第31話『五人のかたち』
昼下がり。
メリシア邸――裏庭、旧訓練場。
「改めまして、アンナです。よろしくお願いします!」
アンナは少し緊張した面持ちで頭を下げた。
結い上げた栗色のポニーテールが、肩越しにさらりと揺れる。
今日は学園の制服ではない。
深い緑の短い上着の下には、生成り色の編み上げシャツ。
首からは、不格好な鳥をかたどったネックレスが下がっている。
茶色のハーフパンツを穿き、腰にはベルトと小物入れを備え、愛用の短杖を提げている。
足元は、膝下まで届く革の編み上げブーツ。
冒険者として依頼へ出る時の装いだった。
魔術師らしいローブやフードの類はない。
本人曰く、動きにくいから嫌なのだそうだ。
アンナを迎えた四人も、以前とは少し装いが変わっていた。
ティプスタン は《グレイブクロウの軽革鎧》。
ミミリルは《グレイブクロウの革胸当て》。
ガミ は《グレイブクロウの革胴衣》。
レヴィは《グレイブクロウの防護革衣》。
各々が身に着けているのは、玄冥郷から持ち帰ったグレイブクロウの外皮で仕立てた、艶のない漆黒の防具だった。
昨日、アンナが五人目として加わることが決まった。
だが、五人で腰を据えて話すのは、これが初めてになる。
「よろしくなんだゾ!」
ミミリルが元気よく手を挙げた。
「俺様の邪魔すんなよ!」
「いきなりそれ?」
「何がだよ?」
「そういうところだゾ、ガミ」
「だから何がだよ!」
早々に騒ぎ始める二人を見て、アンナがティプスタンへ顔を寄せる。
「……いつも、こんな感じなんですか?」
「うん」
「大丈夫なんですか?」
「……たぶん」
アンナは苦笑した。
五人は訓練場の隅へ腰を下ろした。
まずは、互いに何ができるのか。
そして、何ができないのか。
そこから確認することになった。
「じゃあ、僕から話すね」
ティプスタンは羽織っている赤いマントへ手を添えた。
その下には、胸元から脇腹を覆う軽革鎧が覗いている。
「僕には魔力がない。だから、この術式魔導具のマントで疑似魔力を作って戦うんだ」
「疑似魔力……」
「《インスクリプト・ヴァーミリオン》を使うと、三分間だけ身体に疑似魔力を巡らせることができる」
ティプスタンは胸元の留め金具を指した。
五枚の赤い花弁が、中央の丸い宝石を取り囲んでいる。
「一回使うごとに、この花弁が一枚ずつ透明になる。元へ戻るまで、だいたい四時間。だから、短時間に使えるのは五回までだね」
続けて、中央の宝石を指さす。
「こっちは、発動時間と再使用できるかを教えてくれるんだ。残り時間が少なくなると明滅して、三分経つと透明になる。そこから三分待てば赤色へ戻るんだ」
「つまり、三分間使った後は、最低でも三分間使えないんですね」
「うん」
アンナは留め金具を興味深そうに眺めた。
「花弁が残りの使用回数。中央の宝石が効果時間と再使用の状態……。戦っている最中でも分かりやすい仕組みね」
「改良してもらったんだ。前は全部、感覚で判断するしかなかったんだけどね」
「さすがルベッカだゾ!」
ミミリルが感心したように頷く。
「それと――」
ティプスタンは少し間を置いた。
「最近、もう一つ使えるようになった力があるんだ」
「もう一つ?」
「《ヴァーミリオン・レゾナンス》」
「レゾナンス……?」
「簡単に言うと、僕と誰かを繋ぐ力……だと思う」
「繋ぐ?」
「繋がると、僕はその人の力を使える。それから、《インスクリプト・ヴァーミリオン》が発動している間なら、相手も僕の疑似魔力を使えるんだ」
「疑似魔力を……えっ? その人の力を使えるって、どういうことですか?」
