夢の果てに求めしは⑥
「ここ、ここっ! アタシ背が低いから届かなくてさぁ~っ!」
「ぁん? この辺りか」
文化祭の展示物準備。
角田さんが指差す先へ、三川君が手を伸ばした。
「ありがとうっ! やっぱ君は最高だよぉ~」
「おぃ。あんま、くっつくな」
まとわり付く彼女に、困惑と真底嫌そうな表情。
その様を見て、成長したなぁ~と親心みたく思ってしまった。
以前の三川君なら、大声で恫喝するように追い払っただろう。
「ねぇねぇ、栗田さん。アレ良いの?」
伊藤さんが俺を肘で小突いた。唇の端を釣り上げ小悪魔的な笑みを浮かべながら。
「良いんじゃない? 私の彼氏でも恋人でもないし」
「ふ~ん。そう?」
友人は小指で垂れた前髪を掻き上げつつ、俺の瞳を覗き見。
返答するのが億劫で目の前の作業に集中した。
三川君が他の男子より気になるのは事実だが。
妻帯者で、成人した娘がいて、元は中年男性の俺。どう考えても建設的な未来像など有り得ない。
付き合うべきは同世代の相手。
あの外見に惹かれる女子は引く手あまた。
若者の行く末を応援はしても阻害する道理はない。
「ほぉ。良い記事じゃないか」
背後から頭越しの声。
担任教師が俺の貼った掲示物を眺めていた。
「これを書いたのは………栗田さんか」
「はい。稚拙な文章ですが」
文化祭で発表する五十年前の生活調査。
適当にお茶を濁すつもりが、つい筆がのってしまい、気付いたら膨大な文章量になっていた。
「うん、悪くない。まるで当時を見て来たような臨場感のある内容だ」
そりゃぁ、実体験ですから。
ポンプ式の井戸。
時を刻む振り子時計。
チャンネル選択がダイヤル式のテレビ。
路地裏に溢れる子供達。
空き地で開催される草野球。
街中に満ちる排気ガスと煙草の臭い。
深夜に及ぶ酔っ払い客の近所迷惑な喧噪。
まだ俺が幼子だった遠き日々の想い出。朧気な記憶の集大成。
詳細があやふや部分はネット検索で補い書き上げた。
「このラジオの記事が特に素晴らしい。私も学生の頃は毎日聞いたよ。テレビは家に一台のみで親が占領していたから。音楽、ニュース、音声ドラマ。勉強しながら耳を傾けたものさ」
しみじみと過去を振り返りつつ、担任教師は何度も頷いた。
「特に月曜日の深夜一時から始まるラジオ番組が好きだったな。バンドボーカルの毒舌が最高でね。朝起きるのが早いから、カセットテープに録音し翌日に聞いていたよ」
ん?
それって、ヘビィメタル系バンドのアレの事か?
だとしたら、この教師とは美味い酒が飲めそうな気がした。
惜しむらくは金輪際そんな機会はないだろうけど。




