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禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


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第10話  第六王子レイヴン──光に感情を奪われる王子

 青白い光が、先ほどの余韻を残したまま――完全には消えきらず、揺れていた。


 そのとき。

 空気が、震えた。

 室内の一点に、淡い光が灯る。

 小さな光。

 だが、確かにそこに“在る”。

 次の瞬間、光が広がる。

 粒子がほどけるように散り、

 同時に、引き寄せられるように収束していく。

 形を持たなかった光が、輪郭を得る。

 人の、かたちへと。

 音はない。

 気配だけが、静かに満ちていく。


 誰も、動けない。

 その光景を、ただ見ていることしかできなかった。

 やがて。


 光が、完全に収束する。


 ――そこに、いた。


 最初から存在していたかのように。


 淡い金の髪。

 静かな青の瞳。


 少年の面影を残しながらも、

 感情の揺らぎを削ぎ落としたような、冷ややかな気配を纏っていた。


 その瞬間。

 張り詰めていた空気が軋む。


 クラウスが、半歩前へ出る。


 ユラは無言でクラウスの間合いに滑り込み、その背を守る位置を取る。


 アルバートは動かない。

 膝をついたまま、背を崩さず前を見据えている。

 その腕を、リリスが掴んでいた。

 強く。

 離さないように。

 体を預けたまま、視線だけは逸らさない。


「……久しぶりだな、レイヴン」


 アルバートが、膝をついたまま低く告げる。


 リリスの瞳が、わずかに揺れた。


「……レイヴン……なのですか……?」


 かすれた声。


 ――第六王子。

 王家の光を強く継ぐ者。


 その名に、場の空気がわずかに緊張を帯びる。

 リリスの脳裏に、遠い記憶がよぎる。

 幼い頃。

 屋敷の庭の端に、

 いつの間にか立っていた姿。

 気づけば、そこにいる。

 声をかける間もなく、

 ただ、淡い光をまといながら、空を見上げていた。

 何も語らない。

 近づくこともない。


 ――ただ、在るだけの存在。

 

 そして。

 気づけば、いなくなっている。

 いつからか、その姿を見ることもなくなっていた。

 リリスの唇が、わずかに動く。


「……やっぱり……レイヴン、なんですね……」


 小さく、そう漏れる。

 レイヴンは答えない。

 視線をまっすぐに向ける。


 ――ティアラへ。


 瞬間。

 ティアラの髪先から、白金の光の粒がほどけた。

 ふわりと浮かび上がる。


 それに呼応するように、

 レイヴンの光が、揺らいだ。


 一度。

 淡く、強まる。

 そして静かに戻る。


 まるで、呼吸するように。

 ふたつの光が、

 同じ律動を刻みながら、明滅を繰り返す。


 ティアラの瞳が、揺れた。

 息が、止まる。

 引き寄せられるように、

 その視線が、レイヴンを捉える。


 触れない。

 だが確かに、響き合っている。

 静かに。

 深く。


 空気そのものが、透き通るように澄んでいく。


 リアンの視線が、わずかに揺れる。


 あの共鳴の中にいるのが、

 自分ではない。


 それだけが、消えない。


 リアンの視線が、

 無意識にレイヴンへと戻る。


 レイヴンは、動かない。

 その視線だけが揺れた。

 感情を削がれているはずのその瞳に、

 ほんの一瞬だけ、微かな揺らぎが生まれる。


 ――この光は。


 思考ではない。

 言葉にもならない。


 ただ、

 視線を外すべきだと分かっているのに――


 一瞬、遅れた。


 それが何なのか、分からないまま。


 レイヴンは、そのまま一歩、ティアラの前へと進む。


 リアンは、足を踏み出しかける。

 無意識に、ティアラの前へ出ようとした、その瞬間。

 クラウスの腕が、何も言わずにその進路を遮った。


「……何の用だ」


 低く、抑えた声。

 レイヴンは、ようやく口を開いた。


「……確かめに来ただけだ」


 温度のない声音。

 リアンの視線が、鋭くなる。


「王命か」


「違う」


 即答だった。

 間を置かない否定。


「……俺の光が、反応した」


 静かな声。


「それが何に対してか――それを見に来ただけだ」


 視線は、ティアラから外れない。

 ティアラの指先が、わずかに震える。

 胸の奥。

 精霊核が、かすかに脈打つ。

 戸惑いが、静かに滲んでいた。


 リアンの胸の奥が、軋む。


 視線が、ティアラへ向き――そのままレイヴンへ移る。


 ティアラの光は、細かな粒となってこぼれていた。

 白金の輝きが、空気に溶けるように散っていく。

 対して。

 レイヴンの光は、違う。

 淡い金の光が、その身を包むように静かに滲んでいる。


 似ている。


 だが――決定的に、異なる。


 本能が、わずかに拒むような違和感だけが残った。


 空気が張り詰める中――


 レイヴンの視線が、森の奥へ向く。

 遠くの気配を捉えたかのように。


 「……気配が、集まっている」


 短い一言。

 その場の気配が、ぴたりと止まる。

 クラウスが、低く吐き捨てた。


「……夜織だ。さっきの連中の増援だろ」


 レイヴンの視線が、動く。


「夜織……?」


 その言葉を、なぞるように呟く。

 アルバートが、静かに続けた。


「ティアラを狙う部隊だ。すでに一度、ここを襲っている」


 レイヴンは何も言わない。

 ただ一度だけ、外へ視線を向ける。

 そして、足元に淡い光が立ち上った。


 隠すための光ではない。

 むしろ――引き寄せる。


「このままでは、ここに集まる」


 温度のない声。


「強い光は、それだけで標になる」


「俺が動けば、そちらへ流れる」


 断定ではない。

 だが、迷いもない。

 アルバートが、低く問う。


「……引き受けるつもりか」


「結果として、そうなる」


 短い返答。


「……頼む」


 アルバートの声は低い。

 レイヴンは、頷く。


 そして、最後にティアラを見る。


 ほんの一瞬だけ。

 その視線が、止まる。

 先ほどの違和感が、まだ、消えていない。

 レイヴンの声が、低く落ちる。


「……ここにいろ」

 

