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一通目(あなた → 私)

拝啓

お久しぶりです。突然の手紙でさぞ驚かれたことと思います。

怖い内容ではないので、最後まで読んでもらえると嬉しいです。


まずは、謝罪させて下さい。

私はあなたに嘘をついていました。隠しごともしていました。

何のことかと首を傾げていると思います。

まずは私の身の上話からになりますが、どうか聞いて下さい。



私は幼い頃から重い病気を患い、入退院を繰り返していました。

かつて、そう、あなたが思いを伝えてくれたあの日の少し前、十日ほど留守にした時のことです。

パソコンの故障だと伝えていましたが、本当は容体が悪化し、急遽入院していました。


知られたくないとか、心配されたくないとか、哀れに思われたくないとか、色々思うところがあって、嘘をつきました。ごめんなさい。


子供の頃から二十歳を迎えられるかどうかと宣告されていたので、引きこもりがちで友人らしい友人も殆どおらず、現実から目を背けるように、オンラインゲームに傾倒していました。


そんな時、数少ない友人に誘われて入った集まり。

そこで出会ったのが、あなたでした。



初めあなたは口数も少なく、一人でいることの多い引っ込み思案な人、という印象でした。


声をかけても長い沈黙の後、ぽつりと短い定型文が返ってくるだけ。

人付き合いが苦手、あるいは嫌いなのかなと思って、勝手ながら少し親近感を覚えていました。


だから最初は、私の方がずっと苦しいんだぞという感じで、追いかけ回して、少し嫌な気持ちにさせてやろうと思っていました。


嫌われたところでどうせ、私の人生はすぐ終わってしまうから、関係ない。


それよりは、どんな感情でもいいから、少しでも自分の記憶を誰かに覚えていてほしいと、そんな、捻くれた考えでいました。


けれど、そんな私の気など知らず、あなたはとても自由でした。


たった一人でも、ゲームの世界を一生懸命に楽しんでいたあなた。

そんなあなたを近くで見ているうちに、私は途端に白けて、自分がちっぽけなものに思えました。


画面に映るあなたがどうしようもなく眩しく見えて、羨ましくて、急に、嫌われるのが怖くなった。

あなたに嫌われることが、まるで世界の終わりのように感じられました。



それからは一転して、あなたの気を引こうとしました。

「友達の作り方」とか、「コミュニケーションのテクニック」とか、両親の買ってきたそんな本を読みながら、一生分の頭を使って。


それまでまともな人間関係を結んだことがなくて、他人との距離の測り方がとにかく分からなかった。

ただ、嫌われるのではなく、好きになってほしいと思った。


本を読む時間はいくらでもあったから、色々試行錯誤して、プレゼントに頼ってみたりしたこともあったけど、それまでの印象が悪かったせいか、裏目に出てしまって、あまり手応えは感じられませんでした。



だからあの時は、入院から帰って、あなたから告白された時は、本当に驚きました。

あまりに驚きすぎて、咳が止まらなくなって、危うくまた救急車を呼ばれるところだった。


どうしてそうなったのかは分からなかったけど、どうでもいい。

やっと念願叶って、思いが通じて、好きになってもらえた。

思わず立ち上がって、机に足をぶつけるくらい嬉しかった。


でも、咳が治まって、すぐにでも返事をと思ったその時、急に頭から血が引いて、手が止まりました。


好きになってもらって、それからどうする。


私は、長くない。

たとえ両思いになれて、付き合うことができたとしても、私はあなたを遺して、すぐにいなくなってしまう。


私はよくても、遺されたあなたはどんな思いをするだろう。

そう考えたら、手指が石のように強張って、動かなくなりました。


きっと、断るべきでした。

あんなに嫌がらせをしていたのだから、空回りをしていたのだから、そんな相手を好きになるなんて変な奴だとでも言って、手酷く振ってあげた方が、きっと、あなたのためだったと思います。


