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禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


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第65話 包囲を裂いて、底へ

 光が、揺れた。

 包囲の一角が、わずかに開く。


 その中央から――ひとり、前へ出る。

 他の精霊兵よりも大きい。

 羽の輝きが、違う。

 纏う装備も、明らかに格上だった。

 静かに、リアンたちを見据える。


「――対象。回収を開始する」


 その一言で。

 空気が、変わる。

 前列の精霊兵が、距離を詰める。

 剣と槍が、喉元へ向けられる。

 上空。

 弓兵が、音もなく弦を引き絞る。

 逃げ場は、ない。

 リアンが、低く言い切る。


「こいつらは倒しても戻る。突破するぞ」


 次の瞬間。


「――風よ、奔れ。境を裂け」


 ルカの声。


 風が、爆ぜた。

 渦が広がる。

 前だけでなく、横へ、背後へ――叩きつける。


 上空の弓兵が体勢を崩す。

 側面が押し返され、

 背後の列も乱れる。

 包囲が、わずかに歪む。


 だが――

 前だけが、裂けている。


 リアンが、前へ踏み込んだ。

 氷が、走る。

 足元から這い上がり、

 精霊兵の脚へ絡みつく。

 氷鎖。

 動きが、止まる。


 クラウスが、前へ出る。


「――無刃・虚軌断」


 次の瞬間。

 空間が、わずかに“ずれた”。

 氷鎖に絡め取られた前列――

 精霊兵の身体が、遅れて“ずれる”。

 上半身と、下半身。

 繋がっていたはずの位置が、静かに食い違う。

 断たれた境界に、遅れて“ずれ”が走る。

 音もなく。

 上が、滑るように落ちた。

 ただ、切断された“結果”だけが残る。


 精霊兵の列が、崩れた。

 包囲の一角が、裂ける。

 そこだけが――空いている。


 ――ここしかない。


 抜けられる。


 ユラが、踏み込む。


「……終わりです」


 刃は見えない。

 だが――開いた道の中央。

 そこに立っていた精霊兵の首が、遅れてずれた。


 道が、さらに広がる。


 上空。


 ――弦が、鳴る。


 張り詰めた音が、空気を裂いた。


 レイヴンが、視線を上げる。

 弓兵。

 一斉に、狙いを定める。

 放たれる――

 その直前。

 レイヴンは、静かに口を開いた。


「天よ、刃を貸せ──」


 空に、光が灯る。

 ひとつ、またひとつと増え、

 やがて無数に広がる。

 それが――剣へと定まる。


「──天刃煌てんじんこう


 光の剣が、降り注いだ。

 上空の弓兵を貫き、そのまま地へ叩き落とす。


 落ちてくる光の中で。


 狐火が、灯った。

 リリスの指先から、淡い光が零れる。


「――燈狐乱牙とうこらんが


 次の瞬間。

 狐火が弾ける。


 裂けた一点――その両脇へ。

 裂け目を塞ごうと、横から割り込む精霊兵へと喰らいついた。

 噛みつくように絡みつき、

 再生しようとする動きを、無理やり鈍らせる。


 ――閉じさせない。


 道は、まだ生きている。


 そのとき。

 ティアラの唇が、わずかに動いた。


「――天を駆ける雷よ……」


 魔力が、指先に集まりかける。

 だが。

 止まる。


 言葉が、途切れる。

 伸ばしかけた手が、震えたまま落ちた。


 視線が、揺れる。

 精霊兵から、逸らせない。

 戸惑いが、消えない。


 リアンは、迷わない。

 ティアラの手を掴む。


「来い、ティアラ」


 強く引いた。

 戸惑いごと、断ち切るように。

 開いたその一点――裂けた包囲の隙間へ踏み込む。

 駆ける。

 裂けた包囲を、一直線に抜ける。


 その背を、仲間たちが追った。


 だが。

 背後で、光が揺れる。

 崩れたはずの精霊兵が、形を取り戻していく。

 断たれた身体が、繋がる。

 砕けた部分が、瞬く間に埋まる。

 輪郭が、完成する。


 次の瞬間――

 精霊兵の羽が、大きく開く。

 そのまま、前へ踏み出した。

 滑るように、加速する。

 距離が――一気に詰まる。


 次の瞬間。

 精霊兵が、頭上を掠めた。

 風圧だけが、背を叩く。

 走りながら。


 ――抜かれた、と遅れて気づく。


 前方。

 精霊兵が、降り立つ。

 行く手を、塞ぐ。

 同時に。

 左右の列が、滑るように詰める。

 背後も、すでに閉じている。

 上空。

 弓兵が、静かに狙いを定めていた。


 ――囲まれた。


 完全に。

 包囲が、狭まる。

 剣先が、迫る。

 距離が、消える。

 逃げ場は――ない。


「……無限湧きか。面倒だな」


 クラウスが、低く笑う。


「抜けても、また囲まれる」


 リアンの視線が、精霊兵をなぞる。


「……レイヴン」


 呼ぶ。


「転移は」


「無理だ」


 即答だった。


「人数が多すぎる」


 さらに一歩、包囲が詰まる。


 そのとき。

 足元が――揺れた。

 踏んだはずの感触が、消える。


 視線が、落ちる。

 地面が、ない。

 広がっているのは、闇。

 底の見えない、黒。


「――っ」


 足場が、崩れる。

 全員が、落ちた。


 光が、遠ざかる。

 白銀の森が、上へ離れていく。

 開いた穴の縁が、ゆっくりと歪む。

 光が、細くなる。


 ――閉じていく。


 音は、ない。

 ただ、世界だけが切り離されていく。


 その中で。

 リアンの手が、伸びた。

 同時に。

 ティアラの手も、迷いながら――それでも、リアンへ伸びる。


 一瞬――目が合う。

 揺れていた瞳が、わずかに止まる。

 指先が、触れる。

 強く、掴む。

 引き寄せる。

 そのまま、抱き込む。

 腕を、背へ回す。

 覆うように。

 落ちる。

 闇が、下から迫り上がる。


 そのとき。


「――風よ」


 短い声。

 ルカだった。


 足元から、風が噴き上がる。

 落下に逆らうように、下から叩き上げる。

 身体が、わずかに浮いた。

 衝撃が――削られる。

 それでも。

 勢いは、殺しきれない。


 ――叩きつけられる。


 鈍い衝撃が、全身を貫いた。


「……無事か」


 腕の中で、わずかにティアラの息が揺れる。

 リアンは、顔を上げる。


 暗い。

 光は、ない。

 だが。

 闇の中に、わずかな濃淡がある。

 目が慣れるにつれ、

 それが“形”を持つ。


 ――人影だった。


 そのとき。

 わずかに、距離が詰まった。





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― 新着の感想 ―
リアン、そしてティアラも仲間みんなが精霊兵と戦いながら進む。 精霊兵もまた追いながらどんどん襲いかかってくる。 そしていい所まで進みましたがなんと足元が!!! 続きも楽しみです°・*:.。.☆
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