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クソラノベを編集したら修羅場ハーレムになった  作者: 夏目くちびる
ハーレム誕生編

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033 最悪の初恋

 唇を拭い、呼吸を整える。

 どうしてかは分からないが、とんでもないことが起きていることは確かだ。



 俺は、ひっくり返りそうな感覚を必死に保ち、鞄を零したまま立ち尽くす牧野に問いかけた。



「俺は、お前を裏切ったと思うか?」


「……な、なにそれ」


「大事なことなんだ、答えてくれ」


「……そんなの、分かるわけないよ」


「なら、今はジッとしてて欲しい。一つずつ片付ける」



 俺は、大きなため息をついてから、一歩踏み込んで女子生徒の顔を見る。



「どこから仕組まれてた?」


「どういうこと?」


「俺は、ネットニュースを学内に広めた奴がいると思ってる」



 いくら、醜態がメディアで取り上げられたとは言え、文ジェネは小説に興味がなければ覗かないコンテンツだ。



 普通、こういう局所的なネタを一般人が知ることになるのは、MAD動画や掲示板で散々イジられてミーム化した後だろう。



「つまり、現時点で情報の爆発が起きてないのに、酉島高校だけが燃えていることになる」



 文ジェネの配信日は土曜日。

 学校の無い日曜日には拡散されていなければ、月曜に暴力を受けたことの説明がつかない。

 ならば、酉島高校の生徒だけが知る機会があった、と考えるのが自然だろう。



「花君の知らないことって何?」


「ライングループだ。

 存在だけは知っているが、俺は参加してないからな」



 今思えば、宮崎と佐伯の反応も不自然だった。

 二人は、ネット記事のことではなく「ネットのこと」と言って俺を心配していた。



 つまり、出回ったネタはニュース記事そのものではなく、俺を貶めるための偏向的な情報だったことになる。



「これらのことから、酉島高校の内部に犯人がいることは想像出来た。

 問題は、個人の特定にまで辿り着けるのかという点だが――率直に言って、これは不可能だと思っていた」



 俺が予想していたのは、牧野を好きな男子生徒だった。



 佐伯との一件で、牧野が作家であることはバレていなくとも、文芸部に所属していることは露呈してしまっている。



 そのことを知った者による嫉妬の犯行ならば――あまりにも容疑者が多過ぎる。

 だから、絞り込めるわけがない。ほとぼりが冷めるまで待つという結論に至ったのは、そういう背景があった。



「しかし、犯人の目的が俺なら話は別だ。

 心当たりは二つ。俺の人生、そうイベントが多いわけじゃないからな。

 即ち、本所誠に不敬を働いたことを恨む奴。そして――」


「バレンタインチョコを、あげた人」



 ……なに?



「ま、牧野。お前、何言ってんだ?」


「彼女は、隣のクラスの志田(しだ)さんだよ」


「勝手に話を進めるな。

 俺が言ってるのは――」


「一週間前、私に恋愛相談をしてくれたの。

 ずっと、片思いの男の子がいるって」



 酷い耳鳴り。

 心臓が、締め付けられるような感覚。



「私、彼女の背中を押したの。

 告白した方がいいって」



 膝から力が抜け、蹌踉めいた俺は、膝をついて志田を見上げる。



「なん……で……」



 彼女は、俺を見下ろしながら言った。



「誰よりも、あなたが好きだったから」



 ……。



「牧野さんがね、言ってくれたの。

 相手が鈍感なら、気付かれるくらい強引にアプローチした方がいいって」


「う、嘘つくな」


「花君の一番近くにいる女子が、あたしの気も知らないで偉そうにアドバイスするんだもん。

 ほんと、辛かったなぁ」


「デタラメ言うなよ!!

 大体、なんで今になってこんなことするんだよ!? タイミングなんて幾らでもあったろ!?」


「だって、一番効きそうな時を狙ってたから」


「……は?」


「花君、今が一番大切な時でしょ?

 だから、復讐するなら今かなって」



 ……なるほど。



「あたし、そう思ったの」



 そうか、目的は復讐か。



 ありがとう、分かりやすくなったよ。



「あんた、俺をどうしたいんだ?」



 俺は立ち上がり、大きく深呼吸をした。



「決まってるよ。

 あたしのカレシにして、文芸部を滅茶苦茶にするの」


「なぜ?」


「……なぜって、なにが?」


「文芸部を滅茶苦茶にする。

 これに関してはよく分かる、俺の生き甲斐を奪うわけだからな。

 ただ、カレシにするって部分が分からない。あんたにとって、メリットがない」


「好きな人を恋人にすることの、どこが分からないの?」


「そこがズレてる。

 あんたは、俺のことを好きだったわけじゃない」



 志田から、笑顔が消えた。



「なに、言ってるの?」


「あんた、チョコの手紙に自分の名前を書かなかったじゃないか。

 どうせ、それも罰ゲームだったんだろ?」


「そ、そんなわけないでしょ!?」


「本当か?