でも結局、私は自分の中の恐怖に勝てませんでした。

また嫌われたくないと、せっかく好きになってもらえたのに、嫌われたまま終わりたくないと、断ることができなかった。


溢れる涙を拭いもできず、唇を噛みしめながら、がくがくと震える手で、「よろしくおねがいします」と打ちました。



隠しごとをしたままなのは苦しかった。

けれど、その日からのあなたとの時間は、そんな苦しみを一瞬忘れてしまうくらい、まるで夢のようなものでした。


これまでは嘘で、ここからようやく私の人生が始まったんだと、そう、未来を思い描いてしまうくらい、色鮮やかなものでした。


あなたの素直さと人柄の温かさに、隠しごとの後ろ暗さも、捻くれねじ曲がった心も溶かされて、まるで、濁った水が瞬く間に透き通っていくようでした。

ずっと暗く、くすんで見えた世界に、夜明けが訪れたようでした。


この頃の私はそれまでの人生の中で一番というくらい調子が良く、掛かりつけの先生も言葉を失っていました。

病は気から、というのは本当ですね。



そんなバラ色の数年間もあっという間に過ぎ去って、社会人となったあなたがとんと顔を見せなくなった時、正直私は心の中で「ああ、やっぱり」と、妙に納得していました。

案じていた通りになった、と。


あなたは穏やかで優しい反面、不満や自身の考えを表に出しづらい人だったから、遠慮のない社会の重圧に押し潰されてしまわないかと、心配していました。

頑張ろうとしているところに水を指すようで、当時は言えなかった。


私には想像もできないような、大変な苦労をしているんだろう。

帰ってきたら、どんな言葉で迎えてあげたらいいだろうか。

そんなことを考えていたけれど、結局、あなたはそのまま、帰ってくることはありませんでした。



もちろん、悲しくはありました。

あなたがいないだけで、いつも並んで座っていたその場所が、妙に、広く感じられた。

告白前のあなたも、こんな思いだったのかと、心臓が痛かった。


でも勘違いしないで下さい。

あなたを恨むようなことはありません。


むしろその逆で、このまま関係が終わってしまったら、あなたの中に罪悪感が残ってしまうんじゃないかと、そう考えて、この手紙を残すことにしたんです。


あなたが帰ってこなかったあの時、私はチャンスだと思いました。


残された時間が長くないことを、あなたにどう伝えようかとずっと悩んでいたから、自然とあなたが現実を優先し、私のもとから飛び去ってくれるのならその方がいいと、そう考えました。


でもそれだけだと、優しいあなたはきっと気に病むだろうから、だからここから先を、よく読んで下さい。

私の、心からの思いを書き残します。




私は、あなたを恨んでいません。

私の中にあるのは、あなたへの大きな感謝だけです。


生まれ持った理不尽な境遇に捻くれ、不貞腐れていた私を、あなたはその類まれな優しさと温かさをもって寄り添い、立ち直らせ、今を精一杯生きるということを教えてくれました。


どれほど感謝してもし足りない、そんな大恩あるあなたの中に、傷として残りたいとは、これっぽっちも思いません。

だからどうか、気に病まないで下さい。


それよりもできることなら、これからも大変な人生を歩んで行かなければならないあなたの、ほんの小さな、支えの一助となりたいと、そう願っています。



この手紙は多分、私がこの世を去ったあとに、友人の手を介して、あなたのもとへ届くでしょう。


人見知りで、控えめだったあなた。

自分の思いを人に伝えるのが苦手でしたが、今はどうでしょうか?


もし変わらず、今も苦手だったとしても、どうか、一人で抱え込まないで下さい。


私も沢山の人に支えられて、ここまで生きてこれました。

できることは一人一人違って、みながみな、同じではありません。


自分にできることは頑張って、できないことは誰かを頼って、沢山の人と支え合いながら、あなたの歩幅で、これからの長い人生を精一杯、乗り越えていって下さい。



思ったより長くなってしまいました。

最後に、これだけは伝えさせて下さい。


あなたと過ごした時間、ほんの短いひと時ではありましたが、それでも、あの頃が人生で一番の時でした。

世界で誰よりも、私は幸せでした。


時々でもいいので、そういえばこんな変な人も居たなとか、思い出してもらえると、嬉しいです。


私は一足先に旅立ちますが、これからも変わらず、あなたの幸せを願い続けています。


いつかまた、どこかで巡り会えたその時は、今度は回りくどいことをせずに、私から、思いを伝えます。



それではこれにて、失礼致します。

どうかくれぐれも、ご自愛下さい。




ありがとうございました、心より。

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