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『魔王を倒すと世界が滅びるので、勇者から魔王を守ります ~タイムリープした俺は、幼馴染の魔王を救いたい~』  作者: 水原伊織


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第24話 勇者を殺す者

 王都の空が赤く染まった。


 大聖堂の外から、悲鳴が聞こえる。


「何が起きてるんだ!」


「魔物が出たぞ!」


「逃げろ!」


 窓の外を見た。


 街のあちこちから黒い煙が上がっている。


 魔物が現れた。


 それも一体や二体ではない。


「アベルがやったのか」


 俺が呟く。


 窓の向こうで、灰色のローブが揺れた。


 次の瞬間。


 アベルの姿が消える。


「追うぞ!」


 レオンが駆け出した。


「待って!」


 ミレイユが叫ぶ。


「エリシアを置いていけない!」


 倒れているエリシアを見る。


 彼女はまだ意識を失っている。


 シエルがその身体を支えていた。


「ヨハン」


「分かってる」


 俺はエリシアを抱き上げた。


「このまま連れていく」


「大聖堂の中は危険よ」


「外も同じだ」


 俺たちは階段を駆け下りた。


---


 大聖堂の外へ出る。


 街は混乱していた。


 黒い魔物が建物を壊し、人々が逃げ惑っている。


「魔王だ!」


 誰かが叫んだ。


「魔王が復活した!」


 その声を聞いた瞬間。


 俺は嫌なものを感じた。


 早すぎる。


 まだ魔王は復活していない。


 なのに。


 なぜ人々は、そう思っている?


