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美少女作家たちのクソラノベを編集したら、地獄みたいなハーレムが完成した  作者: 夏目くちびる
ハーレム誕生編

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029 もう一人の作家

 次の月曜日、薬丸は学校を休んだ。



 今、俺は放課後の部室で中間考査に向けて勉学に勤しんでいる。

 何か策を練るべきだろうが、学生として、目の前の『やらなきゃいけないこと』をこなすことも必要だからな。



「元気、ありませんのね」



 ふと、桜宮が呟く。



 牧野は、剣道部の練習で今日は来ていない。



「そんなことないよ」


「……牧野先輩の新作、再び短編の総合トップを取ったわね。

 二度目ともなれば、読者たちも先輩の力を確信したことでしょう。流石ですわ」


「だな」


「まぁ、あのスター・システムのお陰もあるかもしれませんわ。

 ちょっぴり、見直してあげても――」


「何か、言いたいことがあるのか?」



 誤魔化すように俺のグラスに緑茶を注ぐと、静かにスマホを突き付けてくる桜宮。



 そこには、件の配信を取り上げたネットニュース。

 事実を述べた記事に続きコメント欄を見ると、『身の程知らずの末路』『無視されてて草』と言った言葉がズラリ並んでいる。



 俺は、人差し指でバッドマークをタップすると、再び勉強に戻った。



「し、知ってましたの?」


「他でもない、この俺がネットのおもちゃになったわけだからな」


「……ぅ」


「お陰で、クラスメートに質問攻めされるわ、担任にも呼び出されるわで大変だった。

 まったく、世間のゴシップ好きには呆れ返るね」



 桜宮は、どこか悔しそうに唇を噛み締めた。



「まぁ、作家でもない奴が番組に乱入して本所誠に質問だなんて、普通に考えてイカれてるからな。

 因みに、薬丸には好意的な意見がついてるみたいだぞ。ゴス女は人気らしい」


「それで、どうするおつもり?」


「放っておく。

 世間も、薬丸も」


「……冷たいのね」



 俺もそう思う。



「でも、必要なことだ」



 仲間を手に入れて毒気を失った今、薬丸には新たなエネルギーが必要だ。

 彼女の方程式が木っ端微塵に破壊された今、それを超える何かを手にするには他に方法がないのだ。



 俺は、その可能性を本所誠という絶望に見ている。



 『死』。



 決して、凡人には辿り着けない答え。

 その真実に、彼女が辿り着くことを信じて、俺は静かに目を閉じた。

 


 ……。



 しばらくしてノートを畳み、俺は今度は本棚から取り出した別のノートを開いた。



 気付いた桜宮が、文庫本から目を離す。

 どうやら、俺が勉強を止めるのを待っていたらしい。表情に力を込めて、いつものお嬢様顔を整えた。

 


「これは?」


「お前が俺に語ってきたアイデアたちだよ、ちゃんと覚えておこうと思って記録してたのさ」


「……ふぇ?」


「結構な量になって来たからな。

 そろそろ、次のフェーズに進んでもいいんじゃないか?」



 桜宮は、一瞬だけポーっと頬を染めたが、たちまち、カンカンに熱したヤカンのように赤くなって立ち上がった。



「な……っ!! なんでそんなことするんですかぁ!!」


「ダメだったか?」


「ダメに決まってますよ!! このおバカ!!」



 後輩口調になったのを見るに、完全に油断していたようだ。

 少し勝手なことだとは思うが……仕方あるまい。

 今のところ俺が彼女を分析する材料は、この妄想の数々しか見当たらないのだから。



「まだ、書く自信が湧かないのか?」


「だって、あの薬丸先輩ですら……はっ!!」



 どうやら、途中で気付いたらしい。

 思ってたより、コンプレックスは根深いな。



「じ、自信なんて有り余ってるに決まってますわ?

 でも、その……そうっ! 今は、勉強をしなければなりませんからっ!」


「勉強、普段やってる分じゃ足りないのか?」


「んぐ……っ。ち、違いますのっ!! それは、その……あぁ!! 憎たらしいっ!!

