episode53〜家族のかたち〜
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翌朝、アルネはある事を思い出し、ノギジのもとへと足を運んでいた。
そこにはフレールと共に、木の実を採っている仲睦まじい姿があった。
近くには、座りながら2人を見守る兄アディも居る。
アルネはそのニタニタを隠しきれない表情を存分に向けながら、子犬達へと近づく。
「ノギジ、フレールおはよう! 何をしているの?」
「おう! アルネか! 月華の実だ。ほら、なにかと必要かと思い、少し分けてもらおうと思ってな。ばあさんには、ちゃんと許可も得ているぞ」
「サリドナさんね! 月華糖、これ本当に効能がすごいわよね。他にも色々と役立ちそう! それにとんでもなく美味しいし! へぇ、結構実ってるんだねぇ」
そう言いながら、アルネはひと口、採れたばかりの月華糖を口に運んだ。
その手を軽くパシリと制止するように、ノギジが叩く。
「つまみ食いするなよ」
「手厳しいわね」
(怒った顔も可愛いけど)
「ルクナ達は一緒じゃないのか?」
「あ、うん。少しピアンと話をしたいって。おそらく、次の行き先の件なんじゃないかな?」
「次の行き先?」
「えぇ、ピアンの故郷である、シレーヌ族の入江の事について聞いてるんだと思う?」
「そうか。遂に今夜出発だもんな… 」
「ふふ… 寂しい?」
「…… 」
ノギジの表情は見えなかったものの、その手は寂しそうに月華糖を摘まんでいた。
「それにしても、アルネはこんな朝早くどうしたの? 昨日の事? 何か聞きに来た?」
そう言うのは、朝からその太陽にも挨拶するかのように、金色の髪を輝かせるフレールであった。
「ま、眩しいっ… 」
「え?」
更には、フレールがあまりにもキラキラの可愛い顔を向けて言うものだから、アルネはその欲望を直球に投げた。
「2人とも、その前に… 抱きしめていいっ!? … っんぎゅー!」
「ちょっ! きょ、許可取る前に、もう腕が伸びてるじゃねーかっ!」
「や、やめてよ! 恥ずかしい! 離しっ… て!」
2人の獲物は、その猛獣の腕を引き剥がそうとしたが、その欲望にまみれた腕力には到底敵わなかった。
「嫌よぉー至福至福ー可愛い過ぎるのが悪いのよーふふふふふ」
「力強いですって! それに、僕達もうそんな子供じゃないんですからっ!」
「ちょっと! お兄ちゃん! 見てないで助けてよっ」
(え? あの腕を剥がすのか? それは簡単だが、俺にだって怖いものは… ある)
アディはそれが怖いので、手を出さないでいた。
しかし、その弟想いの重い腰を、ゆっくりとあげることにしたアディ。
腕力だけで無理矢理引き剥がそうとすると、2人にも被害が及びそうなので、アルネの腰に両手を当て、そのまま上方にヒョイっと身体ごと天高く持ち上げた。
すると、一瞬でその身は2人の子犬達を手放した。
もはや、どちらが狼かわからない。
「おっ、降ろして! アディ!」
「何を言っている? 離せと言われて、離してあげない奴の言う事を聞けるか?」
「チッ! じゃあ自分で降りる」
「え?」
アルネは両足をアディの首元に回し、そのまま逆さに一回転すると地面へと降り立った。
「… はぁ… 猿かお前は」
「あんたに言われたくないっ! 女子の身体を何だと思ってるのよ!」
(どの口が言ってるんだ… )
「ふぅ… で、何故ノギジは… ルー族は、色んな言語も文字もわかるの?」
「何事もなかったかのように、話題に入るのやめろよ」
アディが呆れたように言う。
「え? で、何か心当たりはある? ノギジ?」
ノギジはその変わり映えのないアルネの笑顔に、少し後退りをする。
アディの後ろには、イケナイモノから解放された直後の、怯えるフレールの姿があった。
(無視かよ… こいつのこの悪い癖、どうにかならねぇのか?)
「唐突だな? うーん、何だろ? これかっていう、確実な事はないんだ。何故かすんなりと頭の中に入ってきたからな。だが、昔ある人に読み聞かせしてもらった気がするんだ。それが色んな言葉だったのか、同じ言語だったのかは、分からないんだが… でも、その文字を見れば何故かわかった。それも全てではないがな… 」
「え? … 本当にそうだとしたら… ルー族が持つ能力って… もしかして何でも知っている能力… 」
(そう、色々な言葉を知っている… 前々から色々と知っていた気がする… ような? オオ… カミ)
アルネが、定まらない目をしながら1点を見つめ始めた。
(あ… 始まった… 本当分かりやすいな)
(アルネ、また余計なこと考えてる… )
(アルネ… コワイ)
「そうか、そういう事だったんだ… それなら辻褄が合う… だって全知全能… 」
アルネは心の声が、途中から漏れ出しているのに気が付いていなかった。
「ルー族… オオカミ… 」
(え… 嘘だろ… )
(ま、まさか… )
(ん? 何だろ?)
