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第28話 精霊の光は、まだ消えていない

 言葉は、短く、断定的だった。

 玉座の間から、音が消える。

 選択肢は二つ。

 だが、選ばせる気はなかった。

 ユラの喉が、小さく鳴った。

 それでも、膝は折れなかった。

 そのとき。

 アストレアの間の扉が、低く鈍い音を立てて開いた。


「――陛下」


 現れたのは、王の側近であるマティアスだった。

 その背後に、白衣を纏った王宮魔術師が数名控えている。

 彼らは言葉もなく進み出ると、

 玉座の前に横たわる少女の傍らに膝をついた。

 淡い光が、幾重にも重なって灯る。

 その中でひとり、他の魔術師とは異なる術式を組みかけ、

 途中で、静かに止めた者がいた。


「命を受け、精霊の少女を診せていただきました」


 王は、頷きだけで続きを促した。


「肉体の損傷は、回復可能です」


 魔術師の声は、事務的だった。


「ですが、精霊核が傷ついています」


 その一言で、空気が変わる。


「我々の魔術では、核そのものに干渉できません。

 目覚めさせることは、不可能です」


 それ以上、言葉が続かなかった。


 だからこそ。


「――陛下」


 静かな声が、沈黙を切り裂いた。

 玉座の傍らに立つ男――シオンが、一歩前に出る。


「……その死、今である必要はありません」


 視線が、ゆっくりと横たえられた少女へ向く。


「精霊核が損なわれている以上、

 通常の回復手段では意味を成さない」


 事実だけを、並べる。


「ユラは、幼少期から魔力循環を学ばせてきました。

 知識も、適性も、王宮内では上位に入る」


「今ここで切り捨てるより、残しておく価値は、あります」


 王は、すぐには答えなかった。

 沈黙は、思考だった。


 王の視線が、ティアラに定まった。


「精霊の少女を目覚めさせよ」


 命令だった。


「元の状態に戻せたなら――」


 一瞬の沈黙。


「その時に限り、

 お前の望みを聞こう。」


 それでも。

 その命令を前にして。

 ユラは、迷わず膝をついた。


「……はい」

 


 高く、静かな図書塔で。

 三人は、ようやく状況の異常さを理解し始めていた。


「……いつから、そこに?」


 最初に口を開いたのは、レイヴンだった。

 椅子に腰掛けたまま、ルカは足を組み、にこりと笑った。


「ずっと居たよ。

 君たちが、王家封蔵庫へ行く前から」


 リアンとクラウスは、思わず視線を交わした。


 気づかなかった。

 気配も、魔力も。


 レイヴンだけが、表情を変えない。

 そのとき、ようやく理解が追いつく。


 この図書塔には――

 最初から、四人いたのだと。


「王家封蔵庫に、何か面白い情報でもあったのかい?」


 探るような視線。

 軽い口調。

 リアンは、即座に距離を取った。


「……あなたには、関係ありません」


 その言葉に、ルカは一瞬だけ目を細める。

 だが、すぐに楽しそうに笑った。


「君たちの表情を見れば分かるよ。

 何かが、もう動き出してる」


 わずかな沈黙。


「それに――

 僕、最近ずっと退屈してたんだ」


 図書塔の静寂が、かすかに揺れた。


「――もう、遅いかもしれない」


 ルカが、何気なく言った。


「何の話だ」


 クラウスが鋭く返す。


「アストレアの間は、長居する場所じゃない。

 あそこは“見せるため”の場所だ」


 その言葉に、レイヴンがわずかに目を伏せた。

 次の瞬間。


「……光が、移動している」


 低く、確信に満ちた声だった。

 三人の空気が、一斉に張り詰める。


「ティアラは、もうアストレアの間にはいない」


「静養室だろうね」


 ルカが続ける。


「誰も長く使わない場所。

 隔離じゃない。

 ――回復させるための、名目上の部屋だ」


 その言い切りに、リアンの胸がざわついた。


 ……厄介だ。

 だが。

 役に立つ可能性は、否定できない。

 気配への感度。

 位置を読む勘。

 そして、この反応の速さ。

 偶然で済ませるには、精度が高すぎる。

 制御できるなら――

 今は、切り捨てる存在じゃない。

 少なくとも、判断を保留する価値はある。


「……勝手について来るなとは言いません」


 リアンは、静かに告げた。


「ただし、自分の指示に従ってください。

 それができないなら――ここで別れます」


「ま、リアンが言うなら」


 クラウスは肩をすくめる。


「好きにすればいい。

 裏切ったら――その時は容赦しないけどな」


 ルカは一瞬きょとんとしたあと、

 小さく笑った。


「はは……厳しいね。

 でも、嫌いじゃない」


 肩をすくめて、あっさりと言う。


「分かったよ。

 君の指示に従う」


 レイヴンの視線が、

 リアンとルカのあいだを、静かに往復した。

 判断を下したのは、リアンだ。


 ――問題は、そこじゃない。


 光は、まだ動いている。


「……光は、静養室で止まっている」


 レイヴンが、短く告げた。

 それ以上の説明はなかった。

 だが、誰も疑わなかった。

 ルカの口元が、わずかに緩む。


「ほらね」


 まるで、最初から分かっていたかのように。


「だから言ったでしょ。静養室だって」


 クラウスが、ふっと息を吐いた。


「……なるほど」


 軽い調子だが、目は鋭い。


「最初から“流れ”を見てた感じだな」


「たまたまだよ」


 ルカは曖昧に笑う。


「見てれば、分かることもある」


 レイヴンは、誰の言葉にも反応しなかった。


 ただ。

 光の移動を捉えられた者がいた。

 それだけを、事実として受け取った。


「……静養室へ行く」


 リアンは、そう言った。

 その一言で、決まった。

 四人は、図書塔を後にした。





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