第7話 第七王子、覚醒
リアンの背から滲み出した青白い光は、
空気を押し広げるように室内を満たしていた。
取り囲む夜織の動きが、わずかに鈍る。
踏み込みかけた足が止まる。
だが――完全には止まらない。
次の瞬間。
夜織の一体が、動いた。
狙いは一直線。
リリスが弾かれ、わずかに空いた守りの隙。
その隙を、正確に突く。
速い。
だが。
アルバートは、理解していた。
その軌道。
その意図。
来るべき一手を。
迷いはなかった。
一歩、踏み出す。
その身を差し出すように、ティアラの前へ。
夜織と正面からぶつかる。
刃が走る。
深く、アルバートの脇腹へ突き立った。
血が滲む。
そして――
アルバートを貫いた刃が、引き抜かれる。
血が、散った。
「……っ」
低く、息が漏れる。
体がわずかに揺れる。
それでも倒れない。
その背は、なおティアラを覆っていた。
「お父様……!」
リリスが声を絞り出す。
崩れそうな体を支えながら、立ち上がろうとする。
だが、足に力が入らない。
壁に手をつく。
それでも、持ち上がらない。
そのまま、崩れる。
血に染まるアルバートの姿。
リアンの視線が、弾かれるように右後方へ流れる。
脇腹に刻まれた傷から、血が滴っていた。
胸の奥が、強く軋む。
青白い光が、強まる。
冷気が走る。
空気が、凍りつく。
そのとき。
低い声が落ちた。
「……やはりか」
夜織の一人が、リアンを見据える。
「……その光」
「第七王子──」
確信を帯びた声だった。
空気が、わずかに歪む。
思考が一瞬だけ止まる。
――第七王子?
――なぜ、その名で呼ぶ。
だが。
次の瞬間には切り捨てる。
血の匂いが濃い。
リリスの呼吸が乱れている。
アルバートは、まだ立っている。
守っている。
それでも――傷は深い。
胸の奥で、何かが軋んだ。
静かに保っていた均衡が、崩れる。
――守れなかった。
違う。
まだ、終わっていない。
終わらせない。
青白い光が、さらに強まる。
室内の温度が、一気に落ちた。
床を這う空気が白く曇る。
息が凍る。
夜織の動きが、鈍る。
リアンの唇が、わずかに動いた。
「――止まれ」
低く、だが確かに。
空間が応じる。
温度が奪われる。
動きが奪われる。
世界が、息を殺したように。
「……《零界》」
不可視の境界が広がる。
室内を満たし、すべてを縛る。
夜織の動きが凍りつく。
完全ではない。
だが――遅い。
その一瞬を、逃さない。
クラウスが、消えた。
「……ここまでだ」
気配が、途切れる。
夜織が反応する。
だが、その動きよりも先に、
すでに間合いの内側へ踏み込んでいた。
結果だけが残る。
一体。
また一体。
断たれた影が、音もなく崩れ落ちる。
夜織の迎撃は、間に合わない。
踏み込む前に、崩されている。
その流れを切らさぬように。
ユラの刃が、重なるように走る。
だが――終わらない。
窓の外から、さらに夜織が流れ込んでくる。
数が減らない。
押し切れない。
アルバートの膝が、わずかに揺れる。
血が床へ落ちる。
それでも倒れない。
その背で、なお守っている。
その光景を、ティアラは見つめていた。
震える指が、布を強く握る。
リアンの背。
アルバートの背。
すべてが、目の前で揺れている。
逃げ場はない。
それでも。
ゆっくりと、手が持ち上がる。
震えは止まらない。
それでも――
声を紡ぐ。
「天を駆ける雷よ……」
瞳に紋様が浮かぶ。
六芒星。
その中心に、羽根のような光。
淡く、確かに。
髪が、ふわりと浮かぶ。
毛先から白金の光の粒が舞い上がる。
夜の空気に溶けるように。
「我が祈りを――導きとせよ……!」
声は震えている。
それでも止まらない。
光が集まる。
収束する。
次の瞬間。
雷が、奔った。
「――《天雷槍》!」
閃光が、室内を貫く。
零界に縫い止められた夜織を、まとめて撃ち抜いた。
衝撃が走る。
光が弾ける。
影が吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられ、床を転がる。
動かない。
完全ではない。
それでも――確実に数を削った。
流れが、変わる。
青白い光が、なお揺れている。
その中で。
リアンは目を細めた。
――まだ足りない。
終わらせる。
ここで、夜織を止める。