「……いずれ、また来る」


 その言葉だけを残し。

 光が、一気に広がる。


 次の瞬間。

 その姿は、跡形もなく消えていた。

 残されたのは、わずかに揺れる、白い残光だけ。


 ユラは、消えた光の名残を追うように森の奥を見つめたまま、低く呟いた。


「……あの光……夜織なら、きっと追う」


 夜霧が遅れて流れ込み、風が葉を揺らす。

 ようやく、世界が動き出す。


 ティアラは、その場に立ち尽くしたままだった。

 胸元に手を添える。

 呼吸が、わずかに乱れている。

 視線が、落ちる。

 髪先。

 白金の光の粒が、まだ消えきらずに瞬いていた。

 かすかに。

 一定ではない揺らぎで。

 まるで、何かの余韻が、残っているかのように。


 誰も、すぐには言葉を発しなかった。

 あの場に残っていた“何か”が、まだ消えきっていなかった。


 その沈黙を、そっと破るように――

 リリスが、尻尾を垂らしたまま呟く。


「……レイヴン……前より、ずっと……近づいちゃ、いけない感じがする……」


 その言葉に、わずかな沈黙が落ちる。

 アルバートが、静かに口を開いた。


「……王家の男子が受け継ぐ光はな」


 一度、言葉を切る。

 迷いではない。

 重さを選ぶように。


「使うほどに、感情を削ぎ落としていく」


 王家の光は――

 何を守っている。


 人を削ってまで、

 守る価値があるのか。


 その問いだけが、

 胸の奥に、重く沈んだ。


 リリスの瞳が揺れた。


「……そんな……それじゃ……まるで、呪いじゃないですか……」


 震える声。

 アルバートは、目を伏せる。


 否定はしない。

 肯定もしない。

 ただ、その沈黙だけが答えだった。


 クラウスは何も言わない。

 一度だけ、小さく息を吐く。

 すでに理解している者の、静かな受け止め方だった。


 ティアラは、わずかに首を振る。


「……そんなこと……あっていいはず、ありません……」


 かすかな否定。

 信じたくないというより、

 それ自体を、拒むような響きだった。

 胸の奥に残る、あの共鳴の余韻。

 あれが“失われていくもの”だとは、思えなかった。


 リアンは、何も言わない。

 わずかに視線を落とす。


 あの一瞬。

 確かに、動いたはずだった。

 消えかけているはずの感情が。

 ティアラに向けて、ほんのわずかに、揺れた。


 ――それすらも、消えていくのか。


 ……それで、いいのか――


 胸の奥に、言葉にならない違和感だけが残る。



 森のさらに奥――

 夜霧の中を進んでいた夜織の別動隊が、同時に足を止めた。


「……光だ」


 誰かが、低く呟く。


 次の瞬間。


 遠く、アルシェ家の方角から、

 ひとすじの光が、空を裂くように立ち上った。


 淡い光。

 はっきりと視認できるほどの強さで。

 それは、一瞬だけその場に留まり――

 次の瞬間には、弾けるように位置を変える。

 点のような、かすかな光。


 確かに“動いている”。


「……移動している……?」


 追うように視線を向ける。

 光は、一定の距離を保ったまま、

 まるで誘うように、森の奥へと揺れ動いていた。


「……追え」


 短い命令。

 夜織の者たちが、一斉に駆け出す。

 しかし、追いつけない。


 光は消えない。

 だが、決して届かない。


 近づけば離れ、離れればまた別の場所に現れる。

 まるで、こちらの動きを読んでいるかのように。


「……転移……いや、連続転位か……!」


 焦りが、滲む。

 気づけば、周囲の気配が、変わっていた。

 結界の気配が、遠い。

 屋敷の位置を示していた感覚が、曖昧にほどけていく。


「……誘導されている……!」


 その瞬間。

 光が止まった。

 夜霧の奥。

 静かに、そこに在る。


 次の瞬間。

 それは――爆ぜた。

 眩い光が、一気に広がる。

 視界が、白に塗り潰される。


「――っ……!」


 反射的に目を覆う。

 遅れて、感覚が歪む。

 方向が、分からない。

 位置も、距離もすべてが狂う。

 光が、収まったとき。

 そこには、もう何もなかった。

 残されたのは、

 わずかに揺れる、残光だけ。


「……馬鹿な……」


 誰かが、呟く。

 しかし、返答はない。


 夜霧の奥で、その光は――


 “ここから先へ来るな”と――

 そう告げるかのように、

 静かに、消えていった。


 まるで――ここから先へ踏み込むなと、

 境界線を引くように。










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― 新着の感想 ―
レイブンの登場は、リアンの心に軋みをもたらしました。光という面では、レイブンのほうが共鳴できて。ティアラもまたリアンだけが独占できるものではないのではないと。暗示的なものを感じました。世の中に2人だけ…
なろうへのコメントありがとうございました。 リアン、ティアラ、レイヴン。 この三人の関係性がどう動いていくのか、すごく気になります。 特に“光の共鳴”がそれぞれ微妙に違って見えるのが印象的でした。
リアルを見たリアン。 そんな中リアンは目の前の敵からみんなを守ることができるのか!? 続きも楽しみです°・*:.。.☆
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