episode96〜ヴァーネル国〜
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突如現れた不自然な穴。
その深底に、飛び込んだアルネは、落ちていく恐怖に襲われることとなる。
そして、耳飾りの力にて、外に出る事が出来たが、その姿は無惨な状態となっていたのだ。
「大丈夫か!? 怪我はっ…」
ルクナが形相を変えて、向かってくるのがわかる。
「えぇ… なんてことはないわ」
「なんてことないなんてことはないだろう?」
デイルが珍しく、真剣な眼差しでそう言う。
目には見て取れないが、動揺していた。
もはや、自身で何語を喋っているのかさえも、わからないほどだった。
「いや、ほんとほんと。精霊達が少し緩衝材になってくれたから、それほどの衝撃は受けなかったのよ」
「それなら、いいが… 本当に大丈夫なんだな?」
ルクナが念を押すようにして尋ねた。
「えぇ、本当、大丈夫。それより、あの穴は何なのかしら?」
「アルネ、中の様子は暗過ぎて、何も見えなかったんだろ?」
デイルの問いに応えるアルネ。
「えぇ、まさにお先真っ暗ね」
そう言いながら、両手の掌を上に上げた。
(なんて呑気な。危うく戻って来れなかったかもしれないというのに… )
「それで、あの突風によって、穴から飛び出てきたということは、耳飾りの力を使ったんだろう?」
「そういう事になるわね! 私も無意識だったけど、身体を縮こめた時に、きっと耳元を押したのね。それで発動して… はぁ助かったぁ」
「しかし、何故急に飛び込んだりなんかしたんだ?」
「あぁ、それね。中に気配を感じたから。とても嫌な気配だったわ。まるで、憎悪の塊が潜んでいるかの様だった」
(でももっとおかしいのは、何故かそこに違う
’気’ が存在していた事… まるでもう一体の何かがいたような… )
そう思いながらも、今はその謎の穴について、言及しても意味がない事はわかっていた。
この先に進まなければいけない。
本来の目的である隣国へと、向かう事だ。
そして、アルネ達は自身らの交通手段である ’足’ を、再度見返した。
「これは… 」
「えぇダメね… 」
一同は、悲しく横たわる馬車を見て、肩を落とした。
馬車は目に見えて、修復に時間がかかりそうであった。
「ヴァーネル王国は、目と鼻の先です。このまま歩いて行かれた方が速いでしょう」
ヴィカがいつものように、冷静な声でそう提案する。
「そうだな。アルネ、身体は大丈夫か?」
「えぇ、問題ないわ。全然歩ける!」
「さすがアルネ様。野生的なのはお変わりないですね」
アルネはいつもの睨みを、ひと風吹かせた。
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ヴィカの言う通り、アルネ達はすぐにヴァーネル王国へと辿り着いた。
通行書によって、その姿でもすぐに門を潜る事ができた。
しかし、城下町へと入る前に、ルクナはアルネを見て立ち止まった。
「ん? ルクナ? どうしたの?」
その言葉に、少しきまずそうにルクナは口を開く。
「いや… このまま入国するのもな。国王の謁見にも響くだろう」
「へ? 響く?」
アルネは、そういう感覚がなかった。
(というか、その汚れた衣服が気にならないのか?)