「ヨハン!」


 レオンが指を差す。


 広場の中央。


 巨大な魔法陣が浮かんでいる。


 その中心に。


 黒い鎧を着た男が立っていた。


「魔王……?」


 ミレイユが呟く。


「違う」


 俺は即答した。


「魔王じゃない」


 男がこちらを見る。


 その顔は。


 前の世界で何度も見た顔だった。


「王国騎士団長……」


 レオンが呟いた。


 騎士団長ガルド。


 王国最強の騎士。


 前の世界では、魔王討伐の直前まで俺たちを支えてくれた人物だ。


 その男が。


 今は黒い魔力に包まれている。


「勇者レオン」


 ガルドが剣を抜く。


「国王陛下の命により、お前を拘束する」


「なぜ?」


「お前は魔王の器を庇った」


「シエルは魔王じゃない!」


「証明できるか?」


 レオンが言葉を詰まらせる。


 ガルドはシエルを見る。


「その少女を渡せ」


「断る」


「ならば、勇者であっても敵とみなす」


 ガルドが剣を構えた。


 レオンも聖剣を抜く。


「俺は戦いたくない」


「私も同じだ」


 ガルドが踏み込む。


 鋭い斬撃。


 レオンが受け止める。


 激しい金属音が響いた。


「レオン!」


「ヨハンはシエルを!」


 俺はシエルを見る。


 彼女はエリシアを支えている。


「ミレイユ、エリシアを頼む!」


「分かった!」


 俺も剣を抜いた。


 周囲から王国兵が近づいてくる。


「こっちは任せろ!」


 ミレイユが杖を構えた。


 地面から光の壁が立ち上がる。


 兵士たちの進路を塞いだ。


「今のうちに!」


 俺はシエルの手を取った。


 その瞬間。


 シエルの瞳が赤く光った。


「……ヨハン」


「どうした?」


「地下から声がする」


「何て?」


「来いって」


 俺は大聖堂を見る。


 地下。


 四つの紋章がある扉。


 そこへ行けと言っている。


「行こう」


「でも……」


「ここにいても狙われる」


 俺はシエルの手を握った。


「答えを探す」


 シエルが頷く。


---


 地下への階段を下りる。


 大聖堂の地下には、俺たち以外誰もいなかった。


 不気味なほど静かだ。


 壁には古い文字が刻まれている。


 そして。


 最奥に。


 あの扉があった。


 四つの紋章。


 勇者。


 器。


 魔王。


 そして。


 二人の人間。


「これ……」


 シエルが扉へ近づく。


 四つ目の紋章に手を触れた。


 青白い光が広がった。


 扉が震える。


「シエル、離れろ!」


 俺が叫ぶ。


 けれど。


 扉は開かなかった。


 代わりに。


 俺の右手が光った。


「ヨハン」


 シエルが俺を見る。


「手を合わせて」


「え?」


「そう書いてある」


 扉を見る。


 古代文字が浮かび上がっていた。


『器と鍵、二人で触れよ』


 俺はシエルの手を握った。


 二人で扉に触れる。


 轟音が響いた。


 四つの紋章が一斉に光る。


 扉が開いた。


---


 その向こうには。


 一つの部屋があった。


 中央に巨大な水晶が浮かんでいる。


 中には。


 一人の少年が眠っていた。


「誰……?」


 シエルが近づく。


 少年の顔を見た瞬間。


 俺は息を呑んだ。


 俺だった。


 十五歳の俺。


 今の俺と同じ顔。


 同じ服。


 ただし。


 胸には黒い穴が開いていた。


「これは……」


 シエルが震える。


 水晶の中の俺が目を開いた。


「やっと来た」


 少年が喋った。


「お前は……誰だ?」


「俺は、お前だ」


 頭が混乱する。


「意味が分からない」


「分からなくていい」


 少年は笑った。


「まだ一つ目だから」


「一つ目?」


「世界は何度もやり直している」


 少年の目が赤く光る。


「そのたびに、お前はシエルを守ろうとした」


 俺は拳を握る。


「それで世界が滅びた?」


「違う」


 少年は首を振った。


「お前が守ったからではない」


「じゃあ、何が原因なんだ?」


「勇者だ」


 その言葉に。


 レオンの顔が頭に浮かんだ。


「勇者が魔王を殺す」


 少年は続ける。


「その瞬間、魔王に集められていた魂が解放される」


「魂が?」


「世界の境界を越えて、別の世界へ流れ込む」


 少年の声が低くなる。


「その流れが、世界を壊している」


 俺は前の世界を思い出した。


 魔王を倒した直後。


 魔王城から赤い光が空へ昇った。


 それが世界を覆った。


 そして三日後。


 世界が終わった。


「じゃあ……」


 俺は呟く。


「魔王を倒さなければいい」


「それだけではない」


 少年が答える。


「魔王は三百年ごとに生まれる」


「なぜ?」


「世界が必要としているから」


 シエルが首を振る。


「そんなの、おかしい」


「そうだ」


 少年はシエルを見る。


「だから最初の世界では、魔王を殺さなかった」


 俺は目を見開く。


「最初の世界?」


「勇者は剣を捨てた」


 少年が笑う。


「その結果、世界は救われた」


「だったら、どうして今は……」


「勇者を殺したからだ」


 空気が凍った。


「勇者を……殺した?」


「そう」


 少年が俺を見る。


「最初の世界では、魔王を殺さず、勇者を殺した」


 俺は言葉を失った。


 レオン。


 今の世界では、勇者はレオンだ。


「じゃあ……」


 シエルが呟く。


「今度は、レオンが殺されるの?」


 その瞬間。


 部屋の奥から声が響いた。


「その通りです」


 俺たちは振り返った。


 そこに。


 アベルが立っていた。


「アベル!」


 俺が剣を構える。


 アベルは笑った。


「ようやく理解してくれましたね」


「お前がレオンを殺すつもりなのか?」


「私ではありません」


 アベルが指を上げる。


「王国が殺します」


 遠くから。


 大きな鐘の音が響いた。


 王都全体に。


 国王の声が響き渡る。


『勇者レオン・ヴァイスを反逆者と認定する』


 シエルが青ざめる。


『魔王の器を庇った罪により――』


 レオンの名前が。


 王都中へ告げられていく。


『勇者の称号を剥奪する』


 そして。


『王国騎士団は、反逆者レオン・ヴァイスを殺せ』


 俺は息を呑んだ。


 アベルが笑う。


「さあ」


 その目が赤く光る。


「勇者を守ってください、ヨハン」


「あなたが最も得意なことですよね」


 右手の紋章が激しく燃え上がった。


 そして。


 地下神殿の奥から。


 何かが目を覚ます音がした。


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