表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/28

第5話 精霊王族の目覚め

 扉が静かに開いた。

 柔らかな光が廊下から流れ込み、その中央にゆっくりと歩いてくる影があった。


 銀の刺繍が施された黒い外套。

 深い青い瞳は、いつもと同じ穏やかで、しかし奥に研ぎ澄まされた鋭さを宿す。


 アルバート・アルシェ。


 リアンにとって、生まれてからずっと“父”であり、揺るがない拠り所だった。


「……戻っていたのだな、リアン。クラウス。それにリリスも」


 アルバートの声は低く静かで、屋敷の空気を一瞬で引き締める。


 リリスは思わず姿勢を正し、九つに増えかけていた尾の気配を慌てて抑えた。


「お……お帰りなさいませ、お父様」


「ただいま、リリス。尾が膨らんでいるぞ。驚かせたか?」


「ち、違います。……すこしだけ、緊張しただけです」


 頬を染めてもじもじする。

 その様子を見て、クラウスが軽く肩をすくめる。


「父上、見ての通りです。珍しいことに、リリスは今日ずっと緊張しっぱなしなので」


「クラウスお兄様っ! そ、そんな余計なことを……!」


「……ふふ、失礼。だがお前がいると屋敷が明るくなる」


 アルバートが微笑むと、リリスはさらに耳まで赤くなる。


 リアンはそのやりとりをちらりと見て、胸の奥が少しだけ温かくなった。


 これが自分の“家”。

 王城とは違う、静かで優しい光の満ちた場所。


 アルバートはリアンの前まで来ると、自然と手を伸ばして肩に触れた。


「……無事で何よりだ。リアン」


 わずかな言葉だったが、いつもと変わらない、深く安堵した声だった。


 リアンはその温もりに息を吐き、ほっと微笑む。


「父上。……森で、この少女を保護しました」


 アルバートの視線が、ベッドの少女へと向く。

 一歩、近づいた瞬間、淡い光が少女の胸元からふっと舞い上がり、アルバートの手元へ吸い込まれるように揺れた。


「……精霊の光?」


 ユラが緊張したように低く囁く。


 アルバートは少女の脈に触れ、瞼の色を確かめるようにしてから、静かに息をついた。


「これは……精霊王国ルミナシアの“庇護光”だ。しかも本来、人に宿る量ではない」


 クラウスが驚きの表情を見せる。


「やはり精霊混血……ですか?」


「いいや、クラウス。これは……もっと深い。普通の混血種ではあり得ん」


 アルバートの瞳がほんの僅かに細くなる。

 鋭く、しかしどこか哀しみを帯びた光。


 リアンは息をのんだ。


「父上……彼女はいったい……?」


 アルバートは答えず、代わりにユラへ視線を向けた。


「ユラ、外の気配はどうだ?」


「――完全ではありませんが、“気配の断ち切られた影”が二つ。森の向こうに残滓だけ」


「なるほど。夜織の者の痕跡かもしれない」


 クラウスが小さく目を見開く。


「父上、それは……王都内部の追跡者という意味ですか?」


「可能性としては、な」


 アルバートは少女へ視線を戻し、長い沈黙の後、ゆっくりと告げた。


「――この子を保護する。……お前達が助けた命だ。最後まで守る覚悟はあるか?」


 リアンの胸に、確かな熱が灯る。


「……もちろんです」


 それは迷わない決意だった。

 リリスが、そっとリアンの袖をつかんだ。


「……わたしも、です。リアンお兄様が守りたいなら、わたしも一緒に」


 クラウスが苦笑まじりに肩をすくめる。


「まあ、そうなるな。父上も良いと言っている。……この家全員で守るさ」


 アルバートは三人を見つめ、静かに頷いた。


 そのとき――

 眠っていた少女の指が、再びわずかに動く。

 その光はまるで迷ったように宙を漂い――次の瞬間、リアンの手元へ吸い込まれるように寄っていった。


 ユラが目を細める。


「……リアン様にだけ、反応している……?」


 リアンは驚き、手を広げたが、光は離れない。

 まるで帰る場所を見つけたと言わんばかりに、淡く脈打っていた。

 淡い光がその周囲にひらりと散り、微かな声が漏れた。


「……ティ……ア……」


 リアンは息を飲む。


「名前……?」


 少女の長い睫が震え、少しずつ瞼が開いていく。

 ラベンダーの髪がふわりと揺れ、澄んだ紫の瞳が微かに光を帯びた。

 ――その瞳の奥で、

 光が集まり、淡い紋様のようなものが一瞬だけ揺らめいた。

 それは形を成す前にほどけ、まるで最初から存在しなかったかのように消える。

 光の粒が彼女の周囲で舞う。


 アルバートは、まるで何かを確信したように目を閉じた。


「……精霊王族の血。間違いない」


 リアンの心臓が大きく跳ねる。


 ――精霊王族。


 その言葉が、静まり返った医務室に深く落ちた。


 そして、この瞬間から。

 リアンの運命も、アストラル王国の未来も。

 静かに、しかし確実に――動き始めていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ファンタジー 第七王子 王家の闇 貴族社会 王宮陰謀 双子 出生の秘密 精霊 七属性 魔法 能力覚醒 成長物語 シリアス ゆっくり恋愛 純愛
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