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『魔王を倒すと世界が滅びるので、勇者から魔王を守ります ~タイムリープした俺は、幼馴染の魔王を救いたい~』  作者: 水原伊織


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第22話 封印された記憶

 翌朝。


 俺たちは町を出た。


 王都までは、あと二日。


 街道を避け、森の中を進む。


 誰も口を開かなかった。


 昨夜、シエルが話したことが原因だった。


 ――エリシアが、自分を封印した。


 そして。


 ――自分の中に何かを入れた。


 俺は何度も、その言葉を思い返していた。


「シエル」


「うん」


「昨日のこと、本当に覚えてるのか?」


「全部じゃない」


 シエルは歩きながら答えた。


「ところどころ、映像が浮かぶだけ」


「無理に思い出す必要はない」


「分かってる」


 シエルは少し笑った。


「でも、ヨハンがずっと私を守ってくれてるから」


「それは……」


「今度は私も、自分のことを知りたい」


 俺は何も言えなかった。


 その言葉を聞くと、余計に怖くなる。


 もしシエルがすべてを思い出したら。


 その中に、俺が知らない過去があったら。


 そして。


 それが世界の滅亡に繋がっていたら。


「ヨハン」


 レオンが前から声をかけてきた。


「考えすぎるな」


「……顔に出てたか?」


「ああ」


 レオンは苦笑した。


「お前はシエルのことになると、分かりやすい」


「そういうレオンも、昨日からずっと聖剣を気にしてるだろ」


「これは仕方ない」


 レオンが腰の聖剣を見る。


「王都へ近づくほど、反応が強くなってる」


「聖女に反応してるのか?」


「分からない」


 レオンは首を振った。


「ただ……」


 聖剣の柄を握る。


「嫌な感じがする」


 ミレイユが後ろから近づいてきた。


「私も同じ」


「ミレイユも?」


「王都の方向から、魔力の流れがおかしいの」


 ミレイユは空を見上げた。


「普通なら、大聖堂の周辺は聖属性の魔力が強くなるはずなのに」


「違うのか?」


「逆」


 ミレイユの表情が険しくなる。


「何かが、地下から魔力を吸い上げてる」


 その言葉に、俺は足を止めた。


「大聖堂の地下……」


 昨夜の光景が頭に浮かぶ。


 白い光。


 そして。


 地下から響いた音。


 ドン。


 ドン。


 ドン。


「エリシアは、何かを封印してるのかもしれない」


 俺が呟く。


「なら、聖女は敵なの?」


 シエルが尋ねる。


「まだ分からない」


 俺は答えた。


「ただ、俺たちを王都へ呼んでいるのは間違いない」


「罠かもしれないね」


「そうだな」


 レオンが剣に手を添える。


「それでも行く」


「どうして?」


「シエルを渡すためじゃない」


 レオンはシエルを見る。


「真実を確かめるためだ」


 シエルは小さく頷いた。


「ありがとう」


---


 昼を過ぎた頃。


 森の奥で、シエルが突然立ち止まった。


「……ここ」


「どうした?」


「前にも来たことがある」


 俺は周囲を見渡した。


 木々に囲まれた、何もない場所。


 道すらない。


「本当に?」


「うん」


 シエルが一本の大木へ近づく。


 その幹に手を触れた。


 青白い光が指先から広がる。


 すると。


 木の根元に、古い石碑が現れた。


「隠されていた?」


 ミレイユが驚く。


 石碑には古代文字が刻まれている。


 ミレイユが読もうとする。


 けれど。


「……これは」


 シエルが口を開いた。


「読める」


 全員がシエルを見る。


 シエルは石碑を見つめた。


「『器を封じる者は、聖女となる』」


 俺の胸がざわつく。


「続きは?」


「『器を見つけた者は、鍵を探す』」


 シエルの視線が俺へ向いた。


「鍵……」


 右手が熱くなった。


 俺の紋章。


「まだ続いてる」


 シエルは読み進めた。


「『鍵を持つ者は、器を守る』」


「……俺のことか」


「たぶん」


 シエルが次の文字を見る。


 その瞬間。


 表情が変わった。


「どうした?」


「これ……」


