↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ELVES《エルヴス》―命の器の継承者―  作者: 克
Gateway/代表選抜戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/54

第45話『境界戦』

「ティプスタン!」


 中央陣へ向かいかけていたミミリルが、背後の異変に気づいて振り返った。


 拳闘士の足元で、ティプスタンが片膝をついている。


 身体を起こそうとしても脚に力が入らず、肩まで地面へ引かれているように重かった。


 その視界の端で、赤い色が濃くなる。


 胸元の透明だった中央の宝石に、内側から赤色が満ちた。


「インスクリプト・ヴァーミリオン!」


 紅の疑似魔力が全身へ駆け巡る。


 それでも、膝は地面から離れなかった。


「くっ……!」


 同時に、駆け戻るミミリルの胸元から一本の紅光が伸び、ティプスタンへ繋がった。


 《レゾナンス》。


 ミミリルが右手を前へ広げた。


「伸縮槍(しんしゅくそう)――構築!」


 手のひらへ紅色の光が集まり、短い棒を形作っていく。


 ミミリルは腰のポーチから小さな球を取り出し、棒の先へ取りつけた。


 カチッ。


 固定すると、短棒の中央を捻る。


 カシュッ!


 短棒が伸び、先端に丸い球をつけた長槍へ変わった。


「ティプスタンから離れろっ!」


(待って、ミミリル! そいつに――)


 もう遅かった。


 ミミリルが踏み込み、長槍を頭上から振り下ろす。


 拳闘士は分厚い手甲を掲げた。


 ガッ!


 球状の槍先が手甲へ触れる。


 同時にミミリルの手首が返った。


 カチリッ。


 丸い球が二つに割れた。


「なっ――」


 パフッ!


 中に詰められていた赤い粉が弾け、拳闘士の顔面を覆った。


「ぐっ!?」


 拳闘士が反射的に目を閉じる。


 一拍遅れて、喉の奥から激しい咳が噴き出した。


「げほっ! ごほっ、ごほっ!」


 顔を背け、鼻から荒く息を吐く。


 だが吸い込むたびに刺激が喉の奥へ入り込み、咳はさらに酷くなる。


「ぐぁっ……目がっ! なんだ、これは……!」


 涙が溢れ、鼻水まで垂れる。


「げほっ、くそっ……!」


 男がふらつく。


 その大きな足が一歩後ろへ下がった。


 ゴッ。


「ふぐっ!」


 拳闘士の足が、膝をついていたティプスタンの頬へぶつかった。


 その瞬間だった。


「……!」


 全身を押さえつけていた重さが、唐突に消えた。


「ティプスタン!」


 ミミリルがすぐに駆け寄る。


「けほっ、けほっ……大丈夫か!?」


「う、うん。助かったよ」


 顔を上げたティプスタンは、思わず瞬きをした。


 ミミリルも涙目になっている。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫だど。ちょっとウチにもかかっただけだど。けほっ!」


 ズビビッと鼻をすする。


「今の……何?」


「あれか?」


 ミミリルが割れた球のついた槍を持ち上げた。


「ウチ特製の唐辛子粉玉だゾ! 近づかれた時に、相手の顔へブワッてするために作ったんだ!」


「唐辛子……」


 その一言で、ティプスタンの脳裏に嫌な記憶が蘇った。


 真っ赤な汁。


 鼻を刺す湯気。


 ガミが作った、あの特製スープ。


「それは……。強烈だね」


「だろ?」


 拳闘士はまだ数歩先で激しくむせ返っている。


 ティプスタンは立ち上がると、男の全身を包む灰色のオーラへ目を向けた。


「ミミリル。槍がアイツに当たった時、身体に何か違和感なかった?」


「ん?」


「急に重くなるとか」


 ミミリルの耳がぴくりと動く。


「そういえば……手甲に当たった直後、身体がズシッてなったような……」


「やっぱり」


「でも、すぐ戻ったゾ」


 ティプスタンは頬へ触れた。


「僕はナイフを刺した直後から動けなくなった。でも、あいつの足が僕に触れた瞬間、元に戻った」


 そこで言葉を止める。


 触れたのは自分だけだ。


 だが、ミミリルの重さまで同時に消えている。


「……もしかして」


「ん?」


「たぶん、あいつも同じなんだ」


 ティプスタンは拳闘士を見る。


「赤黒いオーラに触れて、武器が熱くなったように、あの灰色のオーラに触れると身体が重くなるんだよ。きっと」


「なるほど……」


 剣士の赤黒いオーラとは仕組みが違う。


 だが、どちらも不用意にオーラへ触れれば、何かしらの影響を受ける点では同じだった。


「風魔法――《ウィンド・ボール》!」


 バシュッ!