「大… 神っ!! なんって事なの!」
(はぁ… そんなこったろうと思った)
(くだらない… まぁここは… )
(ん?)
アディはイタズラに笑うと、その悪い口を開いた。
「あぁ、その通りだ」
((え?))
子犬達が、そんなはずはという様な顔をしながらその行末を見ていた。
しかし、アルネはその言葉に全力で絶叫した。
「ギャァァァァア! ビンゴッ! 嘘でしょ!? 怖い! 自分がこわいぃぃっ!」
「嘘だ… そんな事あり得ないに決まっている。ふっ、考えればわかる事だろ?」
「嘘かよっ!」
アルネは地へと叩き落とされた気分で、この世のモノとは思えない顔をしていた。
「返して… この時間と私の心臓返して… 」
「え? 何か言ったか、アルネ? ふふ」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるアディ。
それに対し、アルネのその目つきは闇を抱えていた。
とても大聖女の目つきではない。
「だってあり得ないだろ… ふふ… 」
(馬鹿にしてるのかっ… )
アルネは睨むのをやめない。
「本当に違うの?」
「あぁ」
(ふふ… 面白すぎる)
「どう考えても違うだろ」
「えぇ! でも本当にそうだとしたらノギジは… 」
「お前… 昨日の話、もう忘れたのか?」
「ワスレタ」
アルネは、急に目から正気を抜いた。
(こいつ… たまにもんのすごく殴りたくなるな… )
アディは目を瞑りながら、その拳を震わせていた。
(こんなにも感情を乱されるのは初めてだ… )
仕方がないのだ。
何故なら、アルネの頭の中は、昨日から既に飽和状態極まりなかったのである。
何を聞いたのか耳にすれば思い出すが、会話の中とそれがうまく繋がらない。
これ以上何かを入れればその分、何かが溢れ落ちる。
そんな状態であった。
「絶対神である全知全能の神はゼアリウス、彼1人しかいない」
(あれ? 1人しかいないなんて言ってたっけ?)
言っていた。
たった1人の絶対神であると。
「ノギジは幼い頃に誰かに教え込まれた、もしくは日々聞いているうちに色んな言語を覚え、それで知っていたのだろう」
(そうなの? でも一体、誰から教わったのかしら?)
「ねぇ? その首飾りは、気が付いた時には既に身に付けていたんだっけ? それにはルー族の本来の姿を抑える力があるのよね?」
「あぁ。遠い記憶過ぎて、あまり覚えていないがな。気が付いた時には、常に身に付けていた。 … 俺の身体の変化を抑える… その為に与えられたのではないのかと… きっと誰かが… 」
ノギジは少し切ない面持ちで、途切れ途切れに言葉を出した。
すると、アディがノギジの目の前に片膝をつき、顔を覗かせた。
そしてその胸元の首飾りと、ノギジの瞳を交互に見て言った。
「やはり、同じ様な色と輝きだな。とても美しい」
少し戸惑うようにたじろぐノギジ。
アディはゆっくりと首飾りを外し、ノギジの目の前に示した。
「アディ?」
アルネは少し動揺した。
「大丈夫だ。今は夜でもなければ、満月でもない。ノギジ、これを見てどう思う?」
「え? これを見てか?」
ノギジは首を傾げながらも、正直に想いを伝えた。
「うーん… 落ち着く… かな?」
「では、これを首に付けたからと言って、何か変わると感じる事があるか?」
「そうだな… これを付けると、確かに安心感はあるが… それよりも、これを見つめている方が何だか懐かしい… ような、温かい気持ちになる」
「ふっ… そうか… おそらくアンセクト族も、この瞳を昔よく見ていただろう。それはルー族の特徴である、黄金の瞳。推測するところによると、この首飾りは首にかける事によってではなく、見つめる事によって、その変化を落ち着かせるのだろう」
(なるほど… そういう仕組みだったのね… だから、ノギジの瞳と似ていたのかぁ)
アルネはニコリとしながら、再度ノギジのその輝く瞳を見た。
少し照れたように、はにかむノギジ。
(可愛い… )
アルネは見つめるその目を止めない。
しかし、すぐに正気を取り戻し、考えを示す。
「ルー族だけが当てはまるわけではないけど、私も含め各種族には満月のその力によって、姿を変異する者達がいるわよね。その中にはその影響により、我を忘れて危うい存在になる者もいる事がわかったわ。そうね、今の所わかっているの中では、ルー族、ヴァンパイア族がそれに当てはまるか」
「そうだな。ノギジはそれを制御する方法がわかっているから、少しは安心だが… 」
「でもきっと… 見つかるわよね!」
