表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/87

第81話 闇の支配領域──絶望の始まり──

 黒い灰が舞う。

 聖光砲は消えた。

 セラフィオン最大級の一撃は、

 ゼノへ傷を残すことすらできなかった。


 ティアラは息を呑む。

 胸の奥が冷たかった。


 だが。

 セラフィオンは退かなかった。


 黄金に輝く瞳は今もなおゼノを見据えている。

 ゆっくりと右手が上がる。

 白金の光が広がった。

 空気が張り詰める。

 まるで世界そのものが息を止めたように。


 セラフィオンが静かに告げる。


「理の名において命ずる」


 白金の光が円を描く。

 幾重もの紋様が空間へ浮かび上がった。


「そこに留まれ」


 次の瞬間。

 世界が静止した。


「――静止領域エターナル・ゼロ


 白金の紋様がゼノを包む。

 次の瞬間。

 ゼノの身体が止まった。

 指先一つ動かない。


 周囲では戦いが続いている。

 だが。

 ゼノだけが世界から切り離されたように静止していた。

 深紅の瞳だけが静かにセラフィオンを見ていた。


 セラフィオンは躊躇わなかった。

 勝機は今しかない。

 白金の光が空へ昇る。


「天より降りよ」


 空が輝いた。

 雲を突き抜けるように無数の光が現れる。


「裁きの光」


 それは槍だった。

 白金に輝く神の槍。

 数え切れないほどの光槍が空を埋め尽くしている。


「――神罰の光槍ルクス・ジャッジメント


 降った。

 一斉に。

 世界を貫く光の雨。

 轟音。

 閃光。

 聖域全体が白金の輝きに呑み込まれる。


 ティアラは思わず顔を上げた。


「……っ」


 光槍は容赦なく降り続ける。

 逃げ場などない。

 避けることもできない。

 ゼノの姿が完全に光の中へ消えた。


 やがて。

 最後の光が消える。

 土煙が舞った。


 静寂。


 誰も言葉を発せない。


 ティアラは息を呑む。


 セラフィオンは黙って土煙の奥を見つめていた。

 その時だった。


「――なるほど」


 声。

 低く。

 静かな声。

 土煙の奥から聞こえた。


 ティアラの身体が強張る。

 セラフィオンの瞳が細められた。


 黒い影がゆっくり現れる。

 ゼノだった。

 頬には一本の傷。

 そこから赤い血が流れている。

 ゼノは指先で血を拭う。

 赤く染まった指を見る。

 そして。

 軽く舐めた。

 深紅の瞳が細められる。


「久しく流していなかったな」


 ゼノは僅かに笑った。


「少しは楽しめると思ったが」


 ゆっくり顔を上げる。

 深紅の瞳が冷たく細められた。


「ここまでか」


 ゼノは静かに右手を掲げる。

 深紅の瞳が細められた。


「跪け」


 次の瞬間。

 黒が溢れた。

 ゼノの足元から。

 影のように。

 闇の海のように。

 それは一瞬で広がる。

 大地を覆い。

 空を侵し。

 光を喰らいながら。

 聖域そのものを塗り潰していく。


 ティアラの顔から血の気が引いた。


「なに……これ……」


 ティアラが空を見上げた。

 黒い雲が広がっている。

 暗雲は瞬く間に空を埋め尽くした。

 太陽はそこにある。

 それなのに。

 光だけが届かない。

 聖域は不自然な闇に包まれていった。


「この闇は、我が領域だ」


 ゼノが静かに告げる。

 黒が大地を這う。

 影の海のように。


「――黒冠領域こっかんりょういき


 次の瞬間。

 セラフィオンの光が揺らいだ。


「なに……?」


 白金の輝きが弱まる。

 まるで力そのものを奪われるように。


 ゼノだけが静かに微笑んでいた。


「光よ――」


 白金の輝きが集まる。


 本来ならば。

 瞬時に障壁が展開されるはずだった。


 だが。

 光は集まらない。

 白金の粒子が揺らぎ。

 そのまま霧のように消えた。

 セラフィオンの瞳が僅かに揺れる。

 もう一度。

 魔力を流す。

 だが結果は同じだった。

 光が応えない。

 弱まっているのではない。

 違う。

 使えない。

 完全に封じられている。

 黒冠領域。

 ゼノの闇が、光そのものを拒絶していた。


 その異変はセラフィオンだけではなかった。

 精霊兵達にも動揺が走った。

 放たれた光の矢が空中で霧散する。

 光の矢は形を保てず崩れ落ちた。

 悲鳴が上がる。


 混乱した一瞬だった。

 スケルトンの剣が一人の精霊兵を貫く。

 白銀の鎧が砕け散った。

 身体は光となって崩れていく。

 誰もがその光を見ていた。

 いつも通りなら。

 生命の泉へ還り。

 再び戦場へ戻ってくるはずだった。

 だが。

 光は集まらない。

 泉からも何の反応もない。

 ただ静かに。

 闇の中へ消えていった。


「な……」


 精霊兵の一人が目を見開く。


「嘘だろ……」


 精霊兵の一人が目を見開く。


「復活しない……?」


 黒い闇が広がる。