アンナが困惑したように眉を寄せる。
「実際に見せた方が早ぇんじゃねーか? アニキ」
レヴィに促され、ティプスタンは胸元へ手を添えた。
「インスクリプト・ヴァーミリオン!」
一枚の花弁が輝き、透明へ変わった。
紅の疑似魔力が全身を駆け巡る。
ティプスタンがレヴィへ意識を向けると、二人の間に細い紅光が伸びた。
そのままアンナへ手を向け、三つの付与魔法を立て続けに使った。
三度の翠光が瞬き、アンナの全身に力がみなぎる。
「えっ……?」
アンナは驚いたように自分の両手を見る。
「今のは全部、レヴィの付与魔法だよ」
「す、すごい……。こんなことまでできるなんて」
「こんな感じで、僕はレヴィの力を使える。逆にレヴィは僕の疑似魔力を使えるから、自分の魔力を消費せずに魔法を使えるんだ」
「今のところ、疑似魔力で魔法を使っても、呪怨が悪化する兆候は出てねーからな」
レヴィは得意げに両手を頭の後ろで組んだ。
アンナの表情が引き締まった。
ガミ、ミミリル、レヴィ。
三人が五精霊の呪怨を抱え、自身の魔力を自由に使えないことは聞いている。
そんな三人にとって、自分の魔力を使わずに戦えることの意味は大きい。
「……もしかして」
「ん?」
「この前の荷車の時、ガミさんが急に力を出せるようになったのも?」
「あ」
ティプスタンも思い出した。
「それだよ。あの時、僕とガミが初めて繋がったんだ」
「繋がっていたんですか?」
「うん。僕とガミの間に、紅い光が伸びてた」
「……そんな光、見えませんでしたけど」
「レゾナンスの光は、繋がった相手にしか見えないみたいなんだ」
「ああ……」
アンナは腑に落ちたように頷いた。
「あの時、何が起きたのか不思議だったんです」
「僕も、その時はよく分かってなかったよ」
「誰とでも自由に繋げるんですか?」
「今、狙って繋がれるのは、俺っちとミミリルだけだぜ」
「今のところなっ!」
ガミが不機嫌そうに言った。
ティプスタンは困ったように笑った。
「勝手に繋がったこともあるし、狙っても繋がらないこともあるんだよね」
「ガミさんとは?」
「あの時の一回だけ。あれも、僕が狙ったわけじゃないんだ」
「それなら、現時点ではガミさんへ安定して疑似魔力を送れないってことね」
「うん」
ガミが不満そうに眉を寄せた。
「繋がらなくたって、俺様は戦えるぞ」
ガミは拳を打ち合わせた。
「魔力がなくても、そこらの奴には負けねぇよ」
「でも、循環系の魔力を身体へ巡らせられない今は、ほとんど生身なんだよね」
ティプスタンが言う。
「いつもの速さや力も出せないし、魔力が宿った攻撃をまともに受けたら危ないよ」
ガミは苦い顔をした。
「んなもん、当たらなきゃいいだけだぜ!」
「その自信はどっから来るんだよ……」
レヴィの目が細まる。
アンナは思案するように腕を組んだ。
「なら、ガミさんと直接レゾナンスできなくても、レヴィ君の付与魔法で身体能力を補う手はあるわね」
自分を包んでいる付与魔法を実感しながら続ける。
「生身のままよりは動けるし、攻撃を受けた時の危険も減らせるはずよ」
「レゾナンスが繋がりゃ、そんな心配いらねぇ!」
「繋がる根拠はあるの?」
「昨日、ティプスタンに唐揚げをやった!」
「唐揚げ?」
「力になりたいって気持ちが大事なんだゾ!」
ミミリルが得意げに口を挟む。
「好きって気持ちもな!」
ガミも胸を張った。
「なに急にキモいこと言ってんだよ」
レヴィが真顔で返した。
「なんだと!」
「……話が進まないので、続きをお願いします」
