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『魔王を倒すと世界が滅びるので、勇者から魔王を守ります ~タイムリープした俺は、幼馴染の魔王を救いたい~』  作者: 水原伊織


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第40話 聖女ではないエリシア

「ヨハン」


その声を聞いた瞬間。


俺は動けなくなった。


「やっと……見つけた」


街灯の明かりの中を、一人の少女が走ってくる。


金色の髪。


白い服。


見覚えのある顔。


エリシア。


何度も俺たちを導き、何度も敵として立ちはだかった少女。


けれど、この世界では違う。


聖女ではない。


少なくとも、そう聞いていた。


「エリシア……?」


俺が名前を呼ぶと、少女は足を止めた。


そして、涙を拭う。


「うん」


「どうして俺の名前を知ってる?」


「……知ってるよ」


エリシアは笑った。


「ずっと知ってた」


シエルが俺の前に出る。


「あなたは、この世界で何をしているの?」


「私は普通の女の子だよ」


エリシアは答えた。


「聖女じゃない」


レオンが眉を寄せる。


「じゃあ、どうして俺たちを知っている?」


エリシアは少し困ったように笑った。


「夢を見るの」


「夢?」


「毎晩」


彼女は胸に手を当てる。


「知らない世界の夢」


俺の背筋に寒気が走った。


「どんな夢だ?」


「何度も世界が滅びる夢」


エリシアの瞳が揺れる。


「勇者が魔王を殺す夢」


「……」


「青い髪の女の子が泣いている夢」


シエルが息を呑む。


「そして――」


エリシアは俺を見る。


「ヨハンが、何度も死ぬ夢」


静寂が広場を包んだ。


「それだけじゃない」


エリシアが続ける。


「あなたが何度も、私を探している夢も見る」


「俺が?」


「うん」


「どうして?」


エリシアは首を振った。


「分からない」


そして、木の下にいる少女を見る。


「でも、あなたたちが新しい世界を作った瞬間、全部思い出した」


俺は振り返った。


もう一人のシエル。


世界の記憶から生まれた少女。


彼女は静かにエリシアを見つめていた。


「やっぱり、来たんだね」


「知っていたの?」


エリシアが聞く。


「うん」


「どうして?」


少女は答えなかった。


代わりに、巨大な樹へ手を伸ばした。


「まだ、最後の記憶が残っているから」


「最後の記憶?」


俺は聞き返した。


少女は頷く。


「この世界を作ったとき、全部の記憶を消すことはできなかった」


「何が残った?」


「あなたたちが大切にしていた人たち」


エリシアが目を見開く。


「……私も?」


「うん」


「じゃあ、私は何者なの?」


少女はエリシアを見る。


「あなたは――」


その瞬間。


巨大な樹が震えた。


枝から、一枚の白い葉が落ちる。


地面に触れた瞬間。


光が広がった。


俺たちの前に、映像が浮かび上がる。


そこにいたのは。


最初の世界のエリシアだった。


まだ幼い。


シエルと手を繋いでいる。


そして、その二人の前に立っていたのは――


若いアベルだった。


「……アベル?」


現在のアベルが目を細める。


映像の中のアベルは、今とは違う表情をしていた。


優しい顔。


穏やかな笑顔。


そして、彼の腕には小さな赤ん坊が抱かれていた。


「誰……?」


シエルが呟く。


俺にも分からない。


映像の中で、エリシアがアベルに尋ねている。


『この子は誰?』


アベルは笑った。


『俺の大切な人だ』


その瞬間。


映像が途切れた。


アベルが固まる。


「……」


俺はアベルを見る。


「お前、あの子を知っているのか?」


アベルは答えなかった。


ただ、拳を握っていた。


「……知らない」


「本当に?」


「知らない」


声が震えている。


エリシアが一歩近づく。


「アベル」


「……」


「あなたは、私の夢にも出てくる」


アベルが顔を上げた。


「私たちは、最初の世界で何かを約束した」


「何を?」


エリシアは首を横に振る。


「それだけは思い出せない」


そのとき。


木の下の少女が言った。


「約束は、一つだけ」


全員が振り向く。


少女は俺を見る。


「誰も捨てない」


俺の胸が熱くなる。


「それが、この世界を作るための条件だった」


「じゃあ、エリシアは……」


「捨てられた記憶じゃない」


少女が微笑む。


「残された記憶」


エリシアの目から涙が落ちた。


「……私も、この世界にいていいの?」


シエルがすぐに答えた。


「当たり前だよ」


エリシアがシエルを見る。


「あなたは……」


「シエル」


「知ってる」


エリシアが笑う。


「ずっと知ってた気がする」


シエルはエリシアの手を取った。


「じゃあ、一緒に行こう」


「どこへ?」


「これから決めるの」


シエルは笑った。


「私たちの世界なんだから」


エリシアは涙を拭った。


「……うん」


その瞬間。


空が光った。


巨大な樹の枝が大きく揺れる。


そして、世界中へ声が響いた。


『記憶は、すべて戻りました』


『次は――未来です』


俺は空を見上げた。


その声には、もう終焉の気配はなかった。


けれど。


右手が突然、熱くなる。


「ヨハン?」


シエルが心配そうに見る。


手の甲に、消えたはずの紋章が浮かんでいた。


今までとは違う。


「選択者」でもない。


「記憶する者」でもない。


そこに刻まれた文字を見て。


俺は息を呑んだ。


**『創造者』**


「……創造者?」


レオンが呟く。


すると、巨大な樹の根元から声がした。


『世界を作った者には、最後の役目があります』


俺たちは身構えた。


『この世界を――』


一拍。


『終わらせるか、永遠に続けるか』


シエルが俺を見る。


「また選ばされるの?」


俺は首を横に振った。


「違う」


俺は右手を握る。


「今度は、俺たちが選ぶんじゃない」


「じゃあ?」


俺はエリシアを見る。


アベルを見る。


レオンを見る。


ミレイユを見る。


そしてシエルを見る。


「この世界に生きる、みんなが選ぶ」


その瞬間。


街中の人々の手に、光が灯った。


誰もが空を見上げている。


そして。


世界中から、無数の声が響き始めた。


『私たちは――』


その続きを聞く前に。


巨大な樹が、まばゆい光を放った。


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