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禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


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第84話 絶望の足音

 本能の警告を振り払うように。

 ティアラは両手を胸の前で重ねた。

 逃げるわけにはいかない。

 ここで立ち止まれば。

 皆が死ぬ。

 背中の光の翼が大きく広がる。

 溢れ出した光がティアラの両手へ集まっていく。

 両手の間に赤い炎が灯った。

 小さな火種だったそれは。

 瞬く間に膨れ上がっていく。

 炎は巨大な火球となり。

 周囲の空気を灼きながら脈動した。

 ティアラは両手を前へ突き出す。


「――フレア・セレスティア!」


 次の瞬間。


 火球がゼノへ向かって放たれた。

 一直線に迫る灼熱。

 戦場を赤く染め上げながら。

 ゼノを呑み込もうとする。

 しかし。

 ゼノは動かなかった。

 ただ。

 ゆっくりと右手を前へかざす。

 次の瞬間。

 炎は。

 ゼノの片手によって受け止められていた。


「――っ!?」


 ティアラの瞳が見開かれる。

 炎は確かに命中した。

 それなのに。

 ゼノは傷一つ負っていない。

 まるで炎そのものを握り潰すように。

 炎はゼノの掌の中で掻き消えた。

 ゼノは静かに自らの掌を見つめる。

 そして。

 深紅の瞳に僅かな興味が宿った。


「精霊か?」


 ゼノは小さく首を横に振った。


「いや」


 ゼノの視線がティアラを捉える。


「その光は、精霊とも少し違う」


 ゼノは一歩、ティアラへ向かって踏み出した。

 ティアラの身体が強張る。

 まるで蛇に睨まれた獲物のように。

 身体が動かない。

 呼吸さえ忘れそうだった。


 その時だった。

 二つの影が同時にティアラの前へ躍り出る。

 リアンとレイヴンだった。

 リアンは剣を構え、青い瞳でゼノを睨みつける。


 その隣で。

 レイヴンも静かに剣を構えた。

 青い瞳だけが、冷たくゼノを見据えている。


「ティアラに近付くな」


 リアンが低い声で告げた。

 二人の背中を見た瞬間。

 ティアラは小さく息を呑む。

 ゼノは足を止めた。

 そして。

 二人を見つめる。


「邪魔をするのか」


「当たり前だ」


 リアンは一歩も退かない。


「ティアラには指一本触れさせない」


 レイヴンも静かに口を開いた。


「これ以上近付くなら、容赦はしない」


 ゼノは二人を見つめた。


「邪魔だ」


 深紅の瞳を細める。


「お前達には興味がない」


 その言葉と同時に。

 ゼノの全身から漆黒の闇が溢れ出した。

 まるで生き物のように蠢く闇。

 空気が軋む。

 戦場全体が震えた。


「――っ!」


 リアンとレイヴンは咄嗟に剣を構える。


 だが。

 次の瞬間。

 闇が爆発した。

 凄まじい衝撃。


「ぐっ――!」


「……っ!」


 二人の身体が左右へ弾き飛ばされる。

 地面を転がる。

 しかし。

 リアンは空中で体勢を立て直した。

 着地と同時に地面を蹴った。


 レイヴンもまた。

 無駄のない動きで受け身を取ると、すぐにゼノへ向かって駆け出した。

 二人は止まらない。

 たとえ相手がどれほど強大でも。


 リアンの指先に青白い光が集まる。


「水よ、形を忘れ、氷よ、鎖となれ」


 冷気が地面を駆けた。


「――氷鎖クリスタルバインド!」


 次の瞬間。

 無数の氷の鎖が地面から飛び出す。

 ゼノの両腕。

 両脚。

 その全てへ絡み付いた。

 リアンの瞳が鋭く細められる。


「砕けろ」


「――氷河斬!」


 剣を振り抜く。


 同時に。

 巨大な氷刃が一直線にゼノへ襲い掛かった。


 さらに。

 死角へ回り込んでいたレイヴンも動く。

 音もなく。

 影のように。

 青い瞳だけを冷たく輝かせながら。

 ゼノの首へ剣を振るった。


「ほう」


 初めて。

 ゼノの口元から笑みが消える。

 だが。

 次の瞬間。

 氷の鎖は音を立てて砕け散った。

 巨大な氷刃がゼノを呑み込んだ。

 同時に。

 レイヴンの剣がゼノの首筋へ走った。


 だが。

 次の瞬間。

 二人の攻撃は空を斬った。


「――なっ」


 リアンの瞳が見開かれる。


 ゼノはそこにいなかった。

 いや。

 速すぎて見えなかっただけだ。

 気付いた時には。

 ゼノは既に二人の背後へ移動していた。


「面白い」


 ゼノは静かに呟く。

 深紅の瞳が二人を見据える。


「少しだけ、遊び甲斐がありそうだ」


 ゼノが右手を軽く掲げる。

 漆黒の魔法陣がリアンの足元に展開した。


「――っ!」


 回避するより早く。

 闇が爆ぜた。


「がっ――!」


 凄まじい衝撃がリアンを襲う。

 身体が宙を舞った。

 受け身を取る暇すらなかった。