 シエルの指が震えている。


「『器を守る者が、世界を終わらせる』」


 空気が止まった。


 俺は石碑を見つめた。


 今まで何度も聞かされてきた言葉。


 愛するほど。


 守るほど。


 器が満ちる。


 そして魔王が目覚める。


 けれど。


 今までとは違う。


 この石碑は。


 俺自身が世界の終焉に関係していると言っている。


「ヨハン……」


 シエルが不安そうに俺を見る。


「大丈夫だ」


 俺は答えた。


 自分でも分かるくらい、声が震えていた。


「まだ、何も決まってない」


 そのとき。


 石碑の裏から、何かが落ちた。


 小さな金属片だった。


 拾い上げる。


 古びたペンダント。


 中央には白い石が嵌め込まれている。


「これ……」


 シエルが触れた。


 瞬間。


 景色が変わった。


---


 小さな部屋。


 泣いている少女。


 幼いシエルだった。


 その前に、一人の女性が立っている。


 銀色の髪。


 白い服。


「エリシア……」


 シエルの声が震える。


 女性は幼いシエルの頭に手を置いた。


「怖がらなくていい」


「いや……」


 幼いシエルが泣いている。


「帰りたい」


「あなたが帰る場所は、もうないの」


「ヨハンは?」


 その名前を聞いた瞬間。


 女性の表情が曇った。


「ヨハンは、まだ知らなくていい」


「会いたい」


「いつか会える」


 エリシアが胸元から何かを取り出す。


 黒い石だった。


「これを、あなたの中に入れる」


「いや!」


 幼いシエルが逃げようとする。


 エリシアが抱きしめる。


「ごめんなさい」


 黒い石が光る。


 幼いシエルの身体へ吸い込まれていく。


「これは、あなたを守るため」


 エリシアの目から涙が落ちる。


「いつかヨハンが戻ってきたとき」


 その声が震えた。


「あなたを見つけてもらうために」


---


「……っ!」


 シエルが現実へ戻った。


 その場に膝をつく。


「シエル!」


 俺は駆け寄った。


「大丈夫か?」


「……うん」


 シエルは俺の服を掴んだ。


「思い出した」


「何を?」


「エリシアは……私を助けようとしてた」


 俺は息を呑んだ。


「じゃあ、敵じゃない?」


「分からない」


 シエルは首を振る。


「でも、あの人は泣いてた」


 ミレイユがペンダントを見る。


「これ、聖女のものかもしれない」


 レオンも頷く。


「だったら、本人に返す必要があるな」


 俺はペンダントを握った。


 白い石が淡く光る。


 その光に合わせるように。


 俺の右手の紋章も光った。


「まただ……」


 紋章から一本の光が伸びる。


 王都の方角を指していた。


 正確には。


 大聖堂の地下。


「鍵が、呼ばれてる」


 ミレイユが呟く。


 俺はペンダントを握り締めた。


「急ごう」


---


 その頃。


 王都の大聖堂。


 地下深く。


 エリシアは眠ったまま、静かに涙を流していた。


 その前に。


 アベルが立っている。


「もうすぐ来ます」


 返事はない。


 アベルは地下の巨大な扉を見る。


 扉には四つの紋章。


 勇者。


 器。


 魔王。


 そして。


 二人の人間が向かい合う紋章。


「ヨハンが鍵を持っている」


 アベルが笑う。


「シエルも記憶を取り戻し始めた」


 黒い石から声が響く。


『ならば、最後の段階へ進め』


「はい」


 アベルは頭を下げた。


『勇者に、真実を見せろ』


「真実?」


『魔王を殺さなければ、世界が滅びるという真実を』


 アベルの口元が歪む。


「それなら簡単です」


 彼は聖剣の形をした黒い短剣を取り出した。


「勇者にシエルを殺させればいい」


 扉の向こうから。


 ドン。


 大きな音が響いた。


 エリシアが眠ったまま呟く。


「……違う」


 アベルが振り返る。


「何か言いましたか?」


「……魔王を殺しては、いけない」


 エリシアの目から涙が流れる。


 アベルは静かに笑った。


「それを勇者に聞かせるわけにはいきませんね」


 地下神殿の扉が。


 ゆっくりと開き始めた。


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