 岩壁の間から拳大の風塊が飛んだ。


 ドンッ!


「うぐっ……!」


 拳闘士の脇腹へ直撃し、巨体が横へよろめく。


 二人が振り向く。


 通路側の岩壁。


 そこにはコウとネラが立っていた。


 少し後ろでは、ライアンが壁へ片手をついていた。


「みんな!」


 ティプスタンの表情が緩んだ。


 三人とも無事だった。


 ライアンは二人を確認すると、すぐに周囲へ視線を走らせた。


 拳闘士。


 王女の防護壁。


 《グレイファング》の剣士と槍使いがいない。


 その意味を悟った途端、古傷の走る目元が険しくなった。


「ティプスタン、ミミリル! すぐに中央陣へ向かえ!」


「は、はい!」


「分かったゾ!」


 ティプスタンとミミリルは顔を見合わせ、頷く。


「ライアンさん!」


 駆け出しかけたティプスタンは、足を止めた。


「あいつの灰色のオーラに注意して下さい! 触れると身体が重くなります! でも、重くなった誰かにあいつ自身が触れると、全員まとめて解除されるみたいです!」


「!? そういうことか……」


 ライアンの目が見開かれた。


 拳闘士が、充血した目をティプスタンへ向けた。


「行かすかっ……!」


 咳で潰れた声を絞り出す。


「地の渦道(かどう)――」


 ドゴッ!


「ぐあっ!」


 拳大の石が拳闘士の顔面へ直撃した。


 拳闘士が仰け反る。


 ネラが黒革の鞭を振り切っていた。


 鞭先で掴んだ石を飛ばしたのだ。


「触れなきゃいいんでしょ?」


 ヒュッ!


 今度はコウが石を投げる。


 拳闘士が手甲で弾いたところへ、ライアンの放った石が肩へ当たる。


「二人とも、絶対に奴のオーラに触れるな! 距離をとれ!」


「了解!」


 三人の声を背に、ティプスタンとミミリルは岩壁の奥へ駆けていった。


 

★


 

 地下古代闘技場――中央陣付近。


「風の渦道(かどう)――《断界(だんかい)》」


「第一階位・解放」


 ドクンッ。


 《グレイファング》の槍使い。


 首筋に刻まれた呪印から緑色の光が溢れ、全身へ走った。


 足元から薄緑色の光が円形に広がり、槍使いを中心に、半径二メートルほどのドーム状の領域を形作った。


 キリカはその正面で、低く構えていた。


 細身の身体を覆うポット・ポークンと同じような胴着。


 両手両足には赤茶色の革製の手甲と脚甲を身につけている。


 少し離れた王女防護壁側では、ガミも岩壁の切れ目を抜けたところだった。


 槍使いは二人の位置を確かめる。


 キリカが先に地面を蹴った。


 腕輪の魔石から紫色の光が走る。


 ギュンッ!


 一気に間合いを詰め、正面から踏み込む。


 槍使いが長槍を突き出した。


 キリカは退かない。


 むしろ穂先へ向かって、さらに半歩。


「幻豹流(げんぴょうりゅう)――《影尾(えいび)》!」


 突きが届く寸前、身体を鋭く捻る。


 穂先を脇へ抜き、その回転を殺さず裏拳へ繋ぐ。


 幻豹流の中でも、今のキリカが最も速く繰り出せる返し技。


 ――のはずだった。


「……!?」


 薄緑色の領域へ入った瞬間、身体の動きが明らかに鈍った。


 身体が重いのではない。


 自分の感覚に身体がついてこない。


 シュッ!


