↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔王を倒すと世界が滅びるので、勇者から魔王を守ります ~タイムリープした俺は、幼馴染の魔王を救いたい~』  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/42

第35話 三つの世界

目の前に、三つの扉が並んでいた。


どれも同じ大きさ。


同じ形。


けれど、扉の向こうから感じる気配は、それぞれ違っていた。


一つ目の扉からは、強い魔力。


二つ目からは、穏やかな光。


三つ目からは――シエルの気配。


「……何だ、これ」


レオンが扉を見比べる。


ミレイユが杖を構えた。


「魔法で作られたものじゃない」


「じゃあ何なんだ?」


「分からない」


ミレイユが首を振る。


「私が知っている魔法の範囲を超えてる」


アベルも黙って扉を見ていた。


「選択しろ、ということか」


「ああ」


俺は頷いた。


空には、まだ黒い亀裂が残っている。


そこから聞こえてくる声は、さっきから変わらない。


『次の世界を選んでください』


「選ばなかったら?」


俺が空に向かって問いかける。


返事はない。


代わりに、三つの扉に文字が浮かんだ。


一つ目。


**『魔王のいない世界』**


二つ目。


**『勇者のいない世界』**


三つ目。


**『シエルのいない世界』**


「……ふざけてる」


シエルが呟いた。


俺も同じ気持ちだった。


どれを選んでも、何かを失う。


「俺は一つ目がいいと思う」


レオンが言った。


「魔王がいなければ、世界は滅びない」


「本当にそうかな?」


アベルが口を挟んだ。


「魔王がいない世界は、俺たちが何度も見てきた」


レオンが振り返る。


「何?」


「最初の世界だ」


アベルは一つ目の扉を見る。


「魔王はいなかった。それでも世界は終わった」


レオンが黙った。


俺も扉を見つめる。


確かにそうだ。


魔王は原因ではなかった。


世界の終焉そのものは、魔王が生まれるより前から存在していた。


「じゃあ、二つ目は?」


ミレイユが聞く。


アベルが答える。


「勇者のいない世界」


「それなら魔王を倒す人間もいない」


「その代わり、魔王が生まれたら止める者もいない」


ミレイユが眉を寄せた。


「……なるほど」


俺は三つ目の扉を見る。


**『シエルのいない世界』**


それだけは考えるまでもなかった。


「これは選ばない」


俺が言うと、シエルが俺を見る。


「どうして?」


「決まってるだろ」


俺は笑った。


「お前がいない世界なんて、世界を救う意味がない」


シエルが少し困ったように笑う。


「ヨハンらしいね」


「でも――」


シエルが三つ目の扉に近づいた。


「この扉、変」


「何が?」


「私がいない世界なのに、私の魔力がする」


俺たちは顔を見合わせた。


シエルが扉に手を触れる。


青白い光が広がった。


扉の表面に映像が浮かぶ。


そこには一人の少女がいた。


シエルだ。


けれど、俺たちの知っているシエルとは違う。


少女は一人で街を歩いている。


誰も彼女を知らない。


ヨハンもいない。


レオンもいない。


ミレイユもいない。


それでも少女は笑っていた。


「……あの子」


シエルが呟く。


「私なの?」


「違う」


アベルが即答した。


「お前の記憶から作られた可能性が高い」


「記憶……?」


「世界は、お前を完全には消せない」


アベルが続ける。


「だから別の形で残そうとしている」


俺は嫌な予感がした。


「それって……」


「世界がシエルを必要としているということだ」


空の亀裂が大きくなる。


地面が揺れた。


『選択してください』


声が再び響く。


その瞬間、三つの扉が光った。


そして、四つ目の扉が現れた。


「……四つ目?」


レオンが驚く。


そこには文字がない。


ただ、扉の中央に二本の剣が描かれている。


一本は白い剣。


もう一本は黒い剣。


俺はその扉を見た瞬間、右手に痛みを感じた。


「ヨハン?」


シエルが心配そうに近づく。


右手を見る。


消えたはずの紋章が再び浮かび上がっていた。


今度は違う。


紋章の中央に、文字がある。


**『選択者』**


「俺が選ぶのか……」


「そうみたいだな」


レオンが笑った。


「勇者じゃなくなった俺には、関係ないらしい」


「レオン」


「気にするな」


レオンは聖剣だった剣を肩に担いだ。


「俺はもう、自分で選ぶって決めたからな」


その言葉を聞いて、シエルが四つ目の扉を見る。


「ヨハン」


「どうした?」


「この扉の向こうに、何かいる」


「何か?」


「ううん」


シエルは首を振った。


「誰か」


俺も扉に近づく。


手を伸ばす。


触れた瞬間――。


声が聞こえた。


『ヨハン』


俺は息を止めた。


聞き覚えがある。


けれど、シエルではない。


レオンでもない。


ミレイユでもない。


「誰だ?」


『ずっと待っていた』


扉の向こうから、少年の声がする。


『お前が世界を選ぶ日を』


アベルが顔を強張らせた。


「……その声」


「知ってるのか?」


「ああ」


アベルが黒剣を構える。


「この声だけは、忘れたことがない」


扉がゆっくり開いた。


その向こうに、一人の少年が立っていた。


黒い髪。


白い服。


胸には、二本の剣が交差した紋章。


そして、その顔を見た瞬間。


俺は言葉を失った。


「……俺?」


少年は笑った。


「そうだ」


レオンが剣を抜く。


「ヨハンにそっくりだ」


少年は俺を見る。


「僕は、お前が世界を救えなかった世界のヨハン」


「……何?」


「そして」


少年はアベルを見る。


「アベル、お前が探していた人間でもある」


アベルの顔から血の気が引いた。


「……まさか」


少年が微笑む。


「久しぶり」


アベルの手から黒剣が落ちた。


「そんな……」


少年は静かに告げた。


「僕が、最初の世界を終わらせた」


空気が凍った。


「魔王でもない」


「勇者でもない」


「世界そのものでもない」


少年が俺を指差す。


「ヨハン、お前だ」


「……俺が?」


「正確には――」


少年の目が赤く染まった。


「お前の中にある、最後の記憶だ」


その瞬間、俺の右手の紋章が砕けた。


そして、世界中に鐘の音が響き渡った。


一度。


二度。


三度。


四度。


五度。


六度。


七度――。


八度目の鐘が鳴った瞬間。


空の亀裂から、巨大な黒い手が伸びてきた。


少年が笑う。


「さあ、ヨハン」


「最後の世界を選ぼう」


「今度は――」


黒い手が大地を掴む。


「誰を救うかじゃない」


少年の瞳が赤く輝いた。


「**誰を捨てるかを選ぶんだ**」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。