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初恋で恩師で上司な彼  作者: 洟 華夏瀧
初恋で恩師なアナタ
19/21

第十八話 もう一つの嵐

更新が大分遅れてすみません。

そんなこんなで結花とドロテアに救出されたあたしは、ひいお祖父ちゃんのハグに迎えられた。


「紫苑っ!良かった!良かった!」


…く…苦しいよ。せめて“コレ”だけでも脱がさせて……


ひいお祖父ちゃんは暫くぎゅうぎゅうしていたんだけど、あたしのSOSをキャッチしたドロテアによって引き離された。


はぁ~~っ。助かった!!


ひいお祖父ちゃんから解放されたあたしはまっすぐに自分の部屋に向かった。

一緒に来た結花は、あたしが“コレ”を脱ぐのを手伝ってくれたんだけど、やけに興味深そうにいちいち確認しながら脱がせていた。


「ふむ……これがコルセットか」

「靴下は総レースね?」

「この靴は重いばかりで実用性に欠けるわ…」

「手袋はシルク…かな?」


元の涼しい恰好に戻ったあたしは、ついに、アノ重さから解放される事になり……


「おお!!頭のてっぺんに帆船がっ!原作にはこんなモノなかった筈なのに、“大蟻地獄”はルイ王朝の御貴族様ファッションを性格に再現したってか?

……ぷぷっ……あっはっはっは……こりゃ傑作だ!折角だから写真撮ろう!」


アレを繁々と観察し、デジカメを取り出す結花。

あたしは彼女の言葉の中に気になった単語があったので質問してみた。


「ねぇ結花。大蟻なんとかって?」

「しいちゃんを拉致監禁した筋肉マッチョの事」

「ああ!自称“フェルゼン”ね?」


フェルゼン様よりも“へる全”の方が相応しい、やけに暑苦しい男だったなぁ…なんて思っていたら突然結花の周囲の温度が低下していった。


「うっ…何か寒気が…「しいちゃん!」って…どしたの結花?」

「今、“フェルゼン”って単語が聞こえたと思ったんだけど?」

「う…うん」

「それって、あの、大蟻地獄なんかの事じゃな・い・よ・ね?」


冷気を漂わせて只ならぬ形相であたしに迫ってくる親友。

あれ?もしかして、あたし、結花の地雷踏んじゃった?


「実はさ、あたしがそもそもこんな暑っ苦しくて重い思いをさせられたのはマリーアントワネットのコスプレをさせられていたからで……」

「そ~れ~でぇ~?」

「だだだから、結花曰く“大蟻地獄様”があたしの事マリーとかって呼んで自分の事をフェル「……(バキッ!!)」って!ななななぎさっ!今変な音が!!」


思わず彼女の手元を見ると無残に砕け散った靴らしき残骸が……


「お~のぉ~れぇ~~っ!私のしいちゃんを拉致っただけでなく、あの、スウェーデンが誇る貴公子フェルゼン様を語るとは……許すまじ!大蟻地獄っ!!(バキッ!!)」


すごっ…あれだけのモノを握力だけで砕いたのに、手は怪我してないみたい。

ってか、あたしを助けに来た時も思ったんだけど、結花って強かったのね。

やっぱりセレブだから空手とか合気道とか武術系を習っていたんだなぁ……それって確か護身術っていうんだよね?


親友の思わぬ特技に感心していると、レイの音楽が聞こえてきた。


……この着信音は……お兄じゃん!!


あたしはあわててドレッサーの上に置いておいた携帯を取り、メールを確認してみる。

すると…


『話は聞いたぞ?随分古風な手に引っかかったようだな……。今後はくだらん事で俺の貴重な時間を潰すなよ?』


……どうやら一連の騒動はお兄に伝わっていたらしい…

ってか、それが誘拐?された妹に充てたメッセージかっ!!少しは心配するべきじゃないのっ!?

流石は俺様兄様ヒロキ様だわっ!身内の一大事でもマイペースを崩さないんだからっ!

何よ“俺の貴重な時間”って!!大学院生は今夏休みの真っ最中なんじゃないの?

いつもの取り巻きとイチャデレしてたのに決まってるんだからっ!!


携帯に届いた味もそっけもないメッセージを見て、あたしは暫くプンすかしていたんだけど、そばにいた結花のお腹の音に促されキッチンで料理の続きをする事にしたのだった。



*********



「誘拐されたんだって?何もされなかった?」


順和風ランチタイムを皆で満喫し、ドロテアの手作りケーキでティータイムを楽しみ、夕飯はひいお祖父ちゃん行きつけのヴァイキング料理のレストランでディナーを堪能し、ベッドに吸い込まれるようにばたんキューと熟睡したあたしは、翌日の早朝、疲れのあまり幻を見た……と思った。

……が、それはすぐに現実だと知らしめられた。


「…気が向いたから“おまけ”付きで来てやったぞ」


そう。“彼”の存在によって。


「拓海じゃないか。で、そっちの彼は友達かね?」

「ああ。ダチの飯崎 颯馬」

「拓海の友人の飯崎 颯馬と申します。急な訪問で恐縮ですが、大切な親友の妹さんで僕の教え子でもある紫苑さんの一大事と聞き、いてもたってもいられずアポイント無しで来てしまいました。

でも、本当に無事で良かったです」


早朝にご丁寧な挨拶とともにアポなし訪問を詫びるご学友様。


……もう先生じゃないから“ご学友様”で良いよね?


予告も無しに再び現れた初恋兼恩師に、嬉しいような照れくさいような複雑な感情を抱いていると……


「ソウ、飛行機の時間だ」


無情なヒロキ様の声が響き渡った。


「ええ~っ!?もうちょっと良いだろう?」

「……約束だ」


頬をぷくっと膨らませてごねる大人の男を、無表情で言い放つ大人の男。


「ちぇっ……。それじゃ、紫苑ちゃん、身体と“男”にはくれぐれも気を付けるんだよ?

石原さん、彼女の事宜しく頼むね?」

「あら?先生、私の苗字をご存知だったんですね?」

「くすくす…酷いなあ。これでも短い間だったけど君達に勉強を教えていたんだけど?」

「くすくす…嘘ですよ。任せて下さい!大切な親友は私が身体を張ってでも守りますから」

「くすくす…それを聞いて安心したよ。それじゃ、二人とも、良い夏休みを」


言うだけ言って去っていくヒロキ様とご学友様。

ってか、何で貴方様があたしの事を結花なぎさに頼むの?


あの誘拐事件よりもはた迷惑な“嵐”をあたしの心の中に巻き起こし、“彼”は優雅な足取りで去って行った。

あれからあたしの身辺にこれといった事件も無く、残りの夏休みを楽しんだあたしと結花なぎさはドロテアとひいお祖父ちゃんに見送られながら日本へと帰って行ったのだった。


これで高校編は終わりです。次から数年後にとびます。

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