 んもぅ!! なら、やったろうではありませんか!! 文芸部の活動をっ!!」


「そうか。

 因みに、俺は数学と物理なら教えられるからな」


「……女誑し」



 率直に言って、桜宮のアイデアは平凡だ。



 その頭脳から捻り出されるのは、どこかで見たキャラクターや、既視感のある世界観ばかり。



 とても、手放しで褒めて「これなら行ける」なんて無責任なことは言えない……というか、ランキングに載れるかも怪しいくらいだ。



 差し当たりの目標として、日間のジャンル別二十位くらいを目指したいが――口にするのはやめておこう。



 志が低いとかなんとか言って、やる気を失うのが目に見えてるからな(無論、今の桜宮にとっては充分高い目標である)。



 ひとまず、書いて完成させることを目指そう。

 さて、そのために俺は何が出来るだろう。



「……で、これがなんですの?」


「こうやって並べてみると、桜宮のアイデアには一つの共通点がある。

 ほとんどが、エピソードではなくシーン――つまり、場面に寄っているということだ」



 恐らく、彼女の頭の中には映像がある。



 敵を倒すアクション、感動的な再会、優しいキス。

 作品の代名詞となる要素だけを思い浮かべて、『わたくしの考えた最強の小説』を作ってしまっている。



「けれど、これは言わば夢のようなもので、脈略や整合性がなければ物語になれないんだ」


「それは……そうですわね」


「小説とは、構造に従って楽しむコンテンツだ。

 読者は、必ず一ページ目から読む。積み上げたものが伝わりやすいことが、小説の最たる長所なんだと俺は思ってる」


「なら、最初はどうすればいいの?」


「その質問は少し違う。

 なぜなら、桜宮は小説を書くために最初にやることを既に終えているからだ」



 点を繋けば、線になる

 線を繋げば、エピソードになる。

 エピソードを繋げば、ストーリーになる。

 ストーリーを紡げば、作品になる。



 語るまでもない、至極単純な構造だ。



「つまり、次にやるべきことは『退屈な場面』を考えて点を繋ぎ、エピソードを作ること。

 別に、書きたいところから書いたっていい。そうやって続けていけば、いずれ冒頭やエンディングを執筆することも出来るだろうさ」



 桜宮は、口をポカンと開けて俺を見ている。



 いつもの賢ぶった笑みではない。本気で感心して、言葉が浮かんでこないといった様子だった。



「……一つ、気になるのだけど」


「ん?」


「なぜ、ここまで考えられるのに、朔太郎は自分で小説を書かないの?」



 ……。



「書いてたよ、中学生の頃は」


「えぇ!?」


「でも、俺は俺を満足させられなかった。

 だから、やめた。それだけさ」



 確かに、妹の世話は忙しかった。

 でも、それは俺の小説がクソつまらないことの言い訳にはならないんだ。



「なまじっか、色んな小説に触れたせいかな。いつも、プロの作品と比べて勝手に苦しんでたよ。

 ……懐かしい」



 不意に、桜宮が俺の手に自分の手を重ねた。



 今までに見たことのない、切なさを噛み締めるような表情。

 お嬢様でも後輩でもないそれは、きっと、桜宮類という女子の本来持つ顔だった。



「ごめんなさい。

 わたくし、その、なんと言っていいか――」


「アホー」



 俺は、桜宮の脳天にチョップを落とした。



「あぅ……っ」


「気にしてねぇよ、んなこと。

 ほら、書いた書いた。そんなんじゃ、いつまで経っても神作家になれないぞ?」


「んまぁ!! こっちは本気で心配したのに、なんて言い草ざますか!?」



 それ、お嬢様じゃないからな。



「……俺は、夢を託したんだよ」


「どういうことですのっ!?」


「サッカーのサポーターとかさ、自分のことでもねぇのに必死こいて応援してるだろ? あんな感じ」



 冷水をぶっ掛けられたかのように落ち着き、ジトっとした目で俺を睨む桜宮。

 その目には、僅かに、俺もよく知る(たぐい)の涙が浮かんでいる。



「だから、いいんだ。

 俺は、お前たちのために全力を尽くす。

 そうすれば、いつか俺を満足させてくれる小説を書いてくれるかもしれないから」



 それは、桜宮にしか言えない、俺の本当の本音だった。



「頑張れ。お前だって、俺の大切な作家だ」



 数巡あって彼女は俯き、やがて、低く唸るような声の後、ダンと床を強く踏みつける。



「んーもぉ!! 朔太郎は、本っ当に仕方ありませんわねっ!!」



 そして、彼女は再びスマホを握る。



「ならば、見てなさい!?

 このわたくしが、あなたに最高の小説をプレゼントして差し上げますのっ!!

 その時は、わたくしの言うことを何でも一つ聞くこと!!

 分かった!?」


「仰せのままに、お嬢様」



 この日、桜宮は初めて文章を書いた。



 確かに、他の作家と比べれば当たり前で、ほんの小さな一歩かもしれない。



 けれど、それは紛れも無く、俺が諦めた夢を担う力強い一歩だった。

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― 新着の感想 ―
目は手より先に肥えるというのに、それでも書き続けられる人は何が違う。 桜宮も、着実に絆されていってたりして
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