夢の果てに求めしは⑦
「やっぱ、いないよなぁ」
体育館から走って来たが、放課後の教室に待ち人は見当たらず。
スマホを立ち上げると着信通知あり。
「あの店か」
荷物を肩に掛けながら行く先を確認。
放課後、期末試験に向けて一緒に勉強を。
そう友人と約束した数分後にクラス演劇のリハーサル連絡通知が着弾。
おかしいな。
入学した当初、人間関係は希薄にと思った筈なのだが。
なんで予定が重複するような状況になっているんだか。
「ん?」
着信は五分前?
すると、さっきまで教室内にいたのかも。
今から急げば間に合うかな。
運が良ければ、背中が見えるかもしれない。
廊下へ出て階段を小走りで降りる。
玄関には姿が見えず。
校舎から出ると、そらしき姿を校門付近にて視認。
結構、距離があるな。
追い駆けるには遠く、かといって足を止めるために、わざわざスマホを取り出す気にはなれず。
目的地は決まってる。歩いていたら信号の待ち合わせで追い着くだろう。
乱れた息を整えながら、ノンビリと煉瓦畳みの上を進んだ。
「遅かったな」
並木の木陰から呼び止める声。
目を向けるとベンチから俺を見つめる生徒が一人。
既視感………には、ほど遠かった。
昨日は小柄で眼鏡の文学少女。
今日は大柄で豪腕の男子が腕組みしながら俺を睨んでいた。
「私、三川君と約束した憶えないんだけど」
「気にすんな、行くぞ」
「はぁ?」
行くって、どこへ?
「栗田さんに相談してぇ事あるんだ。すぐ終わっからよ」
「はぁ……」
これ。
拒否ったら後で面倒になるヤツだろ。
昨日の古村君もアレだったが、更に上がいやがったか。
「私に相談って何よ」
校門をくぐるなり話を切り出した。
「大した用じゃ、ねぇよ」
だったら、どうして俺を待っていた?
脊髄反射で飛び出しそうになった言葉。唇を固く結び閉じ込めた。
「オレと付き合ってる事に、してくれねぇか?」
「………私と?」
「オマエと」
馬鹿も休み休みに言えとは、この事か。
「私、断ったよね?」
「だから、フリだけで良いからよ」
冗談か?
それとも、からかっているのか?
残念ながら、彼の目は至極真面目だった。
「せめてさ。理由くらい聞かせてくれる?」
溜息を吐き出しながら、並んで歩く背の高い男を見上げた。
「あの女が、うぜぇ~からだよっ!」
「へ?」
まさかと思うが。
「うざいって、角田さんの事」
「そうだよ、アイツだよっ! マジうぜぇっ! クソうぜぇっ!! 何だよアノ女。オレ嫌ぇなんだよ、あ~いう女はよぉっ!!」
やっぱりな。
そうだよな。
キレずに良く耐えたと思うよ。声に出して褒めたいくらいだ。
「それで、私と付き合っている事にしたいと」
「あぁ。簡単な事だろ?」
「そんなわけ、あるかぁっ!」
いかん。
本音が漏れた。
「ねぇ、三川君。それって嘘を付けって事だよね? 君のために」
「まぁ、そうなるな」
軽く言ってくれるな、コイツは。
「それ、言葉だけで済むの?」
「ダメか?」
「行動でも示さないと、周りは信じないと思うけど」
正直、信じられても困るんだが。
「行動って、何すりゃ良いんだよ?」
「恋人同士でするような事。君は何が思い着く」
「そりゃぁ、まぁ………」
彼の視線が宙を彷徨った数秒後。
「手を、繋ぐとか?」
頬を赤らめながら、ぼそっと呟いた。
「健全過ぎないか、それ」
お前は小学生か。
中学生の交際ならば。
キスをするとか。
抱き締めるとか。
性的な衝動が色々とあると思うが。
「それじゃぁ三川君は、手を繋ぎたいという理由だけで、私に告ったの?」
「あ~……。いや、そういうんじゃ、ねぇんだ」
頭を掻きながら、視線をあらぬ方向へ飛ばした。
「オレは、ただ……」
「ただ?」
「オマエと一緒にいたい、だけなんだよ」
あ。
ヤバい
それ、マジでヤバい。
俺がグッと来た。
胸がギュッとして熱くなった。
この女の身体が、性本能が、過剰に反応していやがる。
心臓がバクバクと波打っている。
今、鏡を見たら。
面白いくらい赤面しているに違いない。
「判った」
大きく深呼吸をした後。
俺は左手を三川君へ差し出した。
「どうぞ」
「はぁ?」
何の事だと瞬きする彼。
「私の手。握りたいのだろ?」
「マジかっ!?」
「無理にとは言わないけど?」
恐る恐ると持ち上げられる、ゴツイ右の拳。
壊れ物を触るように、俺の指を包み込んだ。
予想はしていたが。
コイツの手は大きくて温かいな。
「三川君の自宅は、線路の向こう側だよね?」
「あぁ。そうだ」
「じゃぁ、踏切まで一緒に歩こう」
足を踏み出し、彼の手を引いた。
「良いのか?」
「嫌かい?」
滅相もないと首が左右へ振られた。
照りつける太陽。
吹き抜ける初夏の風。
手を握りしめながら二人で歩く。
交わす言葉はなく。
ただ交互に足を繰り出す。
道路の反対側にいた女子が、ポカンとした顔で俺達を見ていた。
「ねぇ。今、自販機の前にいる子。確か同級生だよね」
「そう、か?」
明日……いや、早ければ今夜中に、ネットで情報が拡散されるだろう。
三川君は背が高いから、遠くからでも良く目立つ。
コチラへ向けられるスマホのカメラ。
さっきの子もスマホを構えていたから、彼女で二人目か。
あの髪型は見覚えがある。教室で俺の斜め前に座っている子だろう。
「私達。明日クラスで何か言われるよね。きっと」
「だろうな」
「もし二人の関係を聞かれたら、恋人じゃないと言ってね」
「はぁっ?」
「付き合っていると、勝手に思ってくれたら楽でしょ?」
戸惑う彼に、俺は笑顔で念押しをした。
「そういう事か」
「このやり方なら、嘘を付く必要がないし」
周囲が勘違いをして、それを当人が否定する。
やましい事は何もない。
「じゃぁ、オレと手を繋いでくれるのは、今日だけか?」
「そうだよ。踏切まで…………ね」




