episode38〜異変〜
たくさんの作品から見て下さり、ありがとうございます。
最後まで読んで頂けると嬉しいです。
大聖女の魔導書。
その真の名も知らない本は、非常に神秘的であった。
しかしそれとともに、危うく、この世の脅威にもなり得る。
それは、旅立つ数週間程前の事だった。
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その日、アルネはノギジから渡されていたものがあった。
彼はその本をこの時まで、大切に持っていたのだ。
この神殿にて、厚みのあるその本を大聖女に渡す任務を担っていたからだ。
それはとても古めかしく、今にも破れ落ちそうだった。
しかし、それを手に取ったアルネは、その瞬間から何か惹かれるものがあった。
その立派な表紙と背広には、温かみと力が込み上げてくる感覚がした。
(あったかい… )
ゆっくりと、その扉を開いたアルネ。
しかし、アルネの瞳には明るく反射するその意味を理解できずにいた。
そう、どのページも真っ白だったのだ。
文字がひと文字も記されていない。
捲れど捲れど、綺麗なまでの白を表していたのだ。
しかし、たった1ヶ所だけ、小さな印のような物がずらりと、記されていた。
その数はざっと、何百もあるように感じられた。
そしてそれは、1つとして同じ物はなかった。
アルネは尋ねた。
しかし、ノギジ自身もその本を開いた事がなかった。
いや、その本を開くことができなかったのだ。
よって、中身の詳細や何故白紙なのかという理由は、ノギジも分からないと言う。
もちろん、アルネはありとあらゆる方法を試した。
太陽に透かしてみたり、火で炙ったり、水を垂らしたりと。
何となく月の光も浴びさせたりした。
しかし、何をしてもダメだった。
(これ、もしかしてノートなのかな?)
そう思ったりもした。
しかし、やはりその用途は違うだろうと思い、アルネはゆっくり考えることにしたのだ。
大聖女の為のもの。
それを手にしたアルネは、この本に必ず意味があるはず。
そう思い、できるだけ肌身離さずに自身の側に置いておいた。
そして、何日か経ったある日の事だった。
違う方法が思いついたアルネは、ふとページを捲ってみた。
すると、あるものが浮き出ていたのだ。
最初は本人自身も気が付かなかった。
しかし、すぐにそれは記憶の破片として、蘇ってきた。
それは… アルネの思考そのものだったからだ。
心の動き、出会った者の表情、大切な人の…
そう、全てだ。
記憶が薄い程、それは無くなっていくように。
そして、その想いが強いとそれは鮮明に浮き出てくるようだった。
そのほとんどが絵で表されていたが、時折り文字も記されていた。
更には、最後のページの何百もある例の印について、ある考えがふと浮かんだのだった。
その印の列の最後尾には、最初にはなかった物が追加されていたのだ。
(何だろう、これ? なんか見覚えが… )
しかし、その印だけはどうしても思い出すことができなかった。
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そして今。
アルネはその複雑な想いを抱えながら、その本を眺めていた。
そう、小さな洞窟の中で。
山の精霊達にお願いし、隠れ場所を探してもらっていたのだ。
自分の殻に篭るために。
「あれは… 良かったのか? 見られちゃっても… でも皆、この思考が読み取れない? 何故なの?」
(それにしても… この本… 傷ひとつない)
アルネはそう思いながらも、あるイケナイ考えが浮かんでいた。
「… この欲望のままの考えがもし… 誰にも知られずに、真実になったら… 」
「なったら… ?」
「なったら… フ… フフフフフフフフ」
「……… 」
いつの間にかすぐ隣にいたルクナに、心臓と眼球が飛び出そうになるアルネ。
言葉も出なかった。
(一体、どんな欲望を思い描いているんだ… )
ルクナは知りたい反面、ゾクリと肌が立ち上がった。
つまり興味と怖いもの見たさだ。
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そうして、日が経ち、月が満ちるまであと1日となった。
しかしその夜、予想外の事件が起こることとなる。
全員が夕飯をとり終わり、各自片付けや寝床などの準備をしている際にそれは起こった。
(ん? 何だ?)
