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クソラノベを編集したらドロドロのハーレムになった  作者: 夏目くちびる
ハーレム誕生編

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025 新たな武器

 翌日の昼休み。



 俺は、夜に送られてきた薬丸のプロットを読みながら、妹たちが作ってくれた弁当を教室で食べていた。

 何もやってないとかいいつつ、ちゃんと手を付けているのが如何にも薬丸らしい。



 天候は雨。



 いつもの場所で過ごせないことを悔やみつつ、俺は雨雲みたいに真っ黒な卵焼きを口に放り込む。

 焦げ臭くて甘ったるいが、あいつらが頑張ってくれたと思えば食えないこともないか。



 ……うん、マズい。



「珍しいじゃん、昼休みに花が教室にいるなんて」



 酷く目の冴える味わいを楽しんでいると、牧野がニヤニヤしながら話しかけてきた。

 窓際には、佐伯を筆頭としたクラスの陽キャ集団。皆一様に、牧野の動向を伺っている。



 相変わらず、居心地が悪いね。



「雨だからな。

 梅雨の時期は、少し憂鬱だ」


「……あれ。そのお弁当、どうしたの?」


「妹に押し付けられた。

 我が家では、時々このイベントが発生するんだよ」



 因みに、上手く作れたものは父さんと母さんが持っている(らしい)。

 衣に「ママに言わないでね」と強く念押しされたから、連中も失敗を隠したい年頃なのだろう。



「へぇ、かわいいねっ」


「じゃあ、お前にやるよ」


「え、お弁当!?」


「妹」


「バカっ!!」



 俺の肩を引っ叩いた牧野は、ぷくーっと頬を膨らませてあざとい怒りの表情を見せる。



 そういうリアクションは、一応サバサバ系で通ってる教室内では、あまりやらない方がいいんじゃないかと思いつつ、俺は鞄から一冊のパイプ式ファイルを取り出した。



「分厚いね、なにそれ?」


「薬丸の設定資料集。

 あいつ、『ボクの作品は世界が繋がってるから、全部読んでおけ』とか言って押し付けてきたんだ。

 実際、プロットにもオリジナルの固有名詞使ってくるし、歴史年表もあるし、把握しないと編集が出来ねぇんだよ」



 まぁ、これはこれで好きな読み物でもあるけれど。



「ふ〜ん、いいなぁ。幸子は凄いなぁ」


「欲しいのか? 資料集」


「やろうと思っても出来ないよ。

 てか、今日の放課後も手伝ってね。アイデア出し」


「ん、今日は剣道部が道場を使う日じゃなかったか?」


「柔道部……てか、浅井君の全国大会が近いからね。調整のために使いたいんだって。

 知ってる? 浅井君って、練習になる相手がいないから、いつも五人同時に戦ってるんだよ」



 ……あのゴリラ、どこまで行くつもりなんだ?