 押し返していたはずの魔物達が勢いを取り戻す。


 精霊兵達は迎え撃つが、

 徐々に押し込まれ始めていた。


「光が出ない!?」


「な、なんだこれは……!」


 レイヴンの指先へ集めた光が揺らぐ。


「……?」


 放つはずだった光刃が霧のように崩れた。

 もう一度魔力を流す。

 だが同じだった。

 光が応えない。

 青い瞳が僅かに細まる。


「光が……使えない」


 初めてだった。

 生まれてから一度も。

 光が応えなかったことなどない。

 レイヴンは即座に剣を握り直す。

 ならば戦うだけだ。

 光を捨てる。

 剣だけで。

 目の前の魔物を斬る。


 リリスの狐耳がぴくりと震えた。


「……嫌です」


 小さく呟く。

 本能が告げていた。

 この闇は危険だと。


 リアンも異変を感じていた。

 背筋を冷たいものが走る。

 だが。

 それは魔法ではない。

 空気だった。

 戦場を覆う重苦しい闇。

 肌を刺すような圧迫感。

 まるで。

 この場そのものが死へ沈んでいくような。


「……なんだ、この感じ」


 思わず眉をひそめる。

 魔力は問題なく流れる。

 氷も水も消えていない。

 だが。

 本能が警鐘を鳴らしていた。

 この場に長くいてはいけないと。

 ふとティアラを見る。

 光が使えず青ざめていた。

 胸の奥がざわつく。

 もしこの闇がティアラに牙を剥けば。

 そんな考えが脳裏を過った。


 低い唸り声が響く。

  オーガが棍棒を振り上げる。

  リアンは剣を構え直した。

 迫ってきたスケルトンを斬り伏せる。

  黒い霧が散る。

 周囲を見渡す。

  魔物の数は確実に減っていた。

 それでも。

  戦場を覆う不気味な闇だけは深まっていく。


 その横で。

 ティアラも息を呑む。 掌へ光属性の魔力を集める。

 だが。何も起こらない。

 もう一度。

 魔力を流す。

 それでも光魔法は発動しなかった。


「そんな……」


 完全に封じられている。

 試しに炎属性へ切り替える。

 掌へ小さな炎が灯った。

 風も。

 雷も。

 問題なく発動する。

 使えないのは光だけだった。


「光魔法が使えない……」


 その瞬間。

 大地が震える。


「地より現れよ」


 ゼノが静かに告げた。

 黒が広がる。

 足元の地面がひび割れた。


「我が敵を葬る刃となれ」


 大地が蠢く。

 次の瞬間。

 黒い剣が現れた。

 一振り。

 二振り。

 三振り。

 十。

 二十。

 三十。

 無数。

 セラフィオンを囲むように。

 逃がさないように。

 黒剣が地面から突き出す。


「――黒葬剣陣こくそうけんじん


 全ての剣先がセラフィオンへ向いた。

 殺意。

 それだけで構成された処刑陣。


 セラフィオンの瞳が細められる。

 嫌な予感がした。

 次の瞬間。


「穿て」


 無数の黒剣が一斉に走った。

 大地を抉りながら。

 中心へ殺到する。


 セラフィオンは翼を広げた。

 白い翼が大きく羽ばたく。

 地を蹴る。

 黒剣が目前を通過した。

 紙一重。

 そのまま空へ駆け上がる。


 轟音。

 黒剣が中心で激突した。

 土煙が吹き上がる。


 セラフィオンは遥か上空にいた。


 黒剣は黒い霧となって崩れていく。


 ティアラが息を吐く。

 避けた。

 そう思った。

 だが。

 ゼノは笑っていた。


「空なら助かると思ったか?」


 既に。

 右手が掲げられている。


「消えろ」


 掌へ黒い渦が集まる。

 底なしの闇。

 周囲の光を喰らいながら。

 漆黒の球体がゆっくり回転した。


「すべて闇へ還れ――黒淵弾こくえんだん


 次の瞬間。

 漆黒の渦が一斉に放たれた。

 空間を裂くような速度。

 セラフィオンは翼を翻す。

 一発。

 躱す。

 二発。

 躱す。

 三発。

 躱す。

 だが。

 四発目が翼を掠めた。


「っ――!」


 黒が炸裂する。

 翼の羽根が舞った。

 体勢が崩れる。

 その隙だった。

 五発目。

 漆黒の渦が脇腹へ直撃する。

 轟音。

 白い翼が大きく揺れた。

 鮮血が宙へ散る。


「精霊王!!」


 ティアラの叫びが響く。

 胸が強く締め付けられた。

 勝てると思っていた。

 セラフィオンなら大丈夫だと。

 そう信じていた。

 だが。

 その希望が音を立てて崩れ始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ファンタジー 第七王子 王家の闇 貴族社会 王宮陰謀 双子 出生の秘密 精霊 七属性 魔法 能力覚醒 成長物語 シリアス ゆっくり恋愛 純愛
― 新着の感想 ―
セラフィオンVSゼノ。 セラフィオンもかなりの力。 そしてゼノはへの攻撃は激しいものだったが。 これは。 続きも楽しみです.*・゜ .゜・*.
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