「う、うん」
アンナに促され、ティプスタンは話を戻した。
「繋がっている間は、声を出さなくても頭の中で言葉を伝えられる。それと、二人同時に繋げられることも分かってる」
「頭の中で……」
「しっかし、アニキの能力、分かんねーこと多すぎだろ」
レヴィが呆れたように言った。
「僕が一番そう思ってるよ……」
ティプスタンは肩を落とした。
すると、アンナが自分を指す。
「私とも繋がれるんでしょうか」
「試してみる?」
「ぜひ、お願いします!」
アンナの濃褐色の瞳が、きらりと光る。
話しているうちに、中央の宝石は再び赤色へ戻っていた。
二人は向かい合った。
ティプスタンが胸元へ手を添える。
「インスクリプト・ヴァーミリオン!」
二枚目の花弁が輝き、透明へ変わった。
紅の疑似魔力が全身を駆け巡る。
「じゃあ、いくよ」
「はい!」
ティプスタンはアンナへ意識を向ける。
何度か集中し直してみる。
だが、二人を繋ぐ紅い光は現れない。
やがて、中央の宝石が明滅を始めた。
時間切れが近づくにつれ、赤い明滅の間隔が少しずつ短くなっていく。
それでも、紅光は現れなかった。
中央の宝石から赤い色が抜け落ちた。
同時に、全身を包んでいた疑似魔力も消えていく。
「ダメ……みたいですね」
胸元で両手を合わせ、自分なりに集中していたアンナが、残念そうに肩を落とした。
「ごめん」
「どうしてティプスタン君が謝るんですか」
アンナは微笑んだ。
「初めてなんですから、これからですよ」
そこへ、ガミが勢いよく割り込んだ。
「俺様もやる!」
「え?」
「昨日の続きだ! やるぞ!」
ガミはティプスタンの正面へ座り込み、腕を組んだ。
透明になった中央の宝石を、じっと睨みつける。
やがて、三分が経った。
透明だった中央の宝石へ、内側から赤い色が静かに広がっていく。
「よし! 戻ったな!」
ガミが勢いよく立ち上がる。
ティプスタンは、もう一度を発動した。
ガミと向き合い、意識を集中する。
――結果。
「なんでだよぉぉぉぉ! 唐揚げ返せよぉぉぉ!」
ガミは地面へ両膝をついていた。
「唐揚げ関係ねーだろ」
レヴィが冷たく言い放つ。
「俺様は全部やったんだぞ!」
「何をだよ」
「優しくした! 水も持ってった! 唐揚げもやった!」
「やっぱキモいな」
「ちっくしょぉぉぉぉ!」
★
ひと騒ぎした後。
「じゃあ次、俺様な!」
ガミが拳を突き出した。
「俺様は《循環系》! 魔力を身体に巡らせて、ぶっ飛ばす!」
「雑すぎんだろ」
レヴィが呆れる。
「魔力さえ使えれば、思いっきり暴れられんだけどな!」
「使えねぇ方が、周りは安全でいいんじゃねーか?」
「んだと、コラッ!」
「次はウチだゾ!」
ミミリルがウサギ耳型魔導具をぴょこんと動かした。
「ウチは索敵と槍で戦うゾ! 敵を見つけて、近づいてきたら槍で止める!」
「ガミみたいに敵へ突っ込むより、近づいてくる相手を止める方が得意だゾ!」
「誰が考えなしに突っ込んでるって?」
「そこまで言ってないゾ」
「それから、ミミリルの魔力系統は《構築系》なんだ」
ティプスタンが補足すると、アンナは頷いた。
「次、俺っちだな」
レヴィは投擲紐を手に取った。
「俺っちは《生成系》。こいつで遠くから狙うのと、短時間だけ効く付与魔法が得意だ。動いてる相手でも、射線さえ通りゃ狙えるぜ」
アンナは先ほどの実演を思い返した。
「なるほど。とっさの遠距離攻撃もできるし、味方の身体能力も補える。かなり幅広く援護できそうね」
「まあな!」
レヴィは得意げに鼻を鳴らした。
「じゃあ、最後は私ね」
