016 恋愛が嫌いな本当の理由(牧野アメリ)
× × ×
――俺は、二人をこの世界の誰より愛してる。
あの言葉が、ずっと耳から離れない。
これって、花だから? それとも、ここまでストレートに言われたことがなかったから?
「或いは、幸子との二股だからだったり」
……なんて。
いずれにせよ、どれなのかは分からない。
けれど、私はあの後、恥ずかしくて花と話せなくて、せっかく書き終わった原稿を読ませられなかったのも事実だった。
……まだフランスに居た頃のある日、私は初めて告白された。
あの頃は、パパと地元のサッカーチームを応援するのが楽しくて、そのために時間を使いたいと思っていた。
なのに、告白される数が増えていって。その度に、相手が傷ついて。
いつの間にか、私は勝手に『価値のある女』みたいに扱われるようになって――それが、すごく嫌だった。
誰と関わっても、特別扱いされるのが心地悪かった。
日本に来てからも、それは変わらなかった。
ただ、フランスでの生活と違ったのは、その事実をクラスメートのみんなが『恋愛上手』と勘違いしてしまったことだ。
そうして始まったのが、今に至るまで続く恋愛相談。
私は、自分に恋人が出来たこともないのに、色んな人の恋愛を助ける役目を請け負うことになっていた。
……私に助けを求めた人が、幸せになってくれると嬉しかった。
はっきり言って、私がやったのは「後悔しないように」って背中を押すことだけ。
でも、その結果、人が付き合ったり離れたりして、恋愛の始まりと結末を知る機会が増えていった。
ただ、幸せばかりじゃなかった。
恨み、辛み、妬み、嫉み。
悪口なんて日常茶飯事。バッドエンドなんて当たり前。
あの女がムカつくとか、あの男はクズとか。知りたくもないのに、色んな人の、色んな裏側を知ることになった。
そんな言葉を聞いているうちに、私は思った。
「恋は、不幸なものなんだ」
人を好きになってしまうことが、人の罰なんじゃないかと思えるくらい、人々は恋愛に苦しんでいる。
きっと、みんな思ってもいないのに、考えたくないはずなのに、誰かを好きだから冷静でいられなくなって、相手や、その向こう側にいる人を嫌って、叩いて――。
だから、私は恋愛が嫌いだ。
やりたいことの邪魔をする。そんなの、本当の理由を隠すための嘘でしかない。
私は、人の嫌なところを見るのが嫌だから、恋愛が嫌いでたまらない。
「……でも、せめて物語の中では、ちゃんと終わって欲しいんだよ」
それが、私がラブコメを書く理由。
そして、ハッピーエンドしか書かない理由だ。
「……花は、どんな話が好きなんだろう」
そんなことを思いながら、花とのラインにベタ打ち(花が使ってたから覚えた言葉)した原稿を、既に一時間くらい眺めていた。
せっかく書いたんだから、早く感想を聞きたい。そう思っても、なぜか恥ずかしさが込み上げてくる。
理由は、もちろん分かってる。昼間の花のせいで、最後の文章を書き換えてしまったからだ。
「……えいっ」
メッセージを送ると、驚くことに一瞬で既読がついた。
どういうこと? 花、ずっと私のラインを見てたってこと?
でも、ここにある小説は既にサイトに投稿してる。そっちの方が快適に読めるに決まってる。花は、そんな不合理なことをする人じゃない。
なら、一体どうして?
「……んもぅ!! 花のクセに!! なんで私がこんなに悩まなきゃいけないのよっ!!」
しかし、待てど暮らせど、返信は送られてこない。
こんなに待っても来ないなら、気づかないうちに誤操作して、知らずに開いただけなのかもしれない。今まで考えたこと、全部私の妄想だったのかもしれない。
本当、バカみたい。
こんなの、ちっとも私らしくないよ。
「……寝よ」
その日、私はスマホを握ったまま眠った。
夢の中に花が出てきたけど、彼は教室の隅で本を読んでいるだけで、私はそれを見つめているだけで、会話は一つも無い。
いつも通りの教室の、いつも通りの風景があるだけだった。
……ただ、それだけの夢だった。