「ところで、ブルーアイズ」


「ふ、ふふっ。なぁに?」


「そろそろ、グループに戻った方がいいんじゃないか」


「……うん、そうだね。また後でね」



 ……牧野も、資料が欲しいのか。



 仕方ない。



 俺は、次の自習時間を使って、モブも含む牧野の描いたキャラクターの特徴をまとめることにした。



 ……我が文芸部は、煮詰まっている。



 ついこの間まで、滝を昇る鯉のような勢いで書いていた牧野だが、長編へのコンバートに手間取っているのか、設計が組めず本編を書けないでいるようだ。



 一方の薬丸は、孤独が解消したことで毒気が抜け、深刻な恐怖不足に陥っている。

 おまけに、つまらなくなった自分の小説を読んで勝手にやる気を失っているという有り様なのだ。



 応募するコンクールの期限は九月末。

 夏休みを挟むから余裕があるとはいえ、何が起きるのか分からないのが執筆。

 なるべく早く書けた方がいいのだが――さて、どうなることやら。



「おい、サク」



 ボンヤリとキャラの設定を書き連ねていると、隣りに座っている浅井寛が例のクソ真面目な日本人面で話しかけてきた。



「この問題、分かるか?」



 自習中に勉強のことを聞いてくる男子高校生っていたんだ。



「ん……お前、計算を勘違いしてる。同一平面上に−1があったら解無しになるのは当然だ」



 俺は、空間ベクトルの条件をゴリラにも理解出来るよう説明した。



「……お前、最近はどうなんだ? 上手くいってるのか?」



 改めて問題を解きながら、寛が気難しい父親みたいな口調でぶっきらぼうに訊く。



「上手くいってねぇな、編集以前の問題が山積みになってる。

 それと、部員が一人増えた。もう来るか分からねぇけど」


「お前、なにしたんだ」


「作家志望だっつーから、小説を書いてみろと提案した」



 このゴリラに凡人の苦しみが分かるとは到底思えなかったが、俺は桜宮のことを含め文芸部の状況を話した。

 何かあったとき、どうせ俺が最初に頼るのは寛なのだ。情報を共有しておいて損はない。



「なるほど、そういうものなのか。

 俺が助けてやれることはないな」


「いいよ、一つも期待してねぇから」


「おい」



 陰キャ二人でヘラヘラ笑っていると、やがて授業終了のチャイムが鳴った。



 ホームルームを終えて、掃除を済ませると部室へ向かう。

 途中、部室棟へ向かう渡り廊下で、一人外の景色を眺めている桜宮を見つけた。



 察するに、部室に行くか否かで悩んでいるのだろう。

 俺は、軽い挨拶をして後ろを通った。



「……誘って、くださらないの?」


「誘ったら、キミは書けるようになるのか?」


「それは……」


「別に、期限は設けてない。好きにしな」



 部室に入ると、少しだけ間を開けて桜宮が来た。



 かわいい後輩だ。



「……ふんっ」



 ふてくされた様子で席に座った彼女の前に茶を置いて、俺は牧野のキャラクター集の清書に取り掛かる。



 すると、早くもこっちの作業が気になったようだ。

 桜宮は、俺の隣に座り直すとノートパソコンの画面を覗いて驚いた。



「す、凄い人数ですのね。流石、牧野先輩」


「世に出してない短編のキャラまでまとめたからな」


「あ、『絶対初恋成功委員会』の霧香(きりか)先輩。

 わたくし、彼女のような完璧キャラが好きですの」


「キミの趣味は分かりやすいな」



 しかし、改めて見ても凄いキャラ造形だ。驚嘆に値する。



 特に、『谷底に咲く』の主人公。

 失恋を演劇への情熱に変換する潔さ。失恋しても想い人の幸せを願う誠実さ。

 こういう、ひたむきな奴に俺は弱いんだ。



 これだけ魅力的なキャラクターだと、二次創作のクロスオーバー的な、彼女が別の物語に入って動いているところを見てみたい気に――。



「……お?」



 突然だが、手塚治虫のスターシステムをご存知だろうか。



 元々は映画制作の技法を手塚治虫が漫画に応用し、同じキャラクターを様々な作品で使い回した有名な演出なのだが――。



「これ、牧野の小説でやれねぇかな」



 牧野の武器は、キャラの魅力とライブ感だ。

 それは、『谷底に咲く』で劇中劇というメタ構造を披露したことで、既に確実なものとなっている。



 ならば、それを読者に最も強く感じさせたキャラクターをスター女優として起用すれば、更に引き込む力を尖らせる事ができるんじゃないか?



「な、なにをブツブツ言ってるんですの?」


「ちょっと待ってくれ、今いいところなんだ」



 つまり、逆なんだ。



 普通の作家は、書きたいものを決めてからキャラクターを作る。

 しかし、牧野の場合はキャラクターから書きたいものを考えられる。



 主役を固定して舞台を変えるだけで、面白い小説が書けるかもしれない。



「ちょっと、朔太郎!!」



 急に怒り出した。



 桜宮は突然手を伸ばすと、そのまま俺を押し倒す。

 瞬間、扉がガタリと揺れる。視線を移すと、隙間からジトっとこちらを覗く牧野と薬丸の目が見えた。



 なにしてんだ、あいつら。



「どうして無視するの!? 今はわたくしの手伝いをするターンですわ!! 早く知恵を貸しなさい!!」


「か、書きたいジャンルも分かってないのにどう手伝うんだよ」


「ぐぬぬ……っ!! そ、それを一緒に考えなさいっ!!」



 そんな無茶な話があるか。



 俺は、外で見ている二人に「早く助けろ」と目で訴えた。



 ……。



「はぇ〜、なるほど〜」



 俺の説明を聞いた牧野は、ポワポワとした笑顔で揺れ始めた。

 いい兆候だ。こいつが幼児退行したということは、創作モードに切り替わった証拠でもあるからな。



「桜宮、ちょっと考えててくれ。少し牧野と話す」


「……はい」



 顔を真っ赤にしてデスクの隅で縮こまる桜宮が、蚊の鳴くような声で返事する。



 そんな彼女の肩を、薬丸が優しく叩いているのを見て「やっぱり毒が抜けてるな」と俺は思った。

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― 新着の感想 ―
確か、境界線上のホライズンだったか、とんでもない厚さの設定集まで出ていたラノベ。本編もとてつもなく分厚い。どういう人が読むんだろうなあ。その設定に入り込むためのハードルを下げるのが、ナーロッパでありテ…
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