↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を倒すと世界が滅びるので、勇者から魔王を守ります  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/17

第三話 追跡者

 シエルの小屋を後にしてから三日が経った。


 俺は毎日のように理由をつけて森に通った。

薬草採取の手伝い、井戸の修理、屋根の補修――正直、そのどれもが口実に過ぎないことは、シエル本人もうすうす気づいているかもしれない。


 だが、それでよかった。


 彼女のそばにいる時間が長ければ長いほど、「きっかけ」が訪れたときにすぐ気づける。

今はそれだけで十分だった。


 問題は、別のところから訪れた。


「ヨハン、いるか!」


 四日目の朝、小屋の扉を叩く音と共に、聞き覚えのある声が響いた。


 レオンだった。


 勇者選定から一週間。

まだ王都を発っていなかったのか、と俺は内心で驚いた。


前回の生の記憶では、勇者選定の後、レオンは数日のうちに旅立ったはずだ。


「レオン? どうしてここに」


 扉を開けると、以前より少し精悍になった顔つきのレオンが立っていた。

腰には、まだ手に馴染んでいなさそうな聖剣が下げられている。


「探したんだぞ。お前、選定の日からずっと様子がおかしいってミレイユが心配してた」


「……悪い」


「それに」


 レオンの視線が、俺の背後、小屋の奥へと向いた。シエルが不思議そうな顔で顔を覗かせている。


「毎日ここに通ってるって聞いた。シエルのところに」


「別に、大したことじゃない。ちょっと手伝いをしてるだけだ」


「ふうん」


 レオンは意味ありげに笑ったが、すぐに真剣な表情に戻った。


「本題はそれじゃない。実は、旅立つ前にお前に頼みたいことがあって来たんだ」


「頼みたいこと?」


「一緒に来てくれないか。魔王討伐の旅に」


 ――来た。


 前回の生では、なかったはずの誘いだった。

いや、なかったのではなく、俺が気づかなかっただけかもしれない。


前回の俺は、ただの村人の一人として、この旅に無関係な人生を送っていたはずだ。


 今回は違う。

今回の俺には「知識」がある。

それに気づかれているのだろうか。


「なんで俺なんだ。剣も碌に握ったことのない俺が、役に立つとは思えない」


「お前は昔から、妙に勘がいいだろ。危ないことになる前に、いつも先に気づいてた。子供の頃からずっとそうだった」


 思い当たる節はあった。

前回の生の記憶を頼りに、危険な出来事を避けてきたことが何度もある。

それが「勘がいい」と周囲に映っていたのかもしれない。


「それに――」


 レオンは少し言い淀んでから、続けた。


「聖剣が、選定の日からずっと妙な反応をするんだ。まるで、何かに『気をつけろ』って言ってるみたいに。神殿の連中は気のせいだって言うが、俺にはそうは思えない」


 心臓が跳ねた。


「妙な反応、というのは」


「なんて言えばいいのか……。時々、剣が急に重くなる。まるで、誰かを――何かを、切ることをためらってるみたいに」


 俺はシエルの方をちらりと見た。

彼女は何も知らない顔で、井戸の水を汲む作業に戻っていた。


 まさか。


 聖剣自体が、魔王の気配に反応しているというのか。

だとすれば、シエルがこの場にいる限り、レオンにいずれ気づかれる可能性がある。


 それだけは、避けなければならない。


「……わかった。一緒に行く」


 我ながら、驚くほど即座に言葉が出た。


「本当か!」


 レオンの顔がぱっと明るくなる。


「もちろん、剣の腕は期待するなよ。荷物持ちくらいにしかならないと思うが」


「十分だ。お前がいてくれるだけで心強い」


 旅に同行すれば、レオンのそばで動向を見張ることができる。

聖剣の反応も、直接確認できる。

何より――旅の間、魔王討伐の瞬間が近づいたとき、俺がそれを止める機会を作れるかもしれない。


 だが同時に、新たな問題が生まれた。


 旅に出れば、シエルのそばを離れることになる。


 「きっかけ」が、シエルが一人になったときに訪れるとしたら――俺がいない間に、それが起きてしまったら。


 どちらを選んでも、リスクがある。


 考え込む俺の様子に気づいたのか、レオンが怪訝そうな顔をした。


「どうした、やっぱりやめとくか?」


「いや……。一つ、条件がある」


「条件?」


「シエルも、一緒に連れて行きたい」


 レオンは一瞬、きょとんとした顔をした後、小屋の奥にいるシエルへと視線を移した。


「シエルを? 別にかまわないが……本人はどう思うかな」


「シエル」


 俺が呼びかけると、井戸端にいた彼女がこちらを振り向いた。


「一緒に旅に出ないか。レオンの、魔王討伐の旅に」


 沈黙が流れた。


 シエルは驚いた顔をした後、なぜか小さく笑った。


「……いいよ」


 あっさりとした返事だった。


「本当に? 危険な旅になるかもしれないぞ」


「危険は、今更ヨハンに言われることじゃないと思うけど」


 少しからかうような口調で言ってから、シエルは表情を少し曇らせた。


「それに――なんとなく、そばにいた方がいい気がするから」


 その一言に、何か特別な意味が込められているのかどうか、俺には判断がつかなかった。


 ただ、その瞳の奥に、あの日感じた「懐かしさ」が、また一瞬だけよぎった気がした。


 こうして、思いがけない形で、パーティが結成された。


 勇者レオン。

幼馴染のシエル。

そして――未来を知る俺。


 三年後に世界が滅びないよう、俺はこの旅の中で、答えを見つけなければならない。


(第四話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。