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第四話


ある日のできごと。

これは忘れることのない思い出。

今でも鮮明に覚えている。

とても暑い日だった。


私は学校からの帰り道を一人とぼとぼと歩いていた。

あまりの暑さに夏バテ寸前で、

ふらふらしながら危なっかしく歩を進めていると

背中にズシンと衝撃がかかった。

「なに幽霊みたいな歩き方してんのよ。そのうち半透明になってくるよ。」

なぜか私の背中をバンバンとたたき続けているナナがそこにいた。

私はゆっくりと振り返る。

「あついよ~バテる~」

ナナは私の夏バテオーラなんかさらりとかわした。

「そんなこと言ってるから暑くなるの。

ダラッとしたところに暑さは集まってくるものなのよ。」

今時こんな中学生、天然記念物ものだ。

ああ、だから不思議ちゃんなのか。

「そんなことより、ちょっと付き合って欲しいんだけど。」


公園のベンチはちょうど大きな木の陰になっていて涼しかった。

「付き合って欲しいところって、ここ?」

「うん。あのね、見てもらいたいものがあるの。」

ナナはバックから黄色い水玉模様のかわいらしい紙を取り出した。

私は、はっと息をのんだ。

涼しい風が通りすぎる。


時間はさかのぼり、今日の朝のこと。

「ねえねえ、あやめー。ちょっとこれ書いてー。」

私は友達から一枚の紙を受け取った。

それに目を通して私は絶句した。

そこには、ありとあらゆるののしり言葉の羅列が

違う筆跡で延々と書き連ねてあったのだ。

「どうしたの、これ。」

ちょっと混乱しながら尋ねる。

「となりのクラスから回ってきた。あやめも書けば。ストレス解消になるよ。」

「どーゆーこと?」

「さいきんさー、桔梗ヶ咲さんのことどう思う?」

「えーっと、べつに何とも思ってないけど・・・・・」

「ちょっと冷たいところとかない?」

「んー、まぁそれはあるかもね。」

「ふーん、じゃ、書いていいよ。ここにイライラをぶちこむだけ。」

友達がじっとわたしのシャーペンを見つめている。

私は紙の余白部分に「ウザい」と書き込んでしまった。

「それだけでいいの?まあいっか。早く誰かに回してきなよ。」

私は後ろで本を読んでる子に手紙を回した。

この手紙の意味がわからなかったわけじゃない。

最後に誰の手に渡るかまで感づいていた。

だけど、書かないわけにはいかなかった。

大勢を敵に回したくはなかった。

なんのことはない、誰かが流行らせようとしている

新しいタイプのチェーンメールかなんかだと思うことにした。

だから書いてしまったのだ、あの紙に。

黄色い水玉模様のあの紙に。


「どうしたの?」

紙を見てからずっとフリーズしたままの私を心配したナナに

顔をのぞき込まれる。

その大きな目にまっすぐ見つめられると

いろんなことが勝手にこぼれ出てきてしまいそうで

私はとっさに目をそらした。

「なんでもないよ」

目線を手紙に移す。

そこにはびっしりと埋まったたくさんの罵り言葉が書いてあった。

そして、真ん中あたりの「ウザい」を見つけた。

その時

私の時間が止まった。

「ねえあやめ、これ、どう思う?」

「ヒドイ、ダレガコンナコトシタノ?」

それは私。

「わかんない。あやめ知らないよね。」

「シラナイ、ワタシワ ナンニモシラナイ」

知らなかった、ただの遊びだと思ってたのに。

「あたし、どうすればいいんだろ。」

「シラナイ、ワタシワ ナンニモシラナイ」

「あやめ?」

「タダノアソビダト オモッテタノニ・・・・タダノアソビ・・・・」

「どうしたの・・・・」

「ソウ、コレハ ダレカガ カンガエタ タダノアソビ・・・・」

「あやめ!」

私の左の頬に衝撃が走った。

「ナナ・・・・」

止まっていた時間が動き出す。


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