「っ!」


 完璧にかわしたはずの穂先が頬をかすめた。


 槍使いはそのまま長槍を引き戻し、腰を回して柄を横薙ぎに振り抜く。


 キリカが両腕を腹部へ下ろす。


 身体が僅かに遅れた。


 メリッ!


「がっ……!」


 槍の柄が腹部へめり込み、キリカの身体を横へ弾き飛ばした。


 砂の上を転がり、片膝と手をつく。


「ぐっ……!」


 腹の奥が引きつる。


 息を吸おうにも横隔膜がうまく動かず、込み上げてきたものを堪えきれなかった。


「オエッ……!」


 槍の動きは捉えていた。


 《影尾》へ入るタイミングも間違っていない。


 ただ、あの領域へ足を踏み入れた途端、身体の動きが鈍くなった。


 槍使いが長槍を返す。


 倒れたキリカへ穂先を向けながらも、視線の端ではガミの位置を外していなかった。


 横から地面を蹴る音がする。


「おらぁぁぁっ!」


 ガミが飛び込んだ。


 左脚を振り抜く。


 槍使いはすでに長槍を横へ寝かせていた。


 ガッ!


 ダマスカス鋼製の脚甲が柄へぶつかる。


「!?」


 ガミの眉間にしわが寄る。


 槍使いは柄を押し返し、そのまま横薙ぎに払う。


 ブンッ!


 ガミはすぐに上体を沈め、槍の下を抜けると、後方へ跳んで領域の外まで距離を取った。


「……なんだ、今の」


 槍使いは追わない。


 長槍を構え直し、ガミを値踏みするように眺めた。


「貴様は攻撃特化か……」


「あん?」


「良かったな。速度特化なら、今ごろ貴様もあいつと同じだ」


 顎でキリカを示す。


「何言ってんだ、てめぇ」


 槍使いは応えずに続ける。


「選抜戦の時から疑問だったんだが……」


 槍使いの目が細くなった。


 胸元から肩、腕、脚へと、ガミの身体を巡る魔力の流れを探るように視線を滑らせる。


「身体へ魔力を巡らせているようでもない。装備にも魔力を宿しているようにも見えない」


 少し考えるように首を捻る。


「俺達をのしたのはなんだったんだ? 何か制約のある能力者なのか?」


「違ぇよ」


 ガミが親指で自分の胸を指した。


「俺様は循環系だ」


「なら、なぜ使わない?」


「使う必要がねぇからだよ」


 今度は槍使いを指差す。


「お前なんか、魔力使わなくても勝てらぁ!」


 槍使いの眉が僅かに動いた。


「……舐めてるのか?」


 声から軽さが消えた。


「選抜戦と同じだと思ってるなら、命取りだぞ」


 これ以上、二人へ付き合う気はないらしい。


 槍使いの視線が中央陣へ移る。


 直径四メートルほどの円形術式。


 槍使いの目的は、二人を倒すことではない。


 あそこへ一人で立つこと。


 槍使いが中央陣へ足を向けた。


「チッ」


 ガミが即座に距離を詰める。


 槍使いも横目で捉えていた。


 鋭い突きが伸びる。


 ガミは身体を半身にし、穂先を肩口から外した。


 その勢いのまま懐へ入り、槍使いの腹部へ左脚を叩き込む。


 ドッ!


「……っ」


 また、手応えが薄い。


 脚の速さも踏み込みもそのままなのに、衝突した瞬間だけ威力が失われている。


 槍使いが柄を返した。


 横薙ぎ。


 ガミは避けきれないと判断し、両腕を上げる。


 ガキィィィン!


「ぐっ……!」


 ダマスカス鋼製の手甲へ、魔力を宿した重い一撃が叩きつけられた。


 上手く防御した。


 だが、衝撃は両手首から肘まで突き抜け、骨の芯を痺れさせる。


 今のガミは、魔力を身体へ巡らせられない。


 本来なら拳や腕へ魔力を循環させ、装備と身体の双方で衝撃へ耐える。


 それができなかった。


 ティプスタンから受けた付与魔法の翠光が両腕に一瞬走る。


 それでも痛みは鋭く残った。


 ――これがなかったら、両腕とも折れてたかもしれねぇ。


「っの……!」


 槍の勢いに押され、ガミの身体が横へ飛ぶ。


 その瞬間、地面に残っていた左足のつま先を跳ね上げた。


 ザッ!


