューーーーーーーっ!ボス、積極的ぃ!】
ジョージに連れられてダンスフロアに行くと、同僚や先輩たちの熱い視線を一斉に浴びた。
……ボス狙いの女の子達がここにいないのが救いだわ
腰に手を当てられた状態でエスコートされたので、そのまま向かい合い、左手を彼の右手に添え、左手を彼の肩にかけ、緩やかにステップを踏む。
………勿論、ボスのリードに任せて
<ヴィー、次は俺と!>
<俺とも最後に踊ってよ>
上手いとは言えない踊りっぷりなのに、何故かかかるお誘いコール。
“ここ”ってあたしが生まれて初めて異性によく声をかけて貰えた職場だったんだよなぁ…。
………食事会とか飲み会とかだけど。
<相変わらずのモテっぷりだね?>
<当分の間お別れだからじゃないですか?“ココ”にはあたしをダンスに誘うモノ好きはいないハズですから…>
<くすくすくす……それって僕も含まれてる?>
<どうでしょう?でもそれ以外に誘われる理由が思いつきません>
真面目に答えたつもりなのに、あたしの返答に対するジョージの反応は………苦笑という表現がピッタリだった。
相変わらずの激鈍天然女の紫苑ちゃん。
実は高校時代から数年後、彼女の身辺にちょこっとした変化があります。それは次話以降で…。