「アルネ様、よくそのお姿で、他国の城下町へと繰り出せますね?」
ルクナの自制をすぐに崩したのは、言わずもがな、ヴィカであった。
しかしそれは嫌味でも何でもなかった。
正直且つ簡潔に伝える、ヴィカなりの最善の方法であったのだから。
もちろん友好関係に響きかねない、隣国としての礼儀を持ってのことだ。
アルネもそのひと言に、自身の姿を見直した。
「うーむ… そうね。確かに、これは酷いかも… 」
「何処か、仕立て屋で新調しよう」
ルクナのひと言に、一同は頷いた。
そして、一同は目についたある仕立て屋に入った。
そこで、質の良い服を購入する事にした。
出来合いの物なのにも関わらず、身体に合うように、手際よく直しをしてもらった。
この国の特徴がよく表れているその衣類達は、アルネ達にとって、とても新鮮な物となった。
「ふふ… 」
(シュリさんがいたら、喜んだだろうな)
アルネはそう思いながら、その服の着心地を楽しんだ。
しかし正反対の言葉が、耳へと入ってくる。
「この場に、シュリさんがいなくて良かったですね」
「あぁ… そうだな。多分、謁見する頃には、日が暮れているだろうな」
(なるほど… )
アルネはすぐに納得した。
しかし、道中の不幸が吉となって、絶大な効果が表れたのだ。
アルネ達は今、ルクナを筆頭に、王座の間へと来ていた。
(これはこれで… 良かったのね… とても)
王座に座ったヴァーネル王国・国王ルボイラは、稀に見る満面な笑みで、そこに座っていた。
自身の国を非常に愛しているルボイラ。
彼は、自国の一丁らを身に纏ったルクナ達に、大変お悦びであった。
勧めたわけでも、ましてや強制したわけでもなかった。
なのにだ、たまたま入ったその店は、ルボイラのお墨付きの店だという。
後にわかった事だが、ルクナ達が新調したその店は、王妃の兄が営んでいるという店だった。
国王は、ルクナの父であるマクファ国王と同様、珍しく側室を持たない王で、愛妻家でもあった。
よって、気を良くする方向へと、ずんずんと進んでいったのだ。
謁見とは、第一印象がとても大事だ。
ルクナが前回この国へと来たのは、齢十にも満たない頃だった。
身内無く、自ら訪問したのは初めてだった。
その頃から成長した殿下に会えたことは、ルボイラにもとても喜ばしいことだった。
「ルクナリオよ、其方の数多の栄光をよく耳にする」
「恐れ入ります。誉れ高きヴァーネル王国、ルボイラ国王からそのようなお言葉を頂けるとは、何よりの栄光でございます」
「ふふ… お主も立派になったのぅ」
そう言いながら、国王は嬉しそうに、長い顎鬚を撫でた。
「此度の件は聞いておる。其方の助けになることを願おう。存分に調査していくと良い」
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
その場を去ろうとした国王の横にいた者が、アルネは気になっていた。
入室した時から、強く感じていたその視線は、ルクナではなく、終始アルネを捉えていたからだ。
(ん? あれは… この国の殿下か? 何処かで… )
そう思いながらも、アルネは警戒心が生み出した視線だと勘違いをしていた。
(まぁいいか。それよりお腹空いた)
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無事、謁見が終わったルクナ達は、馬車に残っている荷物が到着するまで、街へと繰り出す事にした。
まずは腹ごしらえだ。
もちろん王宮にて、おもてなしの料理が用意されていたという。
しかしそれは、ルクナ達が来る直前で、何故か取り消されていた。
よって、空腹を満たすために、アルネ達は城下町へと再び足を運んでいたのだ。
しかし、食料に辿り着く前に、一難が舞い込む。
アルネが1人飛び込んだ露店にて、街の男にとっ捕まえられる事となったのだ。
「こいつだ! こいつが犯人だ!」
突然のその言葉に、目を飛び出させるほかなかった。
「え? え?」
アルネは驚き、状況が読めない。
「わ、私、何もやってませんよ!?」
「間違いない! こいつがさっきの覆面のやつだ!」
「覆面!?」
「お前、ヴァーネル王国の者ではなかろう!? 犯人は異国の服を身に纏っていたというからな」
アルネは訳が分からずも、咄嗟に言葉を出した。
「た、確かに私はこの国の者ではないわ! でもあなたの言うことに、全く身に覚えがない! それに私は、さっきまで… 」
「そう、彼女は先程まで、王宮にて国王陛下に謁見していたからね」
その声は、ルクナのものではなかった。
聞き覚えのない声が、アルネへと降り注ぐ。
(誰… ?)
その者の方へと顔を見上げるが、逆光でよく見えない。
「謁… 見? 国王に?」
アルネを疑った男は、その言葉に戸惑いを隠せないでいた。
(あれ? 聞いてた話と違うぞ?)
「さぁ、その子の手を離してもらおうか?」
そう言われたアルネは、その手が解き放たれる感覚が広がるのだった。
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