episode65〜言語〜
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古びた城。
その周りには、世にも奇妙な光景が広がっていた。
上半身は人面女、下半身は鳥。
その生物ハルピーが、その城を守るように配置されていた。
そう、この世で偉大とされている大聖女によって。
そしてその古城は、ハルザが幼き頃から仮住まいとしていた場所であった。
それは、ルクナの実家よりはひと回り小さいが、造りが繊細で、何百年も経っているとは思えないほどの佇まいだった。
(古い感じはするけど、どこも錆びれたり、崩れそうなところとかもなさそう… なんだろ? 造りが少し違うのかしら? いや、まぁ同じ様な城はないか… )
アルネ達は、不思議な感覚を抱きながらも、とても大きな門を潜り、その古城に足を踏み入れた。
中へと入ると、その違和感がすぐにわかることとなる。
「こ、これは… 」
(デカいっ!)
「随分と色んな箇所が大きいな… それに、なんて広さの空間なんだ」
ルクナは、驚いたようにそう言う。
(何処もかしこも大きい… 扉や窓… ん? え!?)
門だけではなかった。
扉や家具など、何処もかしこもが全て大きかったのだ。
更に、奥へと足を進めるアルネ達。
大き過ぎて、大の大人1人でも開けることの難しい扉ばかりだった。
ハルザやシュリ、そしてネネルト達が共に開けたその扉の向こうには、これまた広い部屋があった。
(ネネちゃん… どっから出てきた? 相変わらず真っ黒だな)
そんなことを思いながら、アルネは、その異様に大きな部屋の造りをまじまじと眺めた。
その場は応接間なのか、宴会場なのかわからないほどの大きさだった。
しかし、それよりも一同が驚愕した物が、そこにはあった。
「なんて大きさなの!? この椅子! テーブル!」
「しかし、椅子の大きさに対して、テーブルの大きさが何だか… 」
ヴィカがそう言うと、ハルザがすかさず反応した。
「人数が少ないですよね? おそらく4、5名ほど。部屋数もそのくらいで、城の大きさにしては、少ない方かと思います。既にお気付きかと思いますが、この城は全てが大きいのです。他にも浴室や炊事場など、大きさが他の種族とは飛び抜けて異なります」
「やっぱり、その種族の大きさに合わせた使用なのかな? えぇとオーガ族?」
「断言はできませんが、私が見た限りではそれが1番可能性があるかと」
「もしまだ、生き残りが何処かにいるとすれば、すぐに見つかりそうよね? 何てったってこれだけの大きさなんだし… うーん… 後で古城探検でもしようかな」
「… 俺もついて行くぞ。1人じゃ危ない」
「えぇ、もちろん! 一緒に行きましょ! あとゾルも一緒に!」
「あぁ、もちろんだ」
「あなたが居れば、百人力よね!」
ゾルは照れくさそうにして、ほんのり光った。
「では、ルクナ様こちらへ… 私は他の部屋はほぼ、使っておりませんでしたので。元の住居者への配慮として、一室のみ使用させて頂いております。それに、他の部屋は私には大き過ぎて… 」
「そうか… では案内してくれ」
「かしこまりました。この城は建て崩れなどはないものの、かなり古い建物でございます。足元も薄暗いため、お気を付け下さい」
ハルザに連れられ、その場所へと移動した一行。
「1年程ぶりなので、少し埃があるかもしれません」
「かまわぬ」
ハルザが住処としていたその部屋は、とても几帳面かつ、大切にされていたのが十分にわかるほど、整理されていた。
「凄く整頓されてるのね」
「はい。これらの本は種族別に並べてあります。それだけではなく、出来るだけ隙間がないように、厚さや大きさも考えながら… 」
ハルザが自身のこだわりを話している間、アルネの意識は既に他の方へと飛んでいた。
(うわっ! ペンが… いや他にも物が、1ミリ単位で並べられてる… これ、ずらしたら怒られるかな?)