 背中から地面へ叩きつけられる。

 鈍い音が戦場に響いた。


「かはっ……!」


 肺の空気が一気に押し出される。


 全身に激痛が走った。

 視界が激しく揺れる。

 口の中に鉄の味が広がった。


「リアンッ!!」


 ティアラの悲鳴が響く。


「リアンお兄様……!」


 リリスは倒れたリアンの側へ駆け寄った。

 震える手を伸ばす。

 けれど。

 その手が触れるより早く。

 リアンは自力で立ち上がる。

 全身が軋む。

 それでも。

 歯を食いしばりながら。

 リアンは再びゼノを見据えた。


 伸ばした手を宙に残したまま。

 リリスは唇を強く噛んだ。

 自分は何も出来ない。

 その事実が、何より悔しかった。


 ゼノはそんなリアンを見つめる。

 そして。

 愉快そうに口元を歪めた。


「頑丈な玩具は嫌いじゃない」


 深紅の瞳が細められる。


「簡単に壊れない方が、長く遊べる」


 リアンは歯を食いしばる。

 これ以上近付かせるわけにはいかない。

 両手に魔力を集中させた。


「落ちろ」


 頭上へ巨大な水塊が出現する。

 ゼノ一人を呑み込むには十分すぎる質量。

 次の瞬間。


「――氷天瀑布」


 水塊は一瞬で凍り付き。

 巨大な氷の瀑布となってゼノへ落下した。

 轟音。

 大地が震える。

 だが。

 ゼノは動かなかった。

 ただ。

 静かに右手を上げる。

 落下する氷塊。

 それを。

 片手で受け止めた。


「……は?」


 リアンの目が見開かれる。

 あり得ない。

 あれほどの質量を。

 ゼノは片腕だけで支えていた。

 まるで。

 落ち葉でも掴むかのように。


「悪くない」


 ゼノはそう呟く。

 そして。

 巨大な氷塊を。

 そのままリアンへ投げ返した。


「――っ!」


 リアンは咄嗟にリリスの腕を掴む。


「危ない!」


 そのまま彼女を抱き込むようにして横へ飛ぶ。

 直後。

 氷瀑が地面へ激突した。

 轟音。

 爆風。

 氷片が嵐のように戦場へ降り注ぐ。


 リアンはリリスを抱き込むようにして地面へ倒れ込んだ。

 

「っ……!」


 苦痛に顔を歪めるリアンを見て。

 リリスの瞳が大きく揺れた。


「リアンお兄様……!」


 リアンはゆっくりと上体を起こした。

 だが。

 立ち上がろうとした瞬間。

 膝が笑う。

 全身が悲鳴を上げていた。


「そんな……」


 ティアラの顔が青ざめる。

 リアンが放った渾身の一撃。

 それすら。

 ゼノには通じなかった。


 ゼノは静かにティアラを見据えた。

 そして。

 迷いなく歩き出した。

 真っ直ぐ。

 ティアラへ向かって。


 ティアラは息を呑む。

 リアンも。

 レイヴンも。

 既に満身創痍だった。

 セラフィオンも立ち上がれない。

 もう。

 誰もゼノを止められない。

 ティアラの胸を絶望が満たしていった。


 ゼノはもう目前まで迫っている。


 その光景を見た瞬間。

 セラフィオンは膝をついたまま歯を食いしばった。


「……逃げろ」


 掠れた声が零れる。


「お前達では敵わない」


 立ち上がらなければ。

 この場で。

 ゼノに対抗できるのは。

 自分しかいない。

 セラフィオンは剣を支えに身体を起こす。

 だが。


「っ……!」


 全身に激痛が走った。

 足に力が入らない。

 そのまま再び膝をつく。

 血が地面へ滴り落ちた。


「ティアラから離れろ」


 鋭い声が響いた。

 次の瞬間。

 レイヴンがゼノへ斬りかかる。

 音もなく。

 影のような一閃。

 だが。

 ゼノは振り返ることすらしなかった。

 ただ。

 片手を軽く振る。


「邪魔だ」


「――っ!」


 凄まじい衝撃。

 レイヴンの身体が宙を舞う。

 そのまま地面へ叩きつけられた。


「レイヴン!」


 ティアラの叫びが響く。


 地面に膝をついたまま。

 リアンは歯を食いしばった。

 動け。

 立て。

 立たなければ。

 ティアラを守れない。

 だが。

 身体はまるで鉛になったかのように動かなかった。


 それでも。

 ゼノは止まらない。

 一歩。

 また一歩。

 ティアラとの距離が、容赦なく縮まっていく。

 ティアラは後退ることすら出来なかった。


 やがて。

 ゼノはティアラの目の前で足を止めた。

 そして。

 静かに手を伸ばした。




 











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異世界ファンタジー 第七王子 王家の闇 貴族社会 王宮陰謀 双子 出生の秘密 精霊 七属性 魔法 能力覚醒 成長物語 シリアス ゆっくり恋愛 純愛
― 新着の感想 ―
恐るべき魔族ゼノ。 その圧倒的な力にみんながダメージを負う。 そんなゼノから逃げる!? 戦うリアンたちはどうなる!? 続きも楽しみです°・*:.。.☆
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