小屋の外から、ガタンと何かが小突くような音がした。
「ノギジ? どうしたの? お腹でも痛いの?」
シュリのその声に、アルネも小屋から顔を覗かせ、様子を見た。
ノギジが小屋の壁に、頭をごつんと打ちつけたようだった。
「ノギジ… 大丈夫?」
アルネも心配して声をかける。
しかしノギジは、応えずに小屋の前を通り過ぎると、ふらりと森の中へと足を進み始めた。
「えっ!? ちょっ、ノギジッ!? どこへ行くの!?」
アルネのその言葉に、全く反応を示さないノギジ。
そのまま足を止めずに、暗闇の方へと進んでしまった。
それを追いかけようとしたアルネを、大きな手が制した。
「アルネ! 待て!」
ルクナがその腕を捕まえると、目線を送った。
その先にいるネネルトが、微動し首を縦に下ろした。
「えっ! でもっ… 」
「夜の森は危ない。慣れてるあいつでもだ。ましてや知らぬ土地。大丈夫だ。すぐに連れ戻してくる」
ルクナがそう言うと、既に見えなくなっているその方へと目を向けた。
ノギジを追うように森の中へと入ったネネルト。
その素早さは、折り紙付きだった。
しかし、しばらく経ってもノギジとネネルトは戻って来なかった。
どのくらい経ったであろうか…
雲間に見え隠れしている、丸みを帯びた月は今ははっきりとしない。
(ノギジ… 一体どうしたんだろ… )
アルネは獣の如く、ウロウロと足を持て余していた。
(アルネ様… 心配になると檻の中の獣になる癖… わかりやすいな… それより、俺は今夜ここには居たくなかったのだが… 仕方ない… )
ハルザは何かを懸念しながら、ルクナ達に向けて提案した。
「私が見て参りますので」
ハルザがすかさずその身を出す。
「私も行くっ!」
「いえ、危険です。アルネ様はここでお待ちっ… 痛っ… 」
(爪が食い込んでる… )
「嫌だ! もうあの2人と別れたくないよ! お願い! 私も連れてって!」
「いえっ… なりません!」
そして、アルネは今度はシュリによって、その身を封じられていた。
「アルネ? 大丈夫よ。彼ほど暗闇に特化している者はいないわ」
「…… 」
頬を膨らませながら、むすりとその表情を露わにするアルネ。
ここは ’一旦’ 身を引くことにした。
もちろん仕方なくだ。
そこに、大聖女としての意思はない。
アルネとしての思考しか存在していなかった。
しかし、程なくしてヴィカがある事に気が付いた。
(やけに静かだな… さっきまであんなに… )
そう思い、木の下でうずくまるように座り込むアルネに話しかけに行くヴィカ。
「アルネ様、心配されるお気持ちはよくわかります。ここは冷えますので、一度小屋の方へと… 」
「……… 」
(まだ拗ねてるのか?)
「アルネ様? せめて暖が取れるように、火のそ… ばに… アルネ様?」
その触れた部分がとても冷たい事に、嫌な予感がほと走るヴィカ。
「… っ!? しまった!! やられたっ!」
その声にルクナや他の者も、その場へと駆け寄る。
「どうした?」
「失礼致しました。しかし、アルネ様がおりません! この通り… 」
そう言いながら、指し示したその場所には、花びらや枯れ草を無造作に包んだブランケットがまるっと置かれていたのに、言葉を失った。
頭の部分は、おそらく土から作った物だった。
つまり巨大な泥団子のような物である。
少し粘土のような物も付着していた。
作者はあくまでも大真面目だった。
しかし、それはまるでバカにしているような程の面構え。
(あんのっ… 小娘っ!)
ルクナは珍しく一気に殺気立つ。
その影武者はバランスをどう取っているのかも、わからないくらい危うかった。
その上、ヴィカが少し触れた事により、今にも首からそれがもぎ取れそうだった。
この出来上がりに、今まで気が付かなかった彼らは、後に猛反省をする事となる。
「あ… 」
そして、偽大聖女の頭部が転がった。
半面がぽろりと欠ける。
「… っ急ぎ探せ!」
ルクナはそう命令を下すと、自身もその身を深い森へと繰り出した。
その表情は、怒りと不安に満ちていた。
一方その頃。
既にその本体は、ハルザのすぐ側にまで来ていた。
そのゾクリとする気配に、寸前まで気が付く事が出来なかった。
ハルザは、驚きと焦りに声を張り上げた。
「アルネ様っ!? 何故ここにっ!? お1人で… っまさか、ご冗談ですよね?」
ニヤリとするその不気味な笑みに、肌という肌が立ち上がった。
(ん? 手が土で汚れてる? 穴でも掘って来たのか?)
そう思いながら、ハルザは非常に不安な面持ちで言葉を絞り出した。
「… っ、はぁ… わかりました。しかしですね、後でどうなっても知りませんよ!? ルクナ様のお説教はっ… それと絶対に、勝手な行動は取らないと、誓って下さいね!」
「うん! 約束する!」
(しかし、参ったな… まぁアレを… 見ないようにすれば大丈夫か… )
ハルザのとある心配は、この後、間も無くして現実となってしまうことになる。
そうして不本意ながらも、ハルザはアルネという不安要素を連れ、ノギジ達を探しに深い森の中へと足を踏み入れたのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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