第8話 青白の覚醒、蒼氷の支配
青白い光が、揺らいだ。
リアンの足元。
床に散った水が、光に応じるように、わずかに震える。
――届かせる。
すべてを、凍らせてでも。
意識が、深く沈む。
氷だけでは足りない。
止めるだけでは、守りきれない。
流れを、変える。
水と氷――相容れないものを。
ひとつにする。
次の瞬間。
リアンの足元から、水が湧き上がった。
床を這うように広がる。
だが――無差別ではない。
その流れは、迷いなく夜織だけを標的に選ぶ。
一直線に、奔流となって走る。
絡みつき、捕らえ――凍る。
触れた水が、氷へと変わる。
だが――止まらない。
そのまま、押し流す。
抗う間もなく。
夜織の体が、まとめて後方へ引き剥がされる。
寝台から。
ティアラから。
届かない位置まで――強引に引き離す。
陣形が、崩れた。
踏み込もうとした影も、例外ではない。
足元から伸びた流れが先に絡みつき、
凍りつき、そのまま弾き出される。
近づけない。
踏み込めば、捕まり、凍る。
すべての影が、その場から剥がされていく。
リアンの瞳が、わずかに細められる。
――まだ、届く。
流れと凍結が、途切れない。
意思が、そのまま現象になる。
踏み込ませない。
近づかせない。
それだけで、十分だった。
その瞬間。
クラウスが、動いた。
「……ここまでだ」
気配が、途切れる。
夜織が反応する。
だが、その動きよりも早く――
すでに間合いの内側へ入り込んでいた。
結果だけが残る。
斬り裂かれた影が、上下に分かれ、音もなく崩れ落ちる。
夜織の迎撃は、間に合わない。
踏み込む前に、崩されている。
崩れた流れを逃さず、
ユラの刃が重なる。
「……逃がしませんよ」
静かな一閃。
クラウスの一手に、わずかに遅れて重なる。
それでも、夜織の流れは確かに崩れていた。
流れに呑まれた影が、次々と後方へ弾かれていく。
アルバートは、動かない。
いや――動けない。
脇腹を押さえたまま、
血が指の隙間から滲んでいる。
それでも崩れない。
ティアラを覆うように。
その姿が、視界の端に入る。
――まだ立っている。
青白い光が、わずかに強まる。
室内の空気が、冷える。
流れを、支配する。
夜織が踏み込もうとした瞬間、その動きが止まる。
夜織の動きが、止まった。
その中の一体が、低く息を吐く。
「……これ以上は、無理だ」
青白い光。
氷と水の異常な制御。
そして――近づけない流れ。
前に出れば、捕まる。
踏み込めば、そのまま凍る。
届かない。
ティアラに。
「……撤退する」
短く。
迷いなく。
次の瞬間。
影が、散った。
窓へ。
壁へ。
音もなく、外へと消えていく。
残されたのは――
凍りついた床。
崩れた影。
そして、なお揺れる青白い光。
リアンは、動かない。
視線を外へ向けたまま。
――終わったか。
まだ、終わってはいない。
だが――退いた。
胸の奥に張り詰めていたものが、わずかに緩む。
そのとき。
光が、揺らいだ。
強すぎる力が、制御を外れかける。
――まずい。
抑えきれない。
リアンの指先が、わずかに震える。
それでも、崩さない。
守るために使った力を、ここで暴走させるわけにはいかない。
ゆっくりと。
意識を引き戻す。
氷が、静かに軋む。
水の流れが、止まる。
青白い光が、徐々に弱まっていく。
完全には消えないまま。
静かに、残る。
リアンは、息を吐いた。
――まだ終わっていない。
だが。
守り切った、その感触だけが、静かに胸に残った。