アルネは、余計な心を隠しきれずにいた。
そしてもちろんその手は、おイタを開始した。
少しペンをずらす。
すかさず、ハルザが無言で元へ戻した。
(あ、直した… )
すると、ルクナが物珍しそうにそれらの書をまじまじと眺めながら言う。
「古書か… すごい量だな? どれも見たことがない」
そう言って、適当に1冊の古書を手に取り、開くルクナ。
すると、近くにゾルがやってきた。
「ん?」
ルクナはそれに気が付き、横目で見る。
ゾルが、その身体を光らせ始めたのだ。
「この方が見やすいだろ?」
「あぁ、とても助かる。気が効くな」
そう言って微笑むルクナ。
「へへ」
ゾルは嬉しそうに鼻の下を掻いた。
その灯りによって、文字が見やすくなった。
「ルクナ? その本の文字読めるの?」
「いや、見覚えがある程度だ。背広からして少しだけ見たことのある文字があったからな… 」
「それはアンセクト族の物ですね。見たことあるというのは、この部分ではないでしょうか?」
ハルザが、ある特定の文字を指差しながら言う。
「そうだ。それにしても、一体どこで… 」
「おそらく、あの王宮地下の扉ではないでしょうか? そこに刻まれていたほんの小さな文字。これはアンセクト族の彫ったものかと… 」
その会話にゾルが反応して、顔を覗き込んだ。
「ん? あれ? 確かに… 俺達種族のものっぽいな? 読めるぞ? これ」
ゾルがその文字に反応して、嬉しそうに顔を覗かせた。
更には、もっと分かる者もいた。
ノギジだ。
「あれ? 俺も… 分かる… 全てではないが、何箇所かの意味が繋がる… 」
そう言うノギジは、食い入るように本を読み始めた。
その言葉にアルネが、すかさず反応する。
「えっ!? ほんと!? 私も読めるようになりたい! そしてここにある本を読破したいわ!」
アルネの本の虫魂が、沸々と湧き上がり始めた。
ルクナはその好奇心を止めようとは思わなかった。
むしろ、自身も同じ気持ちであったのだ。
ノギジは未だに集中していた。
すると、今度はルクナが何かを思い出したように口を開いた。
「あぁ、そうか! 思い出した。何かのサインかと思っていたが… あの扉に小さく刻まれていた物か! しかし意味がわからない。ハルザはもしかして、以前からそれを読めていたんだな?」
「はい… こちらに関しましても、不言しておりまして申し訳ございませんでした」
「まぁ… 事情が事情だったからな。それで? あの扉には何て書いてあったんだ?」
「それは、
’叶わぬのなら集めろ。7つの印。それこそが真の鍵となる’
そう明記されておりました」
「ん? 7つの印? あれ? でも、あの扉は私達3人の持っていた鍵のみで開いたわよね? んん? 他に4つあるって事?」
アルネが首を傾げながら、疑問を投げた。
「しかし、それには鍵ではなく ‘印’ と書いてあったんだよな? それらが ‘真の鍵’ となると… 」
「はい。しかし、私も独学で解読した身でございますゆえ… 訳が間違っている可能性も… 」
「ハルザの訳が、間違っているとは思いたくないけど… でも一度実際に、その扉の文字をゾルにも見てもらいたいわね… 」
「そうだな」
すると、今度はヴィカがその柔らかい頭脳から、ある考えを引き出した。
「ハルザさん、もしかして我々の城の中には、他にも私達の知らない場所や物に、そういった痕跡があるのではないですか?」
「その通りだ… しかし、それらについては知っている文字もあれば、知らない文字も入り混じって記されているのです。なので、未だ解読が出来ておらず… 」
「そうか… しかし、ノギジとゾルがその場所に加われば、もしかしたら少しは解読が進む可能性はあるな。その場所を後で記録し、ヴィカに渡しておいてくれ」
「御意」
(確か、あの地下道には光る何かが蠢いていた。その姿は捉えられなかったが… ゾルが言うには、おそらくあれはアンセクト族… ? それとも、また違う生物なのか… 国へと戻ったら、地下道の報告と共に、その場へとすぐにでも赴きたいな… それに他にも何かありそうだ… )
ルクナはそう思いながら、アルネの方をチラリと見た。
(機嫌… 直ったか?)
そんな会話の中、アルネは適当に1冊の古書を手に取って、パラパラと見る。
(あぁ… 全然わからないわ。でも… )
アルネのその表情は、喜びで溢れていた。
更にもう1つ、適当に手に取り、その2冊を見比べた。
「文字自体は違うけど、文字の癖や雰囲気とでもいうのかしら… ? 筆跡が似てるわね。同じ者が書いた可能性はありそう。全っ然意味がわからないけど。ハルザは、これを本当に全て読み明かしたの?」
「はい… あ、いえ、完全な自信はありませんが… それなりかと… 」
「うわぁ、努力家! 本当に凄いわね! 尊敬するわ」
「そ… んな、滅相もございません」
アルネはそんなハルザを、尊敬の眼差しで見つめてた。
すると、ハルザはある5冊の古書を手に取り、並べ始めた。
そして、大事そうにそれらを見つめながら、説明していく。
「これは、私がそれぞれの種族を知り得るきっかけとなった文献です。左から、ルー族、アンセクト族、シレーヌ族、ユマン族、そしてあともう1冊… これなのですが… 」
「この本は?」
「それが何について書かれているのか、わからないのです。これ以外の種族の本なのか… それとも… また他の何か?」
「なるほど… 興味深いな… 後で、ゾルとノギジにも一通り見てもらおう」
アルネは感動が未だ抑えられず、本棚を眺めていた。
(それにしても、どれもちゃんと丁寧に扱われている… あれ? 特にこの… とても大切にしてありそうなやつは何だろう… ?)