 砂が槍使いの顔へ舞う。


「なっ――!」


 槍を振り切った直後。


 至近距離から飛んだ砂を、完全には避けられなかった。


「くっそ……!」


 槍使いが目を固く閉じる。


 ガミは数メートル押し飛ばされ、キリカのすぐ横へ着地した。


 ズザザッ!


 砂を削って止まる。


 右のふくらはぎに痛みが走り、ガミの顔が一瞬歪んだ。


「くっ……」


「おい。ストーカー女」


 隣で片膝をついたキリカが、小声で呼ぶ。


「俺様はガミだ! ストーカー女じゃねぇ!」


「今はどうでもいい」


「よくねぇ!」


「それより、なんかおかしくないか? あいつ」


「……まあ、なんかおかしいな」


 ガミは痺れる両腕を軽く振った。


 キリカが薄緑色の領域を見る。


「あの中に入ると、私だけ明らかに遅くなる」


「俺様は変わんねぇ。しっかし、攻撃に力が乗らねぇ。さっきの蹴りなんか、まともに入ったのに全然効いてねぇ」


 キリカの目が細くなる。


 自分は速度。


 ガミは攻撃力。


 ――あの領域に入ると、能力が制限されるのか?


 分かるのは、このまま自分が真正面から奴と戦えば、圧倒的に不利だということだけだ。


「おい、ストーカー女。よく聞け」


「俺様はガミだっ! 豹女!」


 

★


 

 中央陣手前の岩壁地帯。


 《グレイファング》の剣士が、岩壁の間を駆けていた。


「……っ!」


 不意に胸元の呪印が脈打つ。


 赤黒い光が乱れ、全身を覆うオーラが大きく揺らいだ。


「くっ……!」


 足がもつれる。


 剣士は岩壁へ片手をつき、どうにか踏みとどまった。


「こんな時に……」


 懐から黒札を抜き、胸元へ押し当て、先端を破る。


 乱れていた赤黒い光が、次第に収まっていった。


「…………」


 背後から足音が近づいてくる。


「追ってきたか……」


 片手剣を握り直すと、剣士は岩陰へ身を潜めた。


 

★


  

「《直継》(擬式)――構築!」


 ティプスタンの右手のひらに紅の光が集まり、直継の形をした擬似体が構築されていく。


 《レゾナンス》でミミリルと繋がっている今、ティプスタンも構築系であるミミリルの能力を使うことができた。


 ミミリルは槍先の割れた球を外し、代わりに刃を追加構築した。


 中央陣へ続く岩壁の間を、ティプスタンとミミリルは進んでいた。


 ピーン。


「……!」


 頭の奥に鋭い反応が走った。


 視界には何も映っていない。


 それでも、右前方の岩陰に何かがいると分かる。


 ティプスタン自身の感覚ではない。


 《レゾナンス》を通じて、ミミリルの感知能力まで流れ込んできていた。


 ドシュ!


 岩陰から鋭い剣突きが飛び出した。


 ギャリ!


 ティプスタンは《緋幻紋の盾》を差し込み、眼前まで迫った切っ先を寸前で外へ流す。


 赤黒いオーラ。


 《グレイファング》の剣士だった。


 ――しまった!


「っつ!」


 直後、左手に強烈な熱が伝わった。


 盾を持っていられない。


 ティプスタンが反射的に手を離す。


 ガランッ!


 《緋幻紋の盾》が地面へ落ちた。


 剣士はすぐに片手剣を引き、間を置かず二撃目の突きを放つ。


 シュッ!