アンナは腰の短杖へ手を添えた。
「私も《生成系》。使うのは、ほとんど風魔法」
「ほとんど?」
「風魔法以外は……あんまり得意じゃないの」
アンナは少しだけ目を逸らした。
「風をぶつけて相手の体勢を崩したり、飛んでくる物の軌道を逸らしたり。味方の背中を押して、移動や跳躍を助けることもできるわ」
「前でも後ろでも活躍しそうだね」
ティプスタンが言うと、アンナは少し照れた。
「その代わり、私一人で相手を倒し切るのは難しいです。誰かと連携した方が、力を発揮できると思います」
これで、五人に何ができて、何ができないのか。
おおよその輪郭は見えてきた。
「次は、グループ戦の細かいルールも確認しておかない?」
アンナが話題を切り替えた。
「そういえば、仲間探しに夢中で、細かなところまでは確認してなかったね」
ティプスタンが言った。
「ウチも、五人で戦うってことしか知らないゾ」
「ざっくりとなら、まあ」
「あん? 五人でまとめて戦うんじゃねーのか?」
ガミだけは、それで十分だと思っていたらしい。
アンナは近くに落ちていた棒を拾った。
「ただ相手を倒せば終わり、という試合ではないのよ」
「じゃあ何すんだ?」
「まず、試合場には二つの《星核》というものが置かれるわ」
アンナは地面へ大きな長方形を描き、その両端へ小さな丸を一つずつ加えた。
「こっちが私たちの星核。反対側が相手の星核よ。先に相手の星核を完全破壊した方が勝ち」
「なるほど!」
ガミが拳を叩いた。
「じゃあ俺様が突っ込んで――」
「そのまま殴ってもダメよ」
「なんでだよ!」
「星核は防護魔法で覆われてるの。その状態で攻撃しても、有効な損傷にはならないわ」
アンナは長方形の中央へ、一つの円を描いた。
「相手の星核へ有効な攻撃を通すには、先にこの《中央陣》を占有する必要があるの」
「占有?」
「円の中に、味方が一人だけいる状態を作るの」
アンナは小石を一つ、中央陣へ置いた。
「これで占有成立です。占有している間だけ、相手側の星核を覆う防護魔法が解除され、攻撃が有効になります」
「中央を取ってる間に、別の奴が星核を壊すわけだな」
レヴィが言う。
「そう。ただし――」
アンナは同じ円へ、もう一つ小石を入れた。
「味方が二人以上入れば、占有は解除されるわ」
「えっ、味方でもダメなのか?」
ミミリルが身を乗り出した。
「ええ。占有を維持できるのは、味方一人だけよ」
片方の小石を取り除き、代わりに黒い石を置く。
「敵が一人でも入れば争奪状態になって、占有は解除。占有している人が円の外へ出ても同じよ」
「つまり、味方が一人だけ中に残って、敵を入れないようにするんだね」
「はい」
「相手を全員倒したら勝ちじゃねーのか?」
ガミが尋ねた。
「人数が減っても、星核を壊さない限りは基本的に勝ちにはならない。逆に、相手が五人残っていても、先に星核を破壊すれば勝ちになるわ」
「なら、相手を全員ぶっ倒してから星核を壊してもいいんだな!」
「できるなら、それでも構わないけど……」
アンナは地面に描いた試合場を、棒の先で軽く叩いた。
「それと、試合時間は十分間よ。時間までにどちらの星核も壊せなかった場合は、中央陣を占有していた累計時間で勝敗を決めるの」
「累計時間?」
「占有が成立している間だけ、その陣営の時間が加算されるわ。中央陣に組み込まれた術式が自動で記録して、試合終了後に審判が確認するのよ」
「じゃあ、星核を壊せなくても、中央を長く取ってれば勝てるのか?」
「そう。相手より一秒でも長ければ、判定勝ちになるわ」
