第44話 魔犬が加わった(2)
どうしようかと悩んでいると、ふと子犬が目に入った。
「そういえば、お前らはどうしてイノシシと戦っていたんだ?」
『あぁ、我の坊主がな、イノシシの子供相手に狩りの練習をしていたのだが、イノシシの群れの方に逃げられてな。
坊主が逃げ帰ってきたのだが、群れの数が多すぎて我でもどうにもできなくて逃げておったのだ』
「あぁ、数の暴力にやられたのか」
『それで、決まったか』
「う~ん、じゃあ、一緒に住まないか?」
『どういうことだ? 我には意味が分からないのだが?』
「今、ゴブリン達と一緒に暮らして畑を作っているんだが、畑とか家の周りとかの護衛が欲しいんだよ」
『ふむ、番犬ということか?』
「まぁ、端的に言えばそうだな」
『ちょっと考えさせてもらっていいか?』
「あぁ、いいぞ。
俺はこの茂みの向こうにある畑にいるから、ゆっくり考えてくれ」
そう言い残して、俺は畑へと戻っていった。
さっきまでの様子なら、このまま置いて行っても必ず畑に来ると思っていた。
畑に戻ってくるとゴブリン達が見当たらなかった。
(どこに行ったのだろう?)
そう言えば、魔犬たちを助ける前に家に入るように言ったのを思い出した。
「もう大丈夫だ」
家に帰って伝えると、ゴブリン達は安堵して喜んでいた。
そして、皆で一緒に畑へと戻ってきた。
「さて、作業を再開しようか」
俺はまた、水の刃を畑へと打ち込む作業を始めた。
ゴブリン達は小石を拾っている。
暫くして、茂みの中から魔犬たちが出てきた。
ゴブリン達はびっくりして悲鳴を上げていたが、
「大丈夫だ、襲ってこないよ」
『待たせてしまって済まなかった。
我らは汝を主として、共に暮らそうと思います』
「いや、別に主じゃなくていいんだよ。
一緒に暮らすで良いんだよな?」
『我らは群れの中で上下関係がはっきりしている必要があります。
一緒に暮らすと言う事は群れになり、我より主の方が強い。
そうなると、当然、主が主とすることになります」
「分かったよ。
そういう事なら無理強いしても良くないからな。
主らしくないかもしれないが、よろしく頼む」
『よろしく頼みます』
「で、お前らにも名前は無いよな?」
『名前など必要ないですから』
あ、この流れは、俺が名前を付ける流れだ。
「名前、欲しいのか?」
尻尾がぶんぶん振られている。
「考えるから、ちょっと待ってくれ。
お前と、そっちはお前の連れ合いか? あと、そっちの子犬2頭か?」
『両方とも雄です』
「分かった。
4頭分、作業をしながら考えておく。
お前たちは、周りの警戒をしておいてくれ」
家族が4頭増えた。
頭の中は家族が増えた喜びよりも、名前をどうしようかでいっぱいだった。