 あの時、俺はまだ、薬丸の編集をやってなかった。

 特別仲がよかったわけじゃない。たまたま席が隣で、相談したのがあいつだっただけだ。

 それなのに、あんたは自分の名前を伝えなかった。矛盾してる」



 俺は、景色全体を視界に入れて、志田、牧野の二人を観察しながら続ける。



「今日の告白もそうだった。

 つまり、あんたは好きだと思ってる男に好意を伝えるのも、人に言われないとやれない性格だってことが分かる」


「そうじゃない、あれは――」


「そんな奴が、俺を好きになる理由なんて一つもない。

 なぜなら、俺が助ける理由を持ってないからだ」



 もしも、俺が鈍感ならば、色んな女子と関わって生きてきた奴なら、無意識に彼女を助けた可能性もなくはなかった。



 でも、花朔太郎はそうじゃない。



 一人ぼっちで生きてきた俺が、女子との関わりを忘れるわけがない。

 平凡な俺のことを好きになるには、必ず理由がある。ならば、その理由の存在しない告白なんて信じる方がおかしい。



「嘘じゃない!!

 あたしは、あなたのことが――」


「そして、これが一番重要なんだが――牧野が、お前の告白を『嘘告』と言ったんだ」



 牧野は、目を大きく見開いて息を呑む。



「……え?」


「こいつが、恋愛相談してきた相手の感情を読み間違えるわけがない。

 俺は、そのことを誰よりも知ってる」



 渡り廊下で、牧野は確かにそう言った。



 志田のことを知っていたのに、彼女は『嘘告』だと俺に言ったのだ。



「だから、俺は牧野を信じる。

 あんたは、俺のことを好きじゃなかった。いや、正確には『好きだと思い込んでる』か」



 すべてを、即座に受け入れられるわけがない。



 それでも、彼女の感情に亀裂を入れるには足りたようだ。



 志田は、後退りして、化け物でも見るかのような目で俺を見た。



「ち、違う。そうじゃない。

 あたしは、花君のことが……っ」


「では、なぜあんたが俺を好きだと勘違いしてしまったかだが――これは簡単だな。

 俺が、あんたを好きだったからだ」


「……やだ」


「あんた、知っちまったんだろ。

 俺が、薬丸に初恋を語ったこと」


「そうじゃ、ない」


「すると、あんたの中には罪悪感が芽生えた。

 自分の嘘を、俺は本気で信じたんだからな。女子中学生が病むには、充分過ぎる理由だ」


「そうじゃない!!」


「ところが、俺はホワイトデーであんたへの恋を止めてしまった。

 つまり、あんたは嘘をバラすタイミングを今日まで失ってしまったわけだ」



 思考を加速させ、ここまでに出揃った要素を証拠に()()()()()()



「だから、あんたは俺のことばかりを考えるようになった。

 許されたい、謝りたい。自分が悪人でいることを、素直に認められる人間なんてそうはいないからな。

 その罪の意識に耐えられなかったあんたは、一年以上の時間をかけて、ゆっくりと認識を変えていった」



 そして、志田の恋心の正体を、偽の真実で塗り替える。



「つまり、勘違いだ。

 あんたは、最初から、俺のことを好きじゃなかった」


「……っ」


「ならば、俺があんたに言うべき言葉は一つ」


「や、やめ――」



 しかし、俺は躊躇せず、彼女を解き放った。



「許すよ」



 志田は、崩れるように地面に両膝をつき、俺を見上げたまま涙を流した。



「……あたし、今まで何をしてたの?」


「……志田さん」



 呟き、牧野は志田から目を逸らす。



「ねぇ、花君。

 教えてよ。あたしは、一体――」


「既に、教師陣は勘付いてる。

 発信源を特定される前に、逃げておいた方がいい」



 その一言で、俺は志田の心を完全に叩き折った。



 悪を誤魔化す気は、少しも無かった。



「……ごめんなさい」



 それから、志田はどれくらい泣いていただろうか。

 遠くの汽笛の残響が低く響いた後、項垂れたまま公園から出て行く。



 残ったのは、辛そうに俯く牧野と、自分を好きだったかもしれない女の子を泣かせた最悪な俺だけだった。



「なんで、私は守ってもらってばかりなんだろ」



 ……。



「幸子も、類ちゃんも、凄く頑張ってるのに。私だけ、何も……っ」



 瞬間、牧野は縋るように、俺の右手を掴んだ。



「怖いよ、花」


「……どうして」


「私が書けなくなったら、あんなふうに見捨てられるの? 私が、つまらなくなったら――」



 ……。



「そんなの、やだ……っ」



 俺は、何も言えなかった。



 今は何を言ったって、嘘にしか聞こえないだろうと諦めたからだった。

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― 新着の感想 ―
真実はいつも一つ、というセリフがある。 一方で、事実は一つしかないが、真実は人の数だけある、という話もある。 彼女の真実を、別の真実で上書きしてしまった。それは、やっぱり罪なんだろうけど。
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