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第8話 光の器と迫る影

 夜の屋敷は、ひんやりとした静寂に包まれていた。窓から差し込む月光が床に長い影を落とし、眠るティアラの胸元の光はかすかに揺れている。


 リアンは椅子に座ったまま、そっとティアラの手へと自分の手を近づける。触れ合う寸前、その手のひらへ滲むように流れ込む淡い光は、眠る少女の意思そのもの――ティアラが自ら選んだ「光の器」の証だった。

 アルバートが静かに呟く。


「……光は、もう迷っていないな。リアン」


 リアンは自然と息を整え、光の温もりを感じながら、胸の奥で静かに覚悟を決める。

 リアンは、言葉にせず、その光を受け止めた。


 クラウスは窓辺に立ち、遠くの森を見つめながら呟いた。


「王都の連中も、この光の存在に気付けば、必ず動くだろう……」


「ならば、先に動くのは俺たちだ」


 リアンの声は揺るがない。胸に宿る光の器としての覚悟が、彼の言葉に力を与えていた。


 リリスはティアラの傍に座り、ずれかけた毛布の端を静かに戻した。


 ティアラは眠りながらも、わずかに手の先をリアンの手に重ねる。その指先から光が伝わり、リアンの胸に静かな温もりを落とす。

 ティアラの信頼、その全てがここに宿っている。

 アルバートは瞳を細め、静かに頷いた。


「……リアン。その光は、もうお前の在り方に応えている。重さを測る段階は過ぎた」


 リアンは言葉を返さず、ただ胸に決意を刻む。


「……どんなことがあっても、君を守る……ティアラ」


 月明かりが屋敷に差し込むと、ティアラの胸元の光もそれに応えるように微かに揺れ、未来への序章を静かに告げた。


 ――光の器、リアン。

 ――その光を背負い、少女と共に歩む使命は、まだ始まったばかりだった。



 屋敷の外、夜の闇に紛れるように王都からの影が迫っていた。森を抜け、結界の外側に潜むその気配は冷たく、静かに屋敷を取り囲む。


 クラウスが眉をひそめ、低く囁く。


「……結界が、一部破られている」


 アルバートの瞳が鋭く光る。


「なるほど。影が屋敷へ迫っているな」


 リリスの尾が小刻みに揺れ、空気に緊張が走る。


「リアンお……お兄様……どうし……」


 リアンはティアラから流れる光を感じながら、深く息を吸い込み胸の奥に熱い決意を灯していた。


 ――もう、離すという選択肢はない。


 アルバートは静かに告げる。


「屋敷の結界が破られようとしている。今はお前の光も、影への抑止として力を貸す時だ」


 リアンの掌に残る微かな光が揺れ、外の影に向けて微かに反応する。その光は結界に干渉するわけではない。しかし、屋敷に守られた空間の中で、侵入者に対して意思を示す役割を持つ。影はその光を避け、進行をためらう。


 クラウスは腕を組み、苦笑する。


「……やれやれ、静かにはさせてもらえそうにないな」


 リリスはティアラの髪を撫でながら、優しく微笑む。


「怖くないよ。ここに、みんながいるから」


 リアンは頷き、強く言った。


「――俺が前に立つ。ティアラ。結界も、みんなもいる。だから大丈夫だ」


 ティアラの指先がリアンの手の中で微かに震え、二人の間に確かな絆が生まれる。


 外の影は屋敷の結界の前で苛立ちを滲ませながらも、まだ踏み込むことはできていない。

 アルバートは静かに頷き、深く息をつく。


「お前の光もまた、この子を守る意思の象徴だ。屋敷の結界と共に、今はまだ安全だ」


 リアンはティアラの手を握り返し、胸に光を抱く。窓から差し込む月光が二人を淡く照らす。その光は小さいが、これから始まる嵐の前触れとして、確かに未来を照らしていた。













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