「たった一秒でもか?」
「一秒でもよ。ただし、どれだけ上回っていても、星核を破壊されたらその時点で負け」
「なるほどな」
レヴィが顎へ手を添えた。
「星核を壊せば即勝ち。壊せなかった時だけ、中央を長く取ってた方が勝つってことか」
「そういうことね」
「じゃあ、両方とも一度も中央を取れなかったらどうなるの?」
ティプスタンが尋ねた。
「双方とも敗北扱いとなって、勝利者は出ません」
「両方負けるの?」
「はい。そんなことは、めったにありませんけどね」
「そんな心配いらねーよ!」
ガミが拳を打ち合わせた。
「俺様が最初に中央を獲るからな!」
「もう自分が中央へ行くことになってんのかよ」
レヴィが呆れた声を漏らす。
「相手もここ取りに来んだろ?」
「まあ、当然だな」
「だったら、強ぇ奴が来るに決まってる」
ガミの口元が吊り上がる。
「そいつと真正面からやれるなら、俺様向きじゃねーか!」
「結局そこかよ」
「でもガミ」
ミミリルが中央陣を指した。
「取った後も、中に残らないとダメなんだゾ?」
「それがどうした?」
「敵が目の前を走っていったら?」
「追いかけてぶっ飛ばす!」
「だから追うなって話だよ」
レヴィが呆れる。
「それに、レゾナンスなしで中央を守り続けられるのかよ?」
「できらぁ!」
「相手が魔力で身体強化してても?」
「できらぁ!」
「答えになってねぇぞ」
「うるせぇ!」
このままでは話が進まない。
アンナは地面に散らばる小石へ手を伸ばした。
「ひとまず、自分たちを石に見立てて考えてみない?」
色の違う五つを拾い、それぞれに振り分ける。
灰色がガミ。
緑色がレヴィ。
黄色がミミリル。
茶色がアンナ。
赤色がティプスタン。
相手側には、黒い石を五つ並べた。
「まずは、試合開始時に動きやすそうな場所へ置いてみて」
「俺様はここ!」
ガミは迷わず、自分の石を中央陣へ置いた。
「そこだけは譲らねーんだな」
「強ぇ奴が来る場所だからな!」
「ウチはガミの近くだゾ!」
ミミリルは中央陣のすぐ外へ黄色い石を置いた。
「敵が中へ入ろうとしたら、槍で邪魔する!」
「俺っちは……この辺だな」
レヴィは自陣寄りの斜め後方へ緑色の石を置いた。
「中央にも手が届くし、自分たちの星核からも離れすぎない方がいい」
アンナは中央と自陣の中間へ、茶色の石を置いた。
「私はここね。前にも後ろにも動ける場所がいいわ」
「じゃあ僕は――」
ティプスタンは、自陣の星核近くへ赤い石を置いた。
「ここで星核を守る。かな」
「……待てよ」
レヴィが配置を眺めた。
「これ、守る方に寄りすぎじゃね?」
「え?」
「中央の占有時間は稼げるかもしれねぇ。でも、誰が向こうの星核を壊しに行くんだよ?」
アンナは中央陣へ置かれた灰色の石を見た。
「そうね。中央を長く取れれば判定では有利になる。でも、星核を壊されたらそれまでだもの」
「やっぱ、中央を取ったら星核は狙った方がいいな」
レヴィが敵陣側へ目を向けた。
「ええ。中央を維持する役と、自陣を守る役。それとは別に、星核を攻撃する役も必要ね」
「じゃあ俺様が――」
「お前は中央から出んな」
「だったらウチが行くゾ!」
「ミミリルが離れたら、ガミの援護が薄くならない?」
ティプスタンが尋ねる。
「なら俺っちが狙うか」
レヴィは緑色の石を少し前へ動かした。
「中央を取れたら、射線を探して相手の星核を攻撃する」
「それが一番よさそうね」
アンナが頷く。
「私はレヴィ君が動きやすいように援護するわ。必要なら、一緒に前へ出る」
