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クソラノベを編集したら依存ハーレムになった  作者: 夏目くちびる
ハーレム誕生編

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030 本物のお嬢様

 活動が終わり、俺は桜宮と酉島駅に向かう。



 周囲には、同じように下校する生徒がチラホラ。

 時折、俺の顔を見て指を差す奴もいたが、何を噂しているのかは考えないようにした。



「金持ちなのに、迎えのリムジンとかないんだな」


「そんな閉鎖的な登下校、面白くもなんともありませんわ。

 わたくしは、普通に道草を食ってみたいんですの」


「『食ってみたい』と言うことは、迎えがあった時期があるのか」


「んが……っ。ちょ、ちょっと! 推理は禁止ですっ!!

 もう、朔太郎はおバカなんだからっ!」



 桜宮は、巻き髪をフワリと逆立ててプンスカ怒る。

 そうして、信号を待ちながら鞄をぶつけられた時、後ろから声を掛けられた。



「よぉ、サク」


「こんにちは、花君」



 寛・宮崎の新米カップルだ。



 上級生だと分かったからか、それともゴリラが学生服を着ているのが不気味だからかは不明だが、桜宮はそそくさと俺の後ろに隠れた。



「おつかれ、そっちも帰りか」


「あぁ、練習終わりだ。宮崎に付き合ってもらってた。

 ……今日は災難だったな」


「そうでもねぇよ、いつも通りさ」


「花君。私、文ジェネ見てたよ。

 本当にびっくりしちゃった。まさか、堕天丸太さんが薬丸さんだったなんてね。

 ……しかも、寛君も同じ文芸部だったとか」



 宮崎は、寛を薄笑いで責めるような視線を送っている。

 どうやら、伝え忘れていたことを、隠し事として受け取られてしまっているようだ。



 寛は、「ごめん」と呟いて俺に無言で助けを求める。



「今後とも、二人を頼むよ。宮崎。

 それで、こっちは一年の桜宮類。文芸部の新人だ」


「よ、よろしくお願いします」


「桜宮、彼女は宮崎桃奈、横のマッチョが浅井寛な」



 優しく微笑んで挨拶をする宮崎。

 寛は、武道家らしい礼で返す。



「よろしくね、桜宮さん」



 それから、不甲斐ない友人に代わり、俺が二人の作品を編集していることを話した。



「……なるほど。

 ようやく分かったよ。どうして、私があの二人の小説を好きになったのか」


「ん?」


「私、牧野さんと薬丸さんの小説は、他のウェブ小説と比べて凄くプロっぽいって思ってた。

 花君の仕事があったからなんだね」


「買い被るなよ」


「買い被ってないよ。これは、読書家としてのフラットな意見。

 私、気を遣ったりなんてしてない」



 ……高校生にして、周囲に誰も読んでいる者のいない純文学を嗜む宮崎の言葉には、それなりの説得力がある。



「俺は、ほんの少し、読者に届きやすい形にしてるだけさ」


「それはそうだよ。

 だって、『面白い』と『プロっぽい』は明確に意味が違うもん。

 本をさ、『この編集が好きで読んでる』なんて人、一回も見たことないよ」



 優しい口調の断定は、宮崎桃奈という女子の強さを如実に現していた。



「間違いないな」



 やがて、駅前に辿り着く。

 意外な事に、桜宮は一度も口を開かなかったが、しおらしくしている態度は存外かわいかった。



「ところで、花君。大丈夫?」


「なにが?」


「その、ネットのこととか。

 私、心配だよ」



 いい奴だ、本当に。



「無傷……とは言わねぇよ。

 でも、仕方ないことだ。全員に事情を説明して回るわけにもいかないからな」



 すると、宮崎は寛を見上げた後で切なそうに俯く。



「……あの時、スタジオで何があったの?