(いつか、ハルザの心が安心するような方法が、必ず見つかるはず… )
「そうだな… それとさっき、サリドナの婆さんに聞いたんだが、ルー族は互いにその瞳を見るだけでも落ち着くのだとよ。まぁ、相手がいない事にはどうにもできないがな。だから、この首飾りはその保険だな」
「うん。仲間、見つかるといいね」
フレールは切ない表情を浮かべながら、言葉を出した。
すると、アディが何かを思い出すように口を開いた。
「今思えば… 確かに皆、首に同じような飾りを付けていたような… 定かではないが… 」
(そうだったそうだった… アディとフレールは昔、ルー族の… ノギジの仲間にお世話になってたんだったけ? ノギジと少しだけ一緒に育ったって… くぅ… なんか泣けてきた)
アルネは、その目にほんのりと涙を浮かべた。
「おそらく… ルー族はいつ何があってもいいように、その瞳と同じ色の鉱石を使って首飾りを作り、生まれた時から各々が付けていたのではないか?」
アディがそう言うと、その場に居た全員が真剣に耳を傾けた。
「しかし、ある時ノギジは家族や仲間と何者かによって割かれてしまった。そして今やルー族は、ノギジただ1人となり… 仲間の瞳を見て落ち着くこともできない」
ノギジが何かを思うように、少し俯いた。
「ちょっと! ノギジの気持ちも考えなさいよっ… 」
そんなノギジの手を、同じくらいの小さな手が優しく覆う。
フレールが、優しく寄り添ってくれていたのだ。
しかしアディの言葉は、真っ直ぐに突き進む。
「はぁ… 真実だろ? 今更だ。その為にお前らが動いてるんじゃねえのか?」
「… うぐぐぐ」
「何の意図があってかは今になっては知る由もないが、その攫った者は何かのきっかけで、満月をノギジに見せるといけないと言うことを知り、地下にいさせたんではないか? 満月を見させないために」
(くそ… ぐうの音も出ない。名探偵かこいつは… )
アルネの表情は、少しずつ崩れ始めていた。
「てことは… その首飾りってやっぱり… 」
アルネがノギジの首元を再度見た。
「あぁ、おそらく… 」
アディも、同じくノギジを見ながら言う。
「お父さん… お母さんからの… 最初で最後の贈り物… 」
ノギジは、その首飾りをまじまじと見ながらそう呟いた。
(大切な贈り物… )
アルネがノギジにかける言葉を選んでいると、側にいたフレールが口を開いた。
「ノギジ… 最後だなんて言わないで。覚えてないけど… 僕達は… 幼い頃に一緒に育ったって… 僕、それを聞いた時、とっても嬉しかった。それってもう家族ってことでしょ? 少なくとも僕は… 僕達はノギジと兄弟だって思ってる。僕達がいるよ? これからたくさんの思い出も作りたいし、贈り物もあげられる。だから、最後だなんて言わないで… ね?」
ノギジはその真っ直ぐで温かい言葉に、返事より先に涙が溢れ出ていた。
フレールがノギジを抱きしめる。
(ふふ… こんな小僧に言われるなんてな… 家族か… )
ノギジは胸がいっぱいになり、言葉がうまく出てこなかった。
そして更には、その上から大きな愛情でアディが2人を包み込んだ。
「… ゔぅ… ゔっ… ぐ… っぐ… 」
そしてそれ以上に、涙がとめどなく流れている者がここに1人。
アルネのその様子に、ふと気が付くアディ。
「え… アルネ? 何故お前が泣いている?」
「素敵… 家族って素敵ね。私にも家族がいないから」
「デイルは違うのか?」
「デイ… ル?」
「だってあいつとは、物心ついた頃からずっと一緒にいたんだろ?」
「… 確かにっ! アハハハハ… ワスレテタ! ズズッ… 」
(デイル… 気の毒な奴だな)
アルネはそのキラキラとした顔面をしながら、アディへと近づいた。
「ん?」
そしてその顔中に張り付いた液体と共に、アディの服へと顔を埋めた。
「わっ… おまっ… あぁ…… 」
(気持ちが複雑過ぎる… )
しかしアディは、そんなアルネの意図を汲み取り、そっとその悲しむ頭に手を触れた。
「… 待ってくれる人達が居るというのは… とても幸せな事だ。その… いつでも俺が… 」
「本当ね! アディとフレールは良い兄弟! 羨ましいわ」
「え? あ、あぁ… 」
アディの想いは複雑となって、絡まっていった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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