禁忌の代償
冷たい潮風が吹き抜ける、海辺や海中。
その数メートル先ではウィルと側近、それから人魚のほうが寿命が長いんだから。
と言っていたもう半分の勢力たちが戦っていた。
イダを遠くに見つけたウィルは、焦っていた。
その油断が招いた。
側近や周りの兵たちがばたばたと倒れていく。
それを見て逃げ出す者たちもいた。
突然の襲撃でこちら側はほとんど戦うすべを持っていなかったのだ。
こちらに辿り着いたイダがウィルに手を差し伸べる。
思わず手を取ったウィルが「なぜここにいるのだ!側近に逃げるように伝えてくれと頼んだはずだが」
「そんなこといいから早くこっち!」
その先には古い埠頭があった。
追い詰められていく二人の前には、深海の冷たさをその身に纏った者たちが、揺らめく「水の膜」を鎧のように纏って立っていた。
それは刃も通さぬ硬質な膜であり、彼らの表情を海水と同じような無機質なものに変えている。
その水の膜から伸びた、鋭利な水の刃がこちらに飛んできた。
迷わずウィルを庇ったイダの細い体を刃が貫いた。
……世界が静まり返る。
「泣かないで、ウィル」
気づくとウィルの瞳からは涙が溢れかえっていた。
イダの唇から溢れる血は、痛々しいほど鮮やかだった。
彼女は最期にウィルの頬に触れようと手を伸ばす。
その指先が触れた途端、二人の間にあった禁忌の壁が崩れ落ちた。
イダの胸元が眩い光に包まれ、その中から冷たく硬質な光を放つ『石』が、イダの心臓の鼓動の音と共に零れ落ちる。
愛が頂点に達した。
伝説が求めたその瞬間、イダの瞳から光が消えた。
ウィルは震える手で石を拾い上げた。
ずっと求めていたもの。
王としてそれを持ち帰るべき、一族の誇り。
しかし、それを握りしめるウィルの指は、血に染まったイダの亡骸を抱きかかえることしかできなかった。