そしてアルネは棚ではなく、机の上に置いてあったある1冊の本が気になり、それについて尋ねた。
「ハルザ、これだけ背広に文字がないわね? 中を開いても?」
「それは… ヴァンパイア族の… 私の家族の日記です」
ハルザはアルネからその本をそっと受け取り、ゆっくりと開いて見せてくれた。
「こ、これは… っ」
(全然読めな… )
「ふ、読めないのでしょう?」
「ゔ… でも、ハルザ… 大事な日記だったのね… 読めないからと言って、これは私達が見るべきでは… 」
「いえ… 大丈夫です。単なる日常が書かれたものですので… 」
「でも… 」
(それでも思い出の品には、変わりないから… )
「そうだ、この中に新たな種族、パストゥール族の書も追加しないとね! デイル! あなた達特有の文字とか言語とかな…… いわね。ごめん、私が聞いたのが悪っ… 」
「あるぞ」
「へ? 今なんて?」
「だからあるぞ。俺達も種族特有の言語を持っている。少しだがな」
「何っ! 嘘… うっそだぁ! そんな見栄張らなっ… いでっ」
デイルは、アルネの額に人差し指を突き当てた。
「ほら… 」
そして目の前に、その指を立て、指先からほのかな光りを浮かせて見せた。
その上に光が伸びるように蠢き線をなす。
そのまま、文字のような形を作り上げた。
「うわ! 本当だ! でも見たことがないわね? 何て書いていあるの?」
’ヒョウリュウブツナシ’
「え? 何それ? 他にはどんな… 」
’カイガンニハイカセルナ’
’ソッチヘイッタゾ’
’バレテナイカ’
「ん?」
次々と表示されるその言葉に、アルネは理解が追いつかないでいた。
「他にもあるぞ?」
’モンダイナシ’
「… ろくな言葉覚えてないのね?」
「うるさい。全部お前の為だ! 教えてやんないぞ!」
「あ! ごめんなさいごめんない! デイル様! 私めにも教えて下さいなまし… え? てか私の為って?」
「お前には、隠していたからな。俺達の存在を。だからこうやって、村の皆と会話していたんだ」
「そう… だんだ… ゔぅ… デイル… 皆… ありがとう」
そう言いながら、アルネはデイルに抱きついた。
「お、お前っ! そのすぐに感情のまま抱きつく癖、やめろよな!」
その様子を横目で見る者もいる。
そう、羨ましそうに。
しかし、その文字はアルネとルクナにしか見えていない様であった。
精霊の力が見える者に限られるのであろう。
更に話を進めるルクナ。
「ハルザ、本はここにあるので全てか?」
「はい。私が知る限り、他の場所にはありませ… あ」
「何だ?」
「ルクナ様、私は長年この城を見て周り、ある程度の事は調べました。もちろん先住者の方の配慮も
兼ねてです。
しかし、1つだけどうにも開かない扉が存在するのです。それは大きく、とても1人では開けることができなかったものです。その扉を… 」
「えっ! 開けよう! 開けようよ! 私手伝うよ!?」
前のめりに反応する大聖女が、大きく名乗りをあげた。
「あ、えと、ネネルトにでも手伝っ… 」
「大丈夫大丈夫! 皆で開ければ、指一本で開けれるよ!」
(何を言っているんだ? そんなわけ… )
ハルザの肩に、いち理解者の手がポンと置かれた。
「全員でやれば、そのくらい力を使わなくても開く、ということを言いたいみたいだぞ? な?」
デイルが、笑顔を貼り付けてそう言った。
「… わかりにくい… この人なら本気だと思ってしまう… 本当にやりそうで」
ハルザは、それはそれは小さな声で、思わず心の声を漏らした。
「ハルザ、その扉は何処にある?」
「はい、それではご案内致します」
ルクナの言葉に、一行は場所を移動する事にした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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