表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クソラノベを編集したら修羅場ハーレムになった  作者: 夏目くちびる
ハーレム誕生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/43

032 ファーストキス

 この虐めに、意味なんてない。



 そもそも、彼らは誰も、虐めだとすら思っていない。

 おもちゃが置いてあるから、遊んでいるだけ。

 それが、きっと彼らの共通認識なのだろうと、俺は物理の授業をぼんやりと聞きながら思った。



「力、貸すか?」



 帰り支度をしている俺へ、相変わらず唐突に寛が言う。



「やめとけ。

 全国大会が控えてるんだろ? 校内暴力を起こせば、出場停止くらいにはなるぜ」


「暴力なんてしねぇよ」


「いや、やるね。

 だって、お前、俺のこと好きじゃん」


「……言ってろ」



 寛は、少しだけ笑って俺の肩を叩く。

 そんな俺たちに近づいてくる、意外な男子の姿が目に入った。



「ネットのこと、見たぞ。

 あれ、本当のことか?」


「見たままだよ、佐伯」



 彼の後ろに視線を向けると、ヒソヒソと話すグループの中で一人、牧野だけが心配そうに俺を見ていた。



「……お前、本当にムカつくな」



 人には生まれつき、どうしても相容れない奴ってのがいるらしいが――どうやら、俺たちは互いにそう思っているようだ。



 安心した。

 俺の一方通行だったら、どうしようかと思ってたところだからな。



「それで、なんの用だ?」


「助けたいんだ、お前のこと」


「なんで」


「……お前、頭に包帯巻きながら『なんで』はないだろ。

 状況、分かってないのか?」


「分かってる。

 だから、訊いたんだろ」


「はぁ?」


「俺の味方なんてしたら、お前らがバカにされるって言ってんだよ」



 佐伯は、拳を握ると俺を睨みつけた。



「なんだよ、それ。

 俺には、お前を救えないって言うのか?」


「実力の話じゃない、スケールの問題だ。

 今、酉島高校の生徒は、世間の風評を味方に俺を測ってる。

 幾らお前がクラスのリーダーでも、ここまでデカくなった問題を解決するのは厳しい」


「やってみなきゃ分からないだろ。

 みんなを説得すれば、上手くいくかもしれないじゃないか」


「だから――いや、もういい。

 とにかく、俺のことはほっとけ。今は、ほとぼりが冷めるのを待つしかないんだ」


「……ふざけやがって」



 佐伯は、唇を噛み締めてから踵を返す。

 寛も呆れた様子で首を横に振り、鞄を背負って教室から出て行った。



「……やれやれ」



 部室へ向かう途中、走って追いかけて来た牧野が何も言わず俺の腕を掴んだ。



 下を向いて息を切らせている。スクールバッグが開いている。

 それだけで、彼女が佐伯たちと何を話し合ったのか少し分かった気がした。



「どうして?」



 ……。



「どうして、こんな目にあってるのに、他人事みたいにいられるの?」


「本所誠に質問した。

 読書家にとって、これ以上の罪はない」


「そんなことないよ!!」



 顔を上げた牧野は、乱れた前髪のまま俺を真っ直ぐに見据えた。



「花は、幸子を助けただけじゃん!! むしろ、褒められることをしたんじゃん!!

 なのに、陰口言われて!! 嘘告されて!! 包帯まで巻いて!!

