Mimiril Side Story Episode1 『スプリやってみるゾ! ―ミミリルの初体験―』
夜だった。
小高い丘の上。
見晴らしのいい場所に、ぽつんと一つテントが張られている。
外では――
ルベッカが火の番をしていた。
……はずだった。
「……すぅ……」
本を開いたまま、寝入っていた。
ぱちぱちと焚き火が鳴る音だけが、静かな夜に響いていた。
時刻は深夜。
――そしてテントの中。
「……よし」
ミミリルは、こっそりと息を吐いた。
胸がどきどきしている。
理由はひとつ。
スプリである。
ネクロクレイマンだけが持つ――人体分裂現象。
自分が、もう一人になる。
「クエンティンが言ってた方法は……たぶん、こうだったよな」
“たぶん”。
それが彼の口癖だった。
「まあ、なんとかなるゾ!」
ミミリルはニッと笑った。
準備を始める。
音を立てないように、そろそろと動く。
まず――
いつもつけている、ウサギ耳のヘアバンド型魔導具を外した。
「これ、邪魔そうだしな」
ポスッ、と横に置く。
次に――服。
「裸になる。だったよな?」
するすると脱いでいく。
床に敷かれた布団の上に、静かに横になる。
そして――
口に、透明な石を含んだ。
アニマストーン。
2センチくらいの扁平な丸い石。
「……ん?」
ふと、ミミリルは眉をひそめた。
「なんか……忘れてる気がするゾ……?」
記憶をたどる。
クエンティンの声がぼんやりよみがえる。
『……たぶん、ヤスラギ香焚けばマシ』
「……」
「……まあいいか!」
即決だった。
ミミリルは目を閉じる。
深呼吸。
静かな夜。
外ではルベッカが寝ている。
誰にも見つからない。
「スプリしたい」
強く、願う。
その瞬間――
『スプリシステム――キドウ』
「おおっ!?」
頭の中に、声が響いた。
『シンタイネンレイ……20 カクニン』
『コア……カクニン』
『ジョウケン クリア』
「ちゃんとできてるっぽいゾ!」
わくわくする。
『スプリ――カイシ』
次の瞬間――
ズキン。
「……あ?」
ほんの一瞬の違和感。
そして――
ドクン。
脳が、脈打った。
「……っ」
嫌な予感。
その直後。
――爆発した。
「い゛っっっっっ!!!!」
頭が割れた。
そう錯覚するほどの激痛。
「い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」
ミミリルは声を殺しきれず、のたうち回る。
体の内側が引き裂かれる。
骨の奥が軋む。
神経を直接かき混ぜられるような痛み。
「なにこれぇぇぇ!!」
涙が止まらない。
息ができない。
吐き気。
痙攣。
視界が白く弾ける。
「ちょっと痛いだけって言ってたじゃんかぁぁ!!」
クエンティンの顔が浮かぶ。
ぶん殴りたくなった。
「全然ちょっとじゃないゾぉぉぉ!!」
それは――3分ほど続いた。
3分が永遠に思えた時間。
そして。
ふっと。
痛みが消えた。
「……はぁ……はぁ……」
ミミリルは荒い呼吸を繰り返す。
全身、汗だく。
ぐったりと力が抜ける。
「……終わった……?」
ぼんやりと目を開ける。
そのとき――
隣に、誰かがいた。
「……お?」
赤い髪の少年。
裸で横たわって、静かに眠っている。
「おおー……!」
ミミリルの顔がぱっと明るくなる。
「できてるゾ!」
成功。
その瞬間だった。
少年の顔が歪んだ。
「……っ」
苦しみ始める。
体がびくりと跳ねる。
呼吸が乱れる。
「あー、次はそっちか」
ミミリルは苦笑した。
「さっきのやつ、今度は君の番だな」
他人事みたいに言う。
自分もさっきまで地獄だったのに。
ミミリルは口の中の石に気づく。
「……あ」
ぺっ。
アニマストーンを吐き出す。
「もうこれいらないんだよな」
テントの外へ、ぽいっと投げた。
再び少年を見る。
苦しんでいる。
でも――
ミミリルは、少しだけ優しく笑った。
そして。
ぽつりと声をかける。
「……ようこそ、だゾ」
まるで。
世界に迎え入れるように。
少年はまだ目を覚まさない。
それでも、ミミリルは楽しそうだった。
「どんなやつなのかな……楽しみだゾ!」




