表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/73

第68話 白銀へ続く階段

 通路が、また左右へ分かれていた。


 左は――暗い。

 天井から、水滴が落ちている。

 一定の間隔で、音だけが響く。


 右は――わずかに明るい。

 奥の方で、淡い光が揺れていた。


 リアンは、右へ足を向ける。


 ――そのまま、踏み出しかけて。


 止まった。

 視線が、わずかに細くなる。


 クラウスが、小さく笑う。


「……分かりやすすぎるな」


 ルカが、静かに言う。


「誘ってる、ようにも見えるな」


 リリスが、不安そうに左を見る。


「でも……あっちは、なんだか……嫌な感じがします……」


 ユラは、短く言った。


「どちらも、同じ」


 リアンは、何も答えない。

 ただ――二つの道を見ている。

 沈黙が、落ちる。


「……正解は、ないのかもしれない」


 ルカが、呟く。


「あるいは――どちらも罠か」


 ぽたり、と水が落ちた。

 音が、やけに大きく響く。


 右の光が――わずかに揺れた。

 リアンは、光の差す通路を見る。


 ……罠に見える。


 いや――見せているのかもしれない。


「……右だ」


 クラウスが、わずかに眉を動かす。


「そっちでいいのか?」


「ああ」


 リアンは、短く答える。


「罠でもいい。――突破する」



 右の通路へ、踏み込む。

 しばらくは――ただの通路だった。

 石の床。

 閉ざされた壁。


 やがて――緩やかな上り坂に変わる。


 一歩、また一歩。

 ひんやりとした空気が、肌に触れた。

 

 そして――

 登りきった、その先で。


 景色が、開けた。


 通路の壁には、等間隔に灯りが並んでいる。

 石壁に埋め込まれた燭台のような装置。

 そこに浮かぶのは――炎ではない。

 淡い光。

 揺らぎながらも、消えることのない白い輝き。

 まるで――祈りのために灯された光のように。

 その光に照らされて。

 道の両側に、石像が並んでいた。

 剣を携えた、精霊兵の像。

 高さは、二メートルを優に超えている。

 灯りに照らされ、影が長く床に落ちる。

 無機質な瞳が、ずらりと並ぶ。

 そのすべてが――こちらを見ていた。


 リリスが、小さく呟く。


「……なんだか、薄気味悪いです」


 クラウスが、低く笑う。


「嫌な予感しかしないな」


 リアンは、何も言わない。

 ただ――石像の目を見る。


 全員が、足を止めたまま。

 像を見ている。


 沈黙が落ちる。


 ぽたり、と水音が響いた。


 リリスが、わずかにそちらへ視線を向ける。


 ――その瞬間。


 石が、軋んだ。

 一体の像が、動いた。


「……え……」


 リリスの声が、震える。


 次の瞬間。

 別の像が、動く。

 さらに、もう一体。

 気づいたときには。

 すべてが――動き出していた。


「……来るぞ!」


 クラウスが叫ぶ。

 精霊兵たちが、一斉に踏み込む。

 重い足音が、床を震わせる。


 そのとき。

 一体が、レイヴンへ斬りかかった。

 だが――

 その姿が、消える。

 淡い光が、わずかに揺れた。


 石像の刃は――空を斬る。


 遅れて。

 少し離れた位置に、レイヴンは立っていた。

 静かに、振り返る。

 剣は――抜かない。

 ただ。

 戦場全体を、見ている。


 そして――リアン。

 その瞳が、わずかに細められた。


 リアンは、踏み込む。

 剣が、走る。

 だが――

 硬い。

 刃が、弾かれる。


 ルカの風が叩きつけられるが、

 石像は、びくともしない。

 ユラの一閃も、

 クラウスの打撃も――通らない。


「……効かない!」


 数が、多い。

 逃げ場が、ない。


 一体が、リアンへ踏み込む。

 振り上げられた剣が――落ちる。

 重い一撃。

 リアンは、咄嗟に剣で受け止めた。

 衝撃が、腕を貫く。

 止まらない。

 圧が、そのまま落ちてくる。

 剣が、ゆっくりと押し下げられる。

 顔へ――迫る。

 歯を食いしばる。

 押し返せない。


 ――受けきれない。


 そのとき。

 石像の顔が、目前まで迫った。

 無機質な瞳。

 逃げ場は、ない。

 リアンは、反射的に――それを見る。


 ――目が、合う。


 その瞬間。

 止まった。

 剣が、ぴたりと静止する。

 圧が、消える。


「……?」


 一瞬、思考が止まる。

 だが。


「リアン!」


 ティアラの声。

 視線が、そちらへ向いた。


 ――しまった。

 

 動く。

 そう思った、瞬間。


 ……動かない。


 精霊兵は――止まったままだった。


「……なんでだ……」


 理解が、追いつかない。

 視線は外した。

 条件は、崩れているはずだ。

 なのに。

 動かない。

 リアンの視線が、ゆっくりと戻る。

 精霊兵との間。

 そこにあるのは――自分の剣。

 わずかに、違和感。


 ……試す。


 ほんの僅かに、剣の角度を変える。

 石が、軋む。


 ――動いた。


 すぐに戻す。

 止まる。

 もう一度。

 ずらす。

 動く。

 戻す。

 止まる。

 繰り返す。


 動く。止まる。――それだけだ。


 ――間違いない。


「……そういうことか」


 低く、呟く。


「……目を合わせる必要はない」


「“見られていれば”止まる」


 リアンの声が、静かに響く。


「石像の目を見ろ! 見ると――止まる!」


 一瞬。

 全員が、その意味を理解した。


 クラウスが、正面の石像を睨みつける。

 ぴたり、と動きが止まる。

 