 こんなの絶対におかしいよ!! どうして、みんな――」


「面白いから、じゃねぇかな」



 『絶句』という言葉が、これ以上相応しい表情を、俺は今まで見たことがない。

 そう感じるほど、牧野は絶望にくれた顔をしていた。



「面白ければ、何をしたって構わない。

 俺のやって来たことが、そっくりそのまま返ってきただけさ」



 手が離された。



「……面白くなんて、ない」



 俯き、呟くように言う。



「こんなの、少しも面白くないよ」



 その声は、大きく震えていた。



「……花が、そう言うならいい。

 私、勝手にやる」


「落ち着けよ、牧野。相手は個人じゃなくて『空気』だ。

 今、この学校には俺を虐めていいって空気が――」


「関係ない!!!!!!」



 廊下の奥まで響き渡る、牧野の怒号。

 遠くに、声を聞きつけた生徒が次々と集まってくるのが見える。



「もう、関係ないんだよ。

 これ以上、花に何もしてあげられないのは嫌だ……っ」



 目から、大粒の涙をポロポロと流しながらも、真っ直ぐと立っている牧野。

 少しの余裕もない、崩れそうな表情。一度だけ目を閉じると、彼女は踵を返して野次馬へ叫ぶ。



「花は、間違ってなんか――」



 瞬間、俺は牧野の手首を掴んだ。



「やめろ」



 彼女は、大きく腕を振る。



「離して……っ。離してよ!!」


「大丈夫」


「なん……で……っ」


「まだ、大丈夫だから」



 牧野は、力を抜いてだらんと腕を垂らす。

 静かに離すと、彼女は何も言わず、部室とは反対側へ向かった。



「どこ行くんだ」


「どこでもいいでしょ、放っといて」



 俺は、薬丸と桜宮に「俺と牧野は休み」とラインを送って牧野を追いかけた。



「ついてこないでよ」


「ダメだ、何をしでかすか分からん。

 今日はずっと一緒にいる」


「……ぅえ?」


「薬丸と桜宮には連絡した。

 もっとも、あいつらが今日、部室に来るか知らんけどな」


「か、勝手なことしないでよっ!」


「心配かけるなって言ってんだよ、アホ」


「も〜〜〜〜っ!!

 本っ当なんなのよ!! 今日の花、嫌いっ!!」



 衆目の面前で牧野を追いかけること自体、火に油を注ぐ行為に違いないのだが――まぁ、傍から見れば彼女は被害者だろうさ。



「帰るのか?」


「カラオケ!! 花が邪魔するから!!」



 てなわけで、俺は牧野とカラオケにやってきた。



 実を言えば、俺は生まれて初めてだ。

 ドリンクバーもあるし、牧野が飽きたら長編のアイデア出しをやれるし、いい場所だと思った。



「えっ、カラオケ来たことない高校生とかいんの?」


「友達と来るところだろ、ここ」



 牧野は、一瞬気まずそうな顔をしてから、しかし、怒っていることを思い出してプイとそっぽを向いた。



 無音が、聞こえる。



「花って……さ」


「ん?」


「好きな人とか、出来たことある?」


「なんだ、そりゃ。取材か?」


「……まぁ、そんな感じ」



 俺は、デンモクの履歴を見ながら答える。



「う〜ん。

 いたような、いなかったような」


「なにそれ」


「中三の時に、バレンタインチョコを貰ったことがあった。

 送り主は分からなかったけど、それを送ってくれた奴のこと、妄想してたら好きになってた」


「……なんか、花っぽい」



 当時、薬丸に話したら、やたらとからかわれたっけ。

 ただ、そのやり取りをキッカケに編集を請け負うことになったから、あながち悪い思い出でもないが。



「でも、ホワイトデーが来てさ。

 誰に返せばいいのか分かんねぇけど、とりあえず買ってきたチョコ、結局自分で食ったんだ。

 そこで、俺の初恋は終わった。これ以上好きでいても、意味が無いって思ったから」



 牧野は、ゆっくりと俯いてため息をついた。



「寂しいね」


「なにが」


「恋って、落ちるものだもん。

 自分で止めようと思って止められるなら、みんな不幸にならないよ」


「つまり、俺が好きだったのは、送り主じゃなくて妄想自体ってことか?」


「……私、歌う。

 デンモク貸して」



 それから、牧野は時間いっぱいまで歌っていた。



 あれだけ上手に歌えれば、さぞ気持ちのいいことだろう。

 なぜか、昭和アイドルの曲ばかりで馴染みがなかったけれど。



「それじゃ、ご飯食べに行こ」


「まだ奢らせるのか」


「だって、今日はずっと一緒にいるんでしょ?

 いいのかなー。私、口が滑って花のこと守っちゃうかもなー」


「どういう脅し文句なんだよ、それ」



 ……唐突に、カメラのシャッター音が聞こえた。



 一度、二度。



 引き攣るような、笑い声。



 ふと、周囲を見渡す。

 そこには、スマホを向ける女子が一人。酉島高校の制服を着ていた。



「分かってたんだよ!!」



 叫ぶと、女子生徒は一目散に逃げ出した。

 彼女を追うために、俺は鞄をその場に置いて全力で走る。



「趣味悪いな、あんた」



 肩を掴んだのは、駅から離れたどこかの公園。女子生徒は、激しく息を切らせている。

 よかった。彼女が運動得意だったら、こう上手くはいかなかったろう。



「撮った写真、消してくれ。

 大人しく従わねぇなら――」



 ……振り返った顔を、俺は知っていた。



「ん……っ!?」



 唐突に、彼女は俺の唇へ舌をねじ込む。



「……ぷはっ!! な、な、なにしや――」



 公園の入口で、手から俺の鞄を零す牧野の姿が見えた。



「そうだよ。

 あたし、()()()男の趣味が悪いの」



 その正体は、今朝、俺に嘘告をしてきた女子生徒。



「あは……っ。あははははっ!!」



 月光に照らされた歪な笑みと、狂ったような甲高い声の中。

 俺は、何も言えずにその場で立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
バレンタインの、いいエピソードだなあと思ったら、ちゃんと伏線だった…… 本当にハーレムになっていくよw そろそろ本1冊分。まだまだ続きますよね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