「でも、二人とも前へ出たら、自陣の守りはアニキだけになるな」
「ウチが中央の近くにいるから、戻ることもできるゾ」
「ミミリルが離れたら、ガミの援護がなくなるだろ」
レヴィが言う。
「一人の場所を変えるだけで、他も全部変わるんだね」
ティプスタンは五つの石を見つめた。
中央陣を維持する者。
その外から支える者。
相手の星核を攻撃する者。
自分たちの星核を守る者。
五人しかいないのに、必要な役目はいくつもある。
「そういえば」
アンナがティプスタンの石を指した。
「ここから中央まで、レゾナンスは届くんですか?」
「あ……」
「距離に制限はあるんです?」
「そこも正確には分からないんだ」
ティプスタンは、自分の石と中央陣を見比べた。
「ミミリルとレヴィで試した時は、訓練場の中でかなり離れても繋がったままだった。でも、限界を調べる前に《インスクリプト・ヴァーミリオン》の三分が終わっちゃって」
「離れた相手とも繋げるんですか?」
「少なくとも、相手がどこにいるか分かっていれば、離れていても成功したよ」
「それなら、ティプスタン君が後方にいても、中央にいる仲間を支援できる可能性はありますね」
「ガミとは、まだ狙って繋げないけどね」
「…………」
全員の視線がガミへ集まった。
「俺様が悪いみたいに言うな!」
「なんも言ってねーだろーが」
レヴィが言う。
アンナは地面へ置かれた灰色の石を見つめた。
「レゾナンスなしで、ガミさんが中央を維持できるかも課題ですね」
「できらぁ!」
「相手が一人とは限らないわよ」
「何人来てもぶっ飛ばす!」
ガミの根拠のない言葉に、アンナが少し困ったように腕を組んだ。
「大丈夫なのかよ……これ」
レヴィがため息をつく。
「まあ、分かってることだけで考えるしかねーな」
レヴィは黒い石を一つ手に取った。
「じゃあ次。相手に中央取られたら?」
「俺様が奪い返す!」
「ウチも外から手伝うゾ!」
「その間に別の奴が、俺らの星核へ来たら?」
「僕とアンナさんで止める……かな」
ティプスタンが答える。
「私は最初、中央と自陣の間にいるから、どっちにも動けるわ」
「なら俺っちは、敵の動きを見て前後を決める」
レヴィが自分の石を動かした。
「星核へ来る奴が多けりゃ戻る。中央が取れそうなら、攻撃へ回る」
「でも、相手がどう動くか分からないと、細かいところまでは決められないね」
「そうね」
アンナは地面の石を見つめた。
「最初から、すべての動きを決めるのは無理だと思うわ」
「じゃあ、どうすんだよ?」
「今は、もっと大まかでいいんじゃない?」
「大まか?」
「試合開始時にどこへ立つか。中央を取っている時と、相手に取られた時に何を優先するか。そのくらいよ」
アンナは、動かしていた石を一つずつ戻していく。
「相手の能力も作戦も分からないもの。細かな動きは、実際に戦いながら変えるしかないわ」
「そっか……」
ティプスタンは、並び直された石を見る。
「だったら、最初の動きと役割だけ合わせておこうか」
「うん。そこから先は、実際に動いて考えましょう」
「なら俺様は中央!」
ガミが、自分の石を真っ先に中央陣へ置いた。
「それはもう分かったって」
「中央は相手も取りに来るからな」
ガミが得意げに胸を張る。
「強ぇ奴が来る場所を俺様が押さえてりゃ、その間ずっと占有時間も増える。相手の星核も殴れるようになるし、他の奴らは好きに動ける!」
「……一応、考えてはいるんだな」
「一応ってなんだ!」
「ガミには合ってると思うゾ!」
ミミリルも自分の石を置いた。
