第101話 魔王も移住?(1)
魔王ルシフェルは畑へと降り立った。
先ほどまで隣に控えていた魔族の2人も、続いて畑へと降りてきた。
「あぁ、だから、畝に降りるなって!」
「人間風情が何をほざくか! 殺してくれるわ!」
「マスティマ、我を苛立たせるつもりか?」
「申し訳ありません、魔王様。
決して、そのような考えは御座いません」
「部下が済まなかった。
部下の不始末は我の不始末だ」
「ルシフェル、頭を上げてくれ。
魔王様がすぐに頭を下げるのは、ましてや人間に頭を下げるのは、色々と不味くないのか?」
「我は気にしないのだがな」
魔王と言えば恐怖の象徴みたいなものだし、暴虐で残虐の代名詞だと思っていたのだが、想像していたものとは違う。
魔王と言うよりは、地方にいる人当たりの良いギルドマスターみたいな感じだ。
「何かルシフェルって、魔王と言う感じがしないな」
「そう感じるか? 人間が思う魔王のイメージはどんな感じかの?」
「う~ん、破壊と殺戮の権化? 人間を見つけたら即殺す? みたいな感じかな」
「前の魔王である、父上の姿はそのような感じであったな。
我は生まれてすぐに母上と共に、父上から逃れて隠れるように暮らしていた為か、その様な衝動が起きないのだ」
「それどころか、普通の魔族より話せると思うぞ」
「魔族としての教育を受けておらんからだろうな。
母上しか居らんかったから、いつの間にか話を聞くようになったのかも知れん」
「それで、此処は可笑しなことが何もないってことが確認できたんだろ?」
「うむ、そうだな」
「じゃあ、帰るのか?」
「それなんだがな……我も暫く、此処に置いてもらえぬか?」
「魔王様、それは為りません!」
魔族の男が叫ぶ。
確か、名前はマスティマだったっけ?
「何故だ? マスティマよ」
「此処は、魔王様が居られるような場所では御座いません。
見れば家は土で出来ており、中身も想像が出来ましょう。
こんなみすぼらしい所へ、魔王様を留め置くことなぞ、以ての外です。
要件がお済でしたら、こんな所からさっさと離れるべきだと思われます」
『こんな所』とか『みすぼらしい』とか言われたが、尤もだから反論は出来ない。
だけど、目の前に住んでいる人がいるのだから、言葉を選んで欲しかったな。
あ、魔族だから無理か。
基本的に、魔族は魔族以外を見下しているらしいから。
「城には魔王様の為すべき仕事がありますので、お早めにお戻りください」
左側に控えていた、女の魔族が言った。
今まで一言も喋らなかったから、喋ることができないのかと思っていたが違ったようだ。
女の魔族は場所どうのうじゃなく、『仕事がある』という至極真っ当な理由で、帰るべきという事を告げた。
魔王の仕事って何をするのだろう? という疑問が湧いたが、今は口を挟むべきではないだろう。
「仕事と言っても、こちらでも出来る事ばかりであろう? ベルゼバブがこちらへ持ってこられぬか?」
へぇ、ベルゼバブって名前なのか。
「御前会議は、魔王様の御出座無くしては成立いたしません」
あくまで、論理的に帰ることを主張する。
うん、何処からどう聞いても正しい主張だ。
「我がその場に居るから御前会議となっているだけで、会議の内容を知ることが出来れば、その場に居ずとも会議としては成立するであろう。
その場に居ずとも、我の声が届き、その場の皆の声を聴くことが出来れば問題ないはずだ」
随分と魔王様は強情だな。
何故、そんなにまで帰りたくないのだろうか?
「もし、そんな事が可能であればよろしいのですが、出来るのでしょうか?」
「ヴィーヴル、何とかならぬか?」
「何故、妾がそんなことをせねばならんのじゃ?」
「以前の借りを、今こそ返してもらいたいのだが」
「それを言われては、仕方が無いのじゃ。
これを以って、借りは返すのじゃ。
う~む、方法が無いわけではないが、『今すぐに』と言うのは無理じゃ」
「どの位で出来るか?」
「前に作った時は、3日程掛かったのじゃ」
「ならば、3日後に再びこちらへと来るとしよう。
そこで、『その方法』とやらの効果を確認し、問題が無ければその日より我は此処に留まることとする」
え? 3日後から魔王が此処に住むのか?
ヴィーヴルとしては問題なさそうだが、俺はあんまり歓迎できないのだが……
話が急展開過ぎて、未だに理解が追い付いていない。




