表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/89

第32話 小さな龍と選ばれし道

 小さな龍は、音もなく宙に留まっていた。

 翼は揺れない。

 それでも、視界の輪郭が歪む。

 人の胸ほどしかない。

 幼く、見えない。


 小さな龍は、ゆるやかに首を巡らせる。

 最後に、金の瞳がリアンで止まった。

 その瞬間、胸の奥で、青白い光が、かすかに応えた。


 ――それで。


 声は、耳ではなく、意識に落ちてきた。


『何を、求めて、ここへ来た』


 リアンは、小さな龍を見返す。

 それでも、金の瞳だけは澄み切っていた。


 ──嘘を吐けば、終わる。


 息を吸う。

 胸の奥だけが熱かった。


「ブルードラゴンの血を」


「もらいに来た」


 空気が、変わる。

 隣で、クラウスが息を止めた。


「……おい」


 低い声。


「正直すぎるだろ」


 ルカが、息を止める。

 小さな龍は、黙っていた。

 喉が、うまく息を通さなかった。


 ──見透かされる。


 小さな龍が告げた。


『その血を』


 静かな声音。


『何に、使う』


 リアンは、視線を逸らさなかった。

 ここに来たのは偶然じゃない。

 飛び込んだのも、導かれたのも。

 その先に立つのは、自分だ。


「救いたい命がある」


 小さな龍の尾が、わずかに揺れる。


『命、か』


 リアンは、続けた。


「そのために対価が必要なら――」


 短く息を吸う。


「俺が、差し出せるものなら――すべてだ」


 言った瞬間。

 喉の奥が、焼けた。


 空間が、静まった。

 誰も、すぐには言葉を返せない。


 ルカの指先が、わずかに震えた。

 クラウスは、何も言わない。

 ただ、リアンの横顔から視線を離さなかった。

 小さな龍は、しばらく動かない。

 やがて、ほんのわずかに高度を下げた。


『……よい』


 それだけ。

 許可でも、約束でもない。


 次の瞬間。

 青白い回廊の奥で、光が揺れた。

 細い道が、浮かび上がる。

 リアンは、無意識に息を止めた。


 リアンは一歩、踏み出す。

 足裏に、確かな感触があった。

 クラウスとルカも、無言で続く。

 三人分の気配だけが、静かな通路を進んでいく。

 奥へ行くほど、空間は広がっていった。

 息が、妙に楽だった。

 やがて――

 視界が、ひらけた。

 思わず、足が止まる。

 そこは、巨大な空洞だった。

 天井は見えず、壁の輪郭も曖昧で、ただ蒼が満ちている。

 水は、ない。

 なのに、ここが湖の底だと、分かってしまった。


 中央に――

 それは、いた。

 山のような胴体。

 幾重にも重なる蒼の鱗は、光を宿し、ゆるやかに呼吸している。

 長い首を折り、身体を丸めるようにして、眠っていた。


 巨大な水の龍。

 ブルードラゴン――アクエリオン。


 威圧は、ない。

 ただ―― そこに在った。


 ──見られている気が、する


 まだ目は閉じられている。

 それなのに。

 この場に足を踏み入れた瞬間から、逃げ場はなかった。

 リアンは、ゆっくりと近づく。

 一歩、また一歩。

 距離が縮まるにつれて、胸の奥の青白い光が、かすかに脈打ち始めた。

 呼応している。

 そのとき。

 巨大な瞼が、わずかに動いた。


 ――ゆっくりと。


 長い時を越えて、意識が浮上するように。

 蒼の瞳が、開かれていく。


 感情は、映らない。

 それでも。

 逃げられない。


 巨大な龍の視線が、三人を包む。

 ただ、すべてを見られていた。


 蒼の瞳が、三人を捉えたまま、動かない。

 言葉はない。

 それでも、空間が応えているようだった。

 そのとき、リアンの視界の端で、微かな光が揺れた。

 振り返る。

 通ってきたはずの通路の入り口――

 そこに、あの小さな龍がいた。

 宙に浮かび、静かにこちらを見ている。

 大きさは、変わらない。

 だが、今はもう、別の存在に見えた。


 ──違う


 小さな龍の金の瞳が、かすかに細められる。

 問いを投げていた眼ではない。

 判断を終えた者の眼。


 次の瞬間。

 小さな龍の身体が、淡くほどけた。


 光が、羽毛のように散る。


 その光が、

 巨大な龍の胸奥へ、吸い込まれていく。


 ──還った。


 同時に。

 巨大な龍の胸奥で、低く、深い脈動が走る。

 空洞全体が、わずかに遅れて応えた。

 水のないはずの空間に、見えない波紋が広がる。


 ブルードラゴン、アクエリオン。


 巨大な蒼の瞳が、リアンへと向けられる。

 逃げ場のない静けさ。

 拒絶は、なかった。

 ただ、確かめるような――

 いや。

 すでに知っている者の眼だった。


 ──ここまで、見ていたのか


 過去を問うでもなく。

 未来を縛るでもなく。

 ただ、この瞬間に立つ存在として、リアンを見ている。

 小さな龍は、役目を終えた。

 あとは、本体が応えるだけだ。



 巨大な蒼の龍が、静かに首を巡らせた。

 洞窟を満たす圧が、三人を等しく包む。

 龍の瞳が、リアンを捉える。

 迷いなく。

 逸れることなく。


『血は、渡そう』


 低く、重い声が、空間に沈んだ。

 クラウスが、はっと息を詰める。

 ルカの視線が、反射的にリアンへ向いた。


『その代わりだ』


 蒼白い光が、龍の眼窩がんかで強まる。

 次の言葉は、はっきりと告げられた。


『――お前の目を、もらおう』


 クラウスが、息を止めた。


「……は?」


 ルカの手が、リアンの袖を掴む。

 掴む。

 離さない。


 リアンの視界が、ぐらりと揺れた。


 龍の蒼い瞳だけが、動かない。

 視線は、リアンだけを捉えていた。


『拒めば』


 沈黙。


『お前は、終わる』


 洞窟が、脈打った。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ファンタジー 第七王子 王家の闇 貴族社会 王宮陰謀 双子 出生の秘密 精霊 七属性 魔法 能力覚醒 成長物語 シリアス ゆっくり恋愛 純愛
― 新着の感想 ―
何でも出すと言った以上、リアンは差し出すのだろうな、と思いました。ブルードラゴンがリアンの眼球をなにに使うのかはさておき。ここまでで、拒むような人柄でもなさそうですし。リアンも。でも、本当に何に使うん…
リアン達がようやく辿り着いた そこには問いかけたのは小さなドラゴン。 そしてリアンはブルードラゴンと合う。 ブルードラゴンの言う対価はリアンの目。 視界を差し出したリアン一体。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