 ルカも、右側の一体へ視線を固定する。

 そちらも、止まる。


 ユラも無言で、別の石像と目を合わせる。

 動きが、止まる。


 だが――

 リリスの背後。

 視線が向けられていない一体が、踏み込んだ。


「っ、リリス、後ろ!」


 クラウスが叫ぶ。

 リリスが、反射的に振り返る。

 その瞬間。

 リリスが見ていた石像から、視線が外れる。


 ――動く。


 止まっていた石像が、踏み込む。

 剣が――リリスへ振り下ろされる。


「……っ!」


 クラウスが、すぐに視線を切り替える。

 リリスを狙う石像を睨む。

 ぴたり、と止まる。


 だが同時に――

 今まで止めていた正面の石像が、動き出した。


 クラウスが、わずかに息を吐く。


「……面倒な仕掛けだな」


 終わらない。

 視線を移した瞬間、

 別の石像が動き出す。

 止めても、止めても。

 どこかが、空く。


 ルカが、低く言う。


「……数が多すぎる。見きれない」


 ユラが、短く続けた。


「……死角が、消えない」


 石像の数は――仲間の数を上回っている。


 一人につき、一体が限界。

 それ以上は、見きれない。

 必ず。

 誰にも見られていない石像が、生まれる。

 そして――動く。


 リアンの視線は、目の前の精霊兵から外れない。

 その一体は、止まっている。

 だが。


 別の場所で、刃が振り上がる。

 ルカへ――迫る。

 避けきれない。

 防ぎきれない。


 ――終わらない。


 リアンは、短く息を吐いた。

 剣を構えたまま、静かに呟く。


「……視線を、増やす」


 視線は、そのまま。

 精霊兵を見据えたまま――詠唱する。


「――氷よ、世界を映せ」


 足元に、淡い光が滲む。

 冷気が――一気に広がった。

 空気が、凍りつく。


 リアンの足元から、氷が伸びる。

 地を這うように。

 滑らかに。

 音もなく。

 前方へ――広がる。

 精霊兵たちの足元へ。

 その前へ。

 次の瞬間。

 それが――立ち上がった。

 壁。

 透明な、氷の壁。

 だが、それはただの氷ではない。

 表面が――鏡のように研ぎ澄まされていた。


 精霊兵の姿が、映る。

 無数に。

 その顔が。

 その瞳が。

 氷の中に、映り込む。


 精霊兵が、踏み込む。

 だが――

 止まった。

 ぴたり、と。

 まるで、見えない鎖に縛られたように。

 一体ではない。

 すべてが――動かない。

 氷に映った“自分の目”と、向き合っている。


 誰かに見られていなくても。

 “視線”が存在する限り。

 動けない。

 完全に。


 沈黙が、落ちた。

 軋む音が、消える。

 刃も、止まる。

 空間そのものが、凍りついたように静まり返る。


 リアンは、ゆっくりと剣を下ろした。

 息を、吐く。


「……終わりだ」


 その声だけが、静かに残った。


 ――だが。


 ぎ、と。

 石が、軋んだ。


 リリスの目が、見開かれる。


「……え……?」


 ティアラの背後。

 氷の壁が届いていない“死角”。

 そこにいた一体の精霊兵が――動いていた。

 わずかに。

 だが、確実に。


 剣が、ゆっくりと持ち上がる。

 ティアラは、まだ気づいていない。

 振り下ろされる。

 その瞬間。


「――氷よ、遮れ」


 リアンの声が、鋭く走った。

 空気が、一気に冷える。


 ティアラと精霊兵の間に――

 氷が、立ち上がる。

 壁。

 滑らかな、鏡の氷。


 振り下ろされた剣が――

 氷の壁に、叩きつけられる。

 重い音が、響く。

 だが――刃は、通らない。


 氷の表面に――

 精霊兵の顔が、映る。

 その瞳が、自分自身と向き合う。

 真正面から。

 逃げ場なく。


 ――目が、合う。


 ぴたり、と。

 動きが、止まった。

 完全に。

 沈黙。

 今度こそ。

 すべての精霊兵が、動きを失った。


 静寂が、落ちる。

 そのとき。


 ――石が、鳴った。


 通路の奥で、壁が動く。

 ゆっくりと、せり上がるように。


 現れたのは――階段だった。

 上へと続いている。


 リアンは、短く息を吐く。


 ……終わりじゃない。


 リアンは、一度だけ振り返った。

 動かなくなった石像。

 凍りついた通路。


 だが――もう、迷いはない。


「行こう」


 誰も、異論はない。

 階段を、上る。

 一段。

 また一段。

 やがて。

 光が、視界を満たした。


 次の瞬間。

 そこは――開けていた。

 白銀の木々が、静かに揺れている。


 森のように広がるその先。

 遥か奥に――塔が、そびえていた。

 あまりにも、異質な存在感。

 まるで。

 “すべてを見下ろしている”ように。


 戻る道は、もうない。


 ――ここから先が、“核心”だ。


 その姿に――

 ティアラの呼吸が、わずかに乱れる。

 その瞳が――塔から離れない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ファンタジー 第七王子 王家の闇 貴族社会 王宮陰謀 双子 出生の秘密 精霊 七属性 魔法 能力覚醒 成長物語 シリアス ゆっくり恋愛 純愛
― 新着の感想 ―
機械兵により立ち尽くすリアンたち。 そして動く仲間たち。 果たしてどうなる!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