第99話 アイリスの適正
あれから、アイリスはドノバンとイルデの作業を手伝っていたのだが、その内ドノバンの工房へは行かなくなっていた。
どうやら、金属や木工の加工には向いていなかったようで、イルデの教えている方ばかりをやっている様だった。
イルデがゴブリン達と俺の服を作ってくれたので、ゴブリン達は着の身着のまま状態からは脱出できた。
水浴びついでに服を洗って、濡れたまま着なくても良くなった。
いくら、ゴブリンは風邪を引かないとは言え、濡れたままの服を着ているのは気持ちが悪かろうと思う。
気持ちが悪いという感情が、あるかどうか分からないが……
「洗濯をしたら、風通しが良い所で干した方が早く乾くわよ」
前にドノバンに木材を作る時にも言われたが、何事も早く乾かしたい時には風が重要とのことだ。
これならば、役立ちそうなことが多そうだから、俺も風魔法を覚えた方が良いのかもしれない。
動機が『生活に役立ちそう』と考える辺りが、もう冒険者じゃないことを自覚させられたのが、少しだけ悲しい。
「まだ、れんしゅうちゅうだから、おかあさんほどうまくつくれないの……」
イルデが服を作る時に出た、余った布を使って、アイリスが手袋を作ってくれたのだが、その時に、下を向きながらそう言っていた。
一見すると、良く出来ていると思うのだが、曰く、縫い目の大きさが一定じゃなかったり、少し縫い目が撚れているなどしているらしい。
能々見てみると確かにそうなのだが、気にするような感じでは無いと思う。
「こんなの、気にならない位に良く出来ていると思うよ。
ありがとうな」
「おかあさんとくらべると、まだまだなの。
でも、そのうち、きっとじょうずにつくるから」
この歳から、物づくりへの片鱗が見え隠れしているのは、種族的なものなのかもしれない。
ともあれ、今まで作業をするにも手袋無しでやっていたのだから、大きな前進だろうと思う。
こういう細かい所に俺は気が付かないから、とてもありがたい。
「きょうは、わたしがつくったの」
夕食を食べようと食堂へやって来た時に、アイリスが胸を張って言っていた。
以前はアンとドゥが作っていたが、イルデが来てからはイルデに任せていた。
最初はアンとドゥも見ていたのだが、俺が通訳しないと言葉が分からないので、遠慮するようになっていた。
通訳として俺までが食堂に来てしまうと、畑の作業がトロワ、キャトル、サンクだけとなり、進まなくなってしまうからだ。
今は雨の日などの畑の作業が無い時だけ、俺が通訳をしながらイルデと一緒に作っている。
イルデが作るから、もう覚えなくても良いのでは? と言ったこともあるのだが、トロワへ教えるためにも覚えたいとのことだったので、付き合うことにした。
『調理』という、ゴブリンにしては新しいスキルを持ったものが誕生したのだった。
話を戻して、アイリスはイルデに料理も習っていた。
今までは手伝いだけだったのが、今日は実際に料理をしてみたのだろう。
「味見はしてありますので、安心して食べてくださいね」
見た目も匂いも美味しそうだったし、イルデが味見をしているのなら何の問題も無いだろう。
「じゃあ、皆、食べようか」
皆が席に着いたところで、俺が声を掛けて食べ始めた。
今では、ゴブリン達やヴィーヴルもスプーンとフォークを、当たり前のように使って食事をしている。
そんな中、アイリスは神妙な面持ちで皆の顔色を窺っている。
そう言えば、今日はアイリスが作ったから、皆の反応が気になるのだろう。
俺は、一番手短にあった肉料理の塊へフォークを刺して、口の中へと運ぶ。
「アイリス、美味しいよ。
イルデと変わらない位、美味しいよ」
「うむ、本当に美味しいのじゃ。
これなら、いくらでも食べれるのじゃ」
ヴィーヴルは、満足そうな顔をしながら言っていた。
どうやら、アイリスはイルデの血を濃く継いだようだ。
今度、街へ行く時には、アイリスも連れて行った方が良いのかもしれない。