「ならウチは中央の外から、ガミを援護するゾ! 敵を中へ入れないようにするんだゾ!」
「俺っちは後ろ寄りから全体を見る」
レヴィも続ける。
「中央を取れたら、射線を探して相手の星核を狙う。取られた時は、中央と自陣の両方を牽制する」
「私は、その間に入るわ」
アンナも石を戻した。
「中央が押されたら前へ。自陣が危なければ後ろへ。中央を取れたら、レヴィ君が攻撃しやすいように支援する」
「僕は自陣側かな」
最後に、ティプスタンが赤い石を置いた。
「星核を守りながら、レゾナンスでみんなを援護する。危なくなったら、僕も前へ動くよ」
「ひとまず、それくらいでいいんじゃね?」
レヴィが五つの石を見回した。
細かな動きまでは決まっていない。
ガミとレゾナンスできる保証もない。
それでも、試合開始直後の配置と、それぞれの役割。
最低限の方針だけは、五人で共有できた。
「よし!」
ガミが拳を打ち合わせる。
「じゃあ明日の特訓で、まずはこの動きを試してみるか!」
「それなら俺っちも異論なし」
「あ、それならちょうどいいゾ!」
ミミリルが、思い出したように声を上げた。
「クエンティン、明日は選抜戦を想定した特訓をするって言ってたゾ!」
「星核戦をやるのか?」
「そこまでは知らないゾ!」
「肝心なところ聞いてねーじゃねぇか!」
「舞台を整える時間が欲しいって言ってたゾ!」
「舞台……?」
アンナが首を傾げた。
「何を用意してるのかしら」
「なんでもいい!」
ガミが待ちきれないとばかりに身を乗り出した。
「ぶっ飛ばす相手がいりゃ、それでいい!」
「お前、もう作戦どうでもよくなってんだろ」
レヴィが肩をすくめた。
★
その後も、いくつかの状況を想定し、石を動かしてみた。
だが――
「フンッ! フンッ!」
やがて訓練場の端から、勢いのいい声が聞こえ始めた。
ガミだった。
自分の役割が決まったところで満足したらしく、いつの間にか一人で拳を振っている。
「……あいつ、いつ抜けた?」
レヴィが半眼になる。
「ウチが明日の特訓について伝えた後、すぐだゾ」
「もう考える気ねーじゃねぇか」
「俺様は中央で戦う!」
聞こえていたらしい。
ガミは拳を振りながら言い返した。
「だったら考えるより、勝てるように鍛えた方が早ぇ!」
「そういう問題じゃねーだろ……」
レヴィは額を押さえた。
「でも、今日はこの辺でいいんじゃない?」
アンナが空を見上げる。
いつの間にか陽は西へ傾き、訓練場には長い影が伸びていた。
「そうだね」
ティプスタンも立ち上がった。
「明日、実際に動けば分かることもあるゾ!」
「今日決めた配置を試せる特訓なら、ちょうどいいんだけどな」
「どんな特訓か楽しみだゾ!」
そんなやり取りを聞きながら、ティプスタンは地面へ目を落とした。
そこには、五つの色石が並んでいた。
昨日、アンナが加わって五人になった。
けれど、人数が揃っただけではチームにはならない。
誰かが前へ出た時、誰が支えるのか。
一人が持ち場を離れれば、残る四人の役割も変わる。
今日は初めて、それを五人で考えた。
まだ粗い。
実際に戦えば、思い通りにはいかないかもしれない。
見落としていることも、あるだろう。
それでも――
「ティプスタン君?」
アンナが振り返った。
夕陽を受けたポニーテールが、その背で揺れる。
「どうしました?」
「……ううん」
ティプスタンは五つの石を見て、笑った。
「なんでもない」
選抜戦まで、あと四日。
ばらばらだった五人に。
ようやく、自分たちなりの〝かたち〟が見え始めていた。
★32話に続く★




