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第100話 魔王が来た

 あれから、数日が経った。


 リンゴの木の芽も、2つだけだったが生えてきた。

 生えてきたのを見つけたヴィーヴルは、文字通り狂喜乱舞していた。


「お祭りをするのじゃ。

 リンゴの木の芽が出た記念の祭りなのじゃ」


 そう言った時には、全力で止めた。

 流石に芽が出ただけでお祭りなんか開催された日には、リンゴの芽の方もたまったものではないだろう。


 お祭りこそはしなかったが、その日の夕食はいつもと比べるとちょっとだけ豪勢になっていた。


(ヴィーヴルが無理強いしたな?)


 それ程に嬉しかったのだろう。

 仕方がないなと思いつつ、料理を平らげていった。


 デザートに焼きリンゴが出てきた時は、苦笑するしかなかったが……


 そんな感じで、比較的穏やかに数日が過ぎていった。

 畑の方も良い感じで育っているようだし、ラディッシュに関しては、全部の種を使い切ったので、今は別の物を植えている。

 もっと植えられるように、少しずつだけど畑の方も拡張している。


 瞬間移動の方も、大分、距離が伸びてきた。

 ドノバンの元の家を経由して、10日に1度くらいの間隔で街へ行っているのだが、その時には瞬間移動を使っているので、慣れてきたのだろう。

 それでも、ドノバンの古い家までは10回くらい使わないといけない。

 せめて1回で行けるようになりたいから、まだまだ練習する必要があると思う。


 今の状態なら、街へ行かなくても生活はしていける。

 だけど、新しい食材を欲しがる小さな料理人や、その料理を堪能したがる食いしん坊のドラゴンのリクエストにより街へ通っている。

 ドノバンからも、コークス? 小さい石炭みたいなもの? を買ってくるように頼まれる。

 コークスとやらが無いと、ミスリルやオリハルコンを打つことがてないそうだ。


 ドノバンはオリハルコンを打ってみたくて来たんだし、俺が動けばその望みが叶うのならば、出来るだけ沿うようにしたい。

 お金が無くなったら、またミスリルで何かを作って貰って、イルデの伝手で売り捌けば良いだろう。


『主様、森の奥の方から大きな魔力を持ったものが、こちらへと向かっております。

 ご注意ください』


 ムッティが、こちらへ吠えて教えてくれた。

 ファーティと子供達は、狩りへ行っているので畑には居ない。


「大丈夫なのじゃ。

 いきなり攻撃はしてこないのじゃ」


 ヴィーヴルには、誰がこちらへと来ているのかが分かっている様だった。


「ヴィーヴル、誰が来るっていうんだ?」


「なぜ、人間とゴブリンが此処に居るのだ?」


 空には3人が浮いていた。


(人間が浮いている? いや、人間じゃない……あれは、何者なんだ?)


「どうした人間、さっさと答えよ。

 何故、人間とゴブリンが此処に居るのだと問うているのだぞ」


 右側に浮かんでいる男が、苛立たしそうに聞いてくる。


「ルシフェルよ、久しぶりなのじゃ。

 最後に会ったのは……もう、忘れてしまったのじゃ」


「魔王様に何を無礼な! 成敗してくれる!」


 男が右腕を振りかぶったが、真ん中で浮かんでいる男がそれを制止した。


「マスティマ、下がるのだ。

 お前では、到底敵わぬ相手ぞ。

 ヴィーヴル、久しかったな」


 真ん中が魔王なのか。

 しかも、ヴィーヴルとは顔見知りらしい。


「突然、此処へ来てどうしたのじゃ?」


「いや、ヴィーヴルがここ最近、殆ど毎日の様に洞窟から出てきているようだったのでな。

 どういう事かと思い、様子を見に来たのだよ。

 それにしても、外へ出てくることと言い、その格好と言い、何があったのだ?」


「妾は今、この畑作業と言うのが楽しくてな、それで度々、出てきておったのじゃ」


「そこの人間とゴブリンは、どうしたのだ?」


 俺の関知しない所で、話がどんどん進んでいる。


「ノアには妾の守護を与えたので、此処におるのじゃ。

 ゴブリン達は、ノアが畑作業の手伝いとして連れてきたのじゃ」


「そうか……色々と面白そうなことになっておるのだな」


 そう言って、魔王は地上へと降りてきた。

 畝の所に降りそうになったので、俺は思わず叫んでいた。


「あぁ、そこに降りたら作物がつぶされるから、低くなっている所に降りてくれ」


「貴様、魔王様に何たる口の利き方。

 無礼にも程がある」


 そう言いながら、また右腕を振りかぶったが、魔王がまたそれを制止した。


「マスティマ、良いと言っておる。

 済まなかったな、我は畑のことを何も知らないのでな」


「こちらこそ、突然のことで申し訳ありませんでした。

 また、魔王様とは知らずに言葉遣いも……」


「良い良い。

 言葉遣いも今のままで良いし、『様』も要らない。

 堅苦しいのは、どうにも苦手でな。

 名前呼びで構わんと部下達にも言っているのだが、どうにも変えようとせん」


「当然です」


 魔族の男が、胸を張って言っていた。


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