 薬丸さん、ずっと苦しそうだった。今までの配信とは、雰囲気が全然違ったよ」


「なぁ、宮崎。

 それ、読者が考えることじゃないぜ」



 俺は、静かに告げる。



「読者ってのは、『面白さ』を純粋に楽しめる唯一の存在だ。

 作家の裏の努力とか、複雑な関係とか。そういうことを知っちまうと、どうしても情が湧くからな。

 そんなことを、薬丸は求めてない」



 あいつは、作品の理解を欲してはいるが、自身を認めて欲しいとは毛ほども思ってないことを、俺はよく知っている。



 コミュニケーションが苦手で、勉強や運動が苦手で、生きるのが苦手で。

 そんな自分に、他の取り柄がないことは、薬丸自身が一番よく分かってる。



「だからこそ、あいつの作品をピュアに読んでやってほしい。

 これは、編集者としての切な願いだ。頼むよ、宮崎」



 ……宮崎は、寛を見てから静かに笑うと頷いた。



「分かったよ、そうする」



 そして、二人が改札に入っていくのを見送った。

 角を曲がる直前、寛が振り返って俺を見る。意図は知らんが、どうやら感謝を示しているらしい。



 俺が肩を竦めると、奴は小さく笑ってからホームに消えて行った。



「……羨ましい」


「なにが」


「あんなふうに、作品を読んでくれる読者の存在が」



 桜宮は、スクールバッグの持ち手を両手で握りしめている。

 嫉妬、妬み、羨望。そういう負の感情が混ざりあった仕草だ。



「なら、道草食っていこうか。

 そのエネルギーがあれば、もう少し書けるだろ」


「……当然ですわ。

 わたくしは、桜宮類ですもの」



 俺たちは、電車に乗ると六つ隣の駅に向かい、甘楽町(かんらくちょう)へ向かった。



 甘楽町は、県の飛び地にある商業・ベッドタウンだ。

 色んな路線が集合する駅を中心に都市を形成しているため、この時間は様々な制服の学生を見ることが出来る。



 桜宮は、見るからに高級感のある喫茶店を選んだ。

 財布の中を覗く。……まぁ、一杯くらいならいけるだろう。



 俺はコーヒーを、桜宮はよく分からん名前の紅茶を頼んだ。



「朔太郎。このエピソードを読んで、感想を言いなさい」


「無茶を言う奴だな。

 キャッチコピーじゃないんだぞ?」


「いいから、言う通りにしなさい。わたくしのモチベーションのためにねっ。

 おーっほっほ!!」



 渋々、彼女のスマホを受け取る。

 人のスマホを触るのは気が引けるし、後でラインを聞いておこう。



「ど、どうかしら」


「意味が分からん」


「ぎゃあっ!!」



 楳図かずおのキャラか、お前は。



「重要なエピソードなんだろうけど、前後を知らないから感情移入出来ねぇ」


「そ、そんなわけありませんわ!!

 朔太郎の感度が低いから、わたくしの文章を理解出来ないだけですのっ!!」



 こめかみの当たりをポリポリとかいて、さて、どうしたものかと考える。



「『母をたずねて三千里』って話があるだろ。

 少年が、音信不通になった母親を探しに一人で旅するやつ」


「見たことはないけど、名前は知ってますわ」


「ガキの頃、名場面集的な番組で母親との再会だけを見せられたことがある。

 今、そんな気分だよ」


「ぶわぁ」



 信じられないほど情けない声だな。



「……ただ、なんだ。

 ようやく、お前のキャラクターが動いたんだし、設定を考えてみたらどうだ?

 そうすれば、自然とエピソードも出てくるだろ」


「め、名案ですわっ!!」



 言うほど冴えた提案だとは思えなかったが、嬉しそうな桜宮を見ると、俺は頬杖をついてコーヒーを一口。



 そして、思った。



 牧野の『キャラクター創造力』。薬丸の『世界観構築力』。

 そういった、桜宮だけの力はないものか……と。



「あら、桜宮さんではありませんか」



 突然、通りすがる学生グループの一人が立ち止まって言った。



 男女五人。やたらと上品な雰囲気の連中。

 彼らが身につけている制服は、名門私立聖蘭学園(せいらんがくえん)のものである。



「あ、安心院(あじむ)さん?」


「奇遇ですわね、こんなところで会うなんて。

 お久しぶりでございます」



 長い黒髪、端正な顔立ち、凛とした佇まい。

 そして何よりも、彼女の圧倒的なオーラが俺に一発で理解させた。



 こいつ、本物のお嬢様だ。



「酉島高校に行ったと聞いておりましたが――うふふ、元気そうで何よりです。

 ところで、桜宮さん。隣のお方は新しい御学友ですか?」



 紹介を求められた桜宮が黙っていたから、俺は自ら名乗り出ることにした。



「花です、花朔太郎」


「これは、ご丁寧にどうも。

 わたくし、安心院紫子(あじむゆかりこ)と申します。『あんしんいん』ではありませんのよ」


「だろうな」



 その苗字は、小鳥遊(たかなし)四月一日(わたぬき)大仏(おさらぎ)あたりと並んで擦られまくってるからな。



「うふふ、面白い方ですのね。

 よろしければ、ご同席してもよろしいでしょうか。最近の桜宮さんのこと、お伺いしたいのです」



 ……。



「いや、遠慮しておく。

 俺ら、もう帰るところだったんだ。な、桜宮」


「え? えぇ」



 後ろの連中は、小声で何かを囁き合いながら、面白がるように桜宮を見ていた。



 明らかに嘲笑だ。

 まるで、俺を材料に桜宮を品定めしているようだった。見世物小屋を冷やかす時、きっと、人間はこんな顔をするのだろう。



 ……桜宮は、黙りこくっている。

 対して、安心院は張り付けたような微笑みで優雅に頷いた。



「そうですか。

 ならば、仕方ありませんね」



 伝票を持って立ち上がる。

 指を折り曲げて桜宮を誘うと、彼女もノートをスクールバッグにしまって俺に続いた。



「制服、お似合いですわよ。桜宮さん」



 クスクスと笑う声。絡みつくような空気。怯えで引きつった桜宮の表情。



 ……俺は、少なからず桜宮類を知ってる。

 だから、連中の態度を見ただけで、彼女のコンプレックスの背景に安心院たちがどう絡んでいるのかが分かった。



 不愉快だ。



「後ろの連中は、お前の手下か?」



 俺は、振り返って安心院のグループを正面に捉えた。



「……はい?」


「教育しておけよ。

 金持ちの嬢ちゃんや坊ちゃんにしては、顔に品が無さすぎる」



 息を呑む桜宮を引っ張って、背中に隠す。

 彼女は、俺のシャツの後ろを強く掴んだ。



「酷いことを言うのね」


「先輩として、教えておいた方がいいと思ってな。

 気に食わなかったか?」


「呆れているだけですわ。あなたの、その非常識ぶりに」



 安心院は、張り付けた笑顔を止めて俺を睨む。

 後ろの連中は、怒りのせいかワナワナ震えているだけで、何かをしてくる様子はなかった。



「またな、安心院」


「……えぇ、また」



 そして、俺は桜宮と店の外に出る。



 あいつとは、また会うだろう。



 そんな確信が、俺の中にあった。

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写真家でも、自分の仕事はポジを納めるだけ、コンセプト、取捨選択、レイアウト、売り方は全部編集者の仕事という人がいた。一方、すべてを納得しないと許さないタイプの写真家ももちろんいる。 前者は、明らかにク…
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