↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ELVES《エルヴス》―命の器の継承者―  作者: 克
Gateway/代表選抜戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/54

第40話『知将の手札』

 大闘技場――地下通路中央広場。


 天井には光石が埋め込まれ、広場を昼間のように明るく照らしていた。


 コツ。


 コツ。


 石床を踏む音が近づいてくる。


 三方向へ伸びる通路。


 右手側の暗い通路から、三つの人影が現れた。


 三人はそのまま、光石の明かりの下へ歩み出た。


 ライアンは腰の剣から手を離さなかった。


 護衛たちも一斉に身構え、レグリア王国第三王女を囲んだ。


 先頭へ出たのは、レグリア王国近衛騎士団長。


 分厚い甲冑をまとった、ガタイのよい中年男だった。


 鋭い目が三人を射抜く。


「何者だ? 貴様ら」


 返事はない。


 現れたのは、先ほど《レッドスター》と戦った《グレイファング》の三人。


 頬に傷のある剣士。


 長槍を携えた馬型獣人。


 そして、大柄な拳闘士。


 剣士が護衛の向こうへ目を向けた。


「レグリア王国第三王女――リセリア・セレネ・レグリア様とお見受けするが、相違ないか?」


 近衛騎士団長の眉が動く。


「こちらの問いに答えよ」


 腰から剣を抜いた。


 シャッ――。


 槍使いが答える。


「なに。姫様にちょっと、ご同行願いたくてね」


 その一言に、王女の肩がびくりと揺れた。


 近衛騎士団長は三人を見回した。


「……貴様ら三人だけか?」


「ええ」


「ぶはっ!」


 近衛騎士団長が吹き出した。


 レグリア王国の騎士たちからも失笑が漏れる。


 両国の護衛を合わせれば二十人近い。


 それを相手に、たった三人。


 レグリア王国の王室外交官まで腹を抱えた。


「身の程知らずの大馬鹿者だの」


 ギルド長のライアンは笑わなかった。


 白髪の混じる黄金のたてがみの下、古傷の走る片目を細め、三人を見据えていた。


「チユチウ」


 ライアンは隣に控えていた小柄なネズミ系獣人へ顔を寄せた。


 耳元で何かを短く告げた。


 チユチウは頷く。


 ライアンがホウホ首相へ目配せした。


 ホウホ首相も小さく頷いた。


 その間にも、近衛騎士団長は三人を見下ろしていた。


「貴様らは確か……先ほどのグループ戦で敗退した奴らだな」


 剣士の顔を見て、鼻で笑う。


「一人の拳闘士に二人まとめてのされていたが、なんだ? 腹いせに血迷ったか?」


 槍使いの眉がわずかに動いた。


 剣士は何も言わない。


「まあよい。貴様らの処遇はあとで決める」


 近衛騎士団長が片手を上げた。


「拘束しろ」


「はっ!」


 護衛騎士たちが前へ出る。


 同時に、《グレイファング》の三人の呪印から光が走った。


 ドクンッ。


 

★


 

 少し前――。

 