「とあっ!」


 横からミミリルの槍が走った。


 剣へ叩きつけるように横薙ぎで払い、ティプスタンへ伸びる切っ先を逸らす。


 剣士は追撃せず、すっと岩陰へ身を隠した。


「《緋幻紋の盾》(擬式)――構築!」


 ティプスタンが左手を広げる。


 紅の光が集まり、落とした盾と同じ形の擬似体を作り上げた。


 周囲には岩壁が密集している。


 左右の間隔も狭く、動きづらい。


 長槍を使うミミリルなら、なおさらだった。


「ん?」


 ティプスタンは、ふと違和感を覚えた。


 先ほどミミリルの槍は、赤黒いオーラを纏った剣に触れている。


 それなのに――


「あれ? ミミリル。熱くないの?」


「ん? あっ! そういえば、熱くないゾ!」


 ミミリルが自分の槍を見る。


 ティプスタンは首をかしげた。


 疑問を抱いたのは、剣士も同じだった。


 先ほどの一撃。


 死角から放ったにもかかわらず、ティプスタンは剣を防いだ。


 しかも、剣を受けたミミリルの槍には《灼界》が作用していない。


 剣士の視線が、ミミリルの槍へ止まった。


 ――構築物か。


 剣士は王女のいる方角へ目を向け、紫色の光柱を見あげた。


 これ以上、二人を相手にしている暇はない。


 剣士が片手剣を下げた。


「火の渦道(かどう)――《灼界(しゃくかい)》」


「第二階位・解放」


 ドクンッ。


 剣士の胸元の呪印が脈動した。


 片手剣。


 盾。


 その表面を覆っていた赤黒いオーラが、一斉に消えていく。


 剣士が握る剣の刀身が、切っ先から徐々に黒ずみ始める。


 黒はみるみる根元まで侵食し、やがて刀身全体を塗り潰した。


 ピシッ。


 黒い表面へ一本の赤橙色が走る。


 さらにもう一本。


 亀裂は枝分かれしながら刀身を這い、内側に溶岩を閉じ込めたような光を放った。


 黒く染まった剣を逆手に持ち替え――


 ドスッ!


 地面へ突き刺した。


 黒剣を中心に、地面へ赤い光が滲む。


 それは、水面へ油を落としたように薄く広がっていった。


「……え?」


 ティプスタンとミミリルが、地面の変化に気づく。


「なんだ、これ……?」


 二人は足元を見る。


 赤い膜は、すでに二人の靴の下まで届いていた。


 シュウゥゥ――。


「……?」


 ティプスタンの持つ、擬式構築物の剣と盾から白い煙が立った。


「なっ……!」


 構築物が霞み、輪郭がぼやけていく。


 握っている感触まで薄れていく。


「なんでだ!?」


 ミミリルの槍も同じだった。


 二人の手から、疑似魔力で形作られた構築物が跡形もなく消えた。


 ティプスタンは空になった手を見つめる。


「消え……た?」


 再び構築しようと手を開いた。


「直継――」


 そこで声が止まった。


「……っ?」


 息が詰まる。


 急に、全速力で走った後のように胸が苦しくなった。


 いや、それだけではない。


 腕が重い。


 指先に力が入らない。


「な、なんだ……これ……」


 ティプスタンの膝から力が抜けた。


 ガクッ。


「うっ……!」


 慌てて岩壁へ手を伸ばす。


 だが、身体を支えるだけの力が腕に残っていない。


 肩が壁へぶつかった。


「ティプスタン……?」


 ミミリルの声も掠れている。


 振り向くと、ミミリルも額に汗を浮かべていた。


「なんか……急に……」


 肩で息をしている。


 立っているだけなのに、呼吸が荒い。


「力が……入らないゾ……」


「ミミリル……」


 ティプスタンが足元を見る。


 赤い膜。


 二人とも、その上に立っている。


 ――これの影響なのか?


「くっ……」


 ティプスタンがもう一度足を動かそうとする。


 力が入らない。


 呼吸をするたび、身体の奥が空になっていくようだった。


 ガクンッ。


「……っ!」


 とうとう両膝が地面へ落ちた。


「ティプスタン!」


 ミミリルが手を伸ばす。


 だが、一歩踏み出したところで、その脚も崩れた。


「うっ……!」


 ドサッ。


 二人は同時に地面へ倒れ込んだ。


 

★46話に続く★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。