 大闘技場地下――選手控室。


 天井に並ぶ光石のおかげで、控室の中は明るかった。


「カプリオスさん!」


 ティプスタンが顔を上げた。


「やあ」


 入口でカプリオスが片手を上げる。


 大きく湾曲した角に、ふんわりとした茶色の髪。


 口ひげとあごひげは整えられ、薄手の上着とベストを品よく着こなしている。


 背後には従者と軽装の護衛が一人ずつ付き従っていた。


「次の試合前に、皆さんの顔を見ておこうと思いましてな」


「応援に来てくれたのか!」


「もちろんです」


 カプリオスが従者へ目を向けた。


 従者は白い布のかかった大きなバスケットを、長机へ置く。


「なんだこれ?」


 ミミリルが覗き込む。


「メリシアが朝から腕によりをかけて作りましてな。皆さんでどうぞ」


 布が取られた。


 ふわりと甘い香りが広がる。


 中には、ドーナツやクッキーなどの焼き菓子がぎっしりと詰まっていた。


「おおっ!」


 《レッドスター》の声が揃う。


「うまそうだゾ!」


「すごい……」


 近くにいた選手たちも寄ってきた。


「メリシア理事長のお菓子だって!?」


 真っ先に飛び込んできたのは、《ファイブスター》のピクトだった。


「お前も食べるか?」


 ミミリルがドーナツを差し出す。


「食う!」


 受け取った直後。


「クッキーもくれ!」


「大きいのは渡さんゾ」


 二人のやり取りに笑いが起こる。


「メリシアが多めに作りましてな。よろしければ、皆さんもどうぞ」


 カプリオスが声をかけると、遠巻きにしていた選手たちも集まってきた。


「いいんですか?」


「いただきます!」


 従者が紙に包み、次々と配っていく。


「メリシア理事長のお菓子って、学園じゃ有名なのよ」


 アンナもクッキーを一枚取った。


「すごく美味しくて、滅多に食べられないの」


「ほんほあっ!」


 すでにドーナツを頬張っていたミミリルが大きく頷く。


「食いながらしゃべんな」


 レヴィもクッキーへ手を伸ばした。


 カプリオスはふと、控室を見回した。


「少なめですな」


 今年は個人戦の参加者が例年以上に多いが、今いるのはグループ戦の選手を合わせても三十人ほどだった。


 毎年、この時期は蒸し暑い。


 こんな日は、屋台で昼食を買った選手たちも長く外には残らず、涼しい地下で過ごすことが多いのだが。


 カプリオスはそれ以上気に留めず、椅子を借りた。


 その間にも焼き菓子は次々と選手たちの手へ渡り、バスケットの底が早くも見え始めている。


 カプリオスはクッキーを一つつまんだ。


「私も若い頃は、仲間とこうして星核戦で戦ったものです」


「おっちゃんも選抜戦に出たことあんのか?」


 ガミがクッキーを頬張りながら尋ねた。


「ええ。当時はこれでも、《知将カプリオス》なんて呼ばれていたんですよ」


 胸を張る。


「へぇー!」


 ティプスタンが感心する。


「知将! なんか凄そうだゾ」


 ミミリルの目も輝いた。


「まあ、戦闘はからっきしでしたけどね」


「なんだよ!」


 ガミが笑った。


 レヴィはカプリオスの腹を見る。


「その腹じゃな〜」


 カプリオスは自分の腹を見下ろした。


「若い頃はスマートだったんですよ。これでも、女性にはよくモテたんです」


「ほんとかよ」


「本当ですとも」


「怪しいゾ」


 皆が笑う。


 カプリオスも肩を揺らし、手の中のクッキーへ目を落とした。

 

 賑やかな笑い声に耳を傾け、懐かしそうに目を細める。


「食べないのか? タンクス」


 少し離れたところで、コウが紙包みを差し出していた。


「理事長のお菓子なんて滅多に食べられないぞ」


 タンクスは不満そうに眉を寄せる。


「俺は甘い物が苦手なんだよ」


「なら、オイラにくれ!」


 横からピクトが包みに飛びついた。


 タンクスはため息をつく。


「緊張感のねー奴らだぜ……」


「さて」


 カプリオスが立ち上がった。


「私はそろそろ戻ります」


「もう行くの?」


「ええ。来賓の皆さんも休憩に入る頃ですからな」


 服の裾を整え、皆を見る。


「では、次の試合も頑張ってくださいね」


「はい!」


「任せろ!」


「頑張るゾ!」


 カプリオスは穏やかに頷き、従者と護衛を連れて控室を出ていった。


 

★


 

 来賓用控室へ向かう地下通路。


 ここには光石がなく、壁際のろうそくと、先を歩く護衛の手提げランプだけが足元を照らしていた。


 控室の賑わいは、すぐに遠ざかった。


 カプリオスが階段へ足をかけようとした時。


「カプリオスさんっ!」


 下から声が飛んできた。


「?」


 ランプの明かりの向こうから駆け上がってきたのは、ネズミ系獣人のチユチウだった。


 灰褐色の毛並みは汗で湿り、その表情に普段の落ち着きはなかった。


「チユチウさん?」


「カプリオスさん……」


 チユチウは周囲を確かめながらカプリオスへ近づいた。


 息を整え、声を落とす。


「敵襲です。地下通路中央広場に賊が現れました」


 カプリオスの表情が変わった。


「状況は?」


「賊は三人。先ほど《レッドスター》と戦った《グレイファング》の剣士、槍使い、拳闘士です。第三王女へ同行を要求したあと、三人の身体に異変が起き……護衛が応戦を始めました」


「……三人?」

 

 カプリオスの眉がわずかに動いた。

 

 両国の護衛は二十人近い。

 

 すでに制圧されていてもおかしくない。

 

 ――陽動か。


「残る二人は?」


「分かりません」


 チユチウは続けた。


「三人の武器は大会用ではありませんでした。通路の衛兵も消えています。戦闘が始まったら、すぐ外部へ知らせるよう命じられました」


「……なるほど」


 カプリオスは顎ひげへ手をやった。


 狙いは第三王女。


 だが、《グレイファング》は五人。


 現れたのは三人だけ。


 残る二人の所在は分からない。


 しかも三人が手にしているのは、大会用の武器ではない。


 殺傷性のある私物武器は選手控室へ持ち込めず、この地下通路も、選手が自由に入れる場所ではない。


 通路を守る衛兵まで消えている。


 ――敗戦に腹を立て、血迷ったとは思えない。


「…………」


 選手控室の様子が頭をよぎった。


 こんな日は、地下で過ごす選手がもっといてもいい。


 それなのに、今日はグループ戦の選手を合わせても三十人ほどしかいなかった。


 それだけなら、異常とは言い切れない。


 だが、今は違う。


 もし、残る二人や別の仲間がすでに地下で動いているとしたら――。


 中央広場の三人だけを敵と考えるのは危険だった。


「賊は三人だけではないと考えた方がよさそうですな」


 チユチウの顔が強張る。


「……どうします?」


 カプリオスは顎ひげから手を離した。


「まずは、手札を用意します」


 後ろに控えていた従者へ向き直った。


「《レッドスター》と《ファイブスター》のメンバーを呼んできてください」


 

★41話に続く★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。