夢の果てに求めしは⑧
「お待たせ」
放課後の勉強会。
友人と待ち合わせていた店舗へ到着。
「来た来た」
「結局、三川君と付き合っていたのねぇ♪」
たむろしていた女子の視線が一斉に俺の方へ。
「何でこんなに居るの?」
いつもの面子だけかと思ったら席には六人以上。それも同じクラスの女子ばかり。
「栗田さん。いつから、こういう関係になったの?」
証拠写真とばかりに、伊藤さんがスマホの液晶を俺に向けた。
「情報、早くない?」
十分ほど前に三川君と手を繋いでいた画像。
今夜くらいと思っていたが、既に女子全員で共有済みっぽい。
「で? どうなわけ?」
まぁ、座りなさいよと手招きされ、空けられた指定の場所へ。
腰を下ろす最中も、クラスメイト達の視線は俺に釘付け。
「栗ちゃんは、ずっと隠れて付き合っていたのかにゃ?」
如何にも女子中学生らしい仕草というべきか。皆様、興味津々でございますか。
「別に、付き合っているわけじゃないよ?」
とりあえず、二人で交わしたお約束を口にした。
「それなら、どういう理由で手を繋いだのかしら?」
「あぁ、それは……」
角田さんの名前。うっかり言いそうになり口を噤んだ。
経緯を話せたら楽だけど、それだと意味がない。
「三川君にお願いされたから」
嘘は言っていないのだが。
皆さん俺の顔を見ながらヒソヒソ話。
まぁ、信じるわけないよな。
「もし彼が、キスしたいと言ったら?」
「拳で殴るかな」
頬を軽く小突くのが関の山だろうけど。
「じゃぁ、私が言ったら………どうする?」
「はぃ?」
隣に座っていた伊藤さんの細い指先が、俺の頬をサラリと撫でた。
「私ではダメかしら?」
そう言うなり上半身をせり出した。
瞬く間に互いの唇が数センチの距離まで急接近。
「まさか伊藤さんて、そういうご趣味?」
「ちょっと違うかな。可愛い子に性別は関係ないでしょ?」
良く言えば進歩的。
悪く言えば見境がない。
「冗談、だよね?」
「私は本気だけど」
俺の両頬へ指を添えると、口付けしやすいように顎の位置を固定した。
息を飲む周囲。
輻輳する黄色い悲鳴。
向けられるスマホのレンズ。
これ。
三川君より状況的ヤバいのでは。
「栗田さんは、私とキスをするの、嫌?」
目を見据えての真っ正面からの問い掛け。
困った事に。
俺には拒否する理由が何もなかった。
整った顔立ち。
凛とした声。
打てば響く知性的な振る舞い。
嫌いどころか俺に良し。お前に良し。
どことなく若い頃の妻に似ている気がした。
「伊藤さん。誠に申し訳ございませんが、私には恋人がいまして」
「女同士なら、浮気にならないでしょ?」
いや。
その愛を誓い合った相手も女性なのだが。
それを口にしたら更に面倒な事になるのは必至。
「ほんのチョッとくらい良いじゃない♪」
その台詞。
現役中学生の時に聞きたかったなぁ。
………などと思っている場合じゃない。
これ以上、クラスの連中にネタを提供するのは御免被りたく。
伊藤さんを手で押し返そうにも、唇と唇の距離は僅か数センチ。
下手に抵抗すると、一気に押し込まれて終了。
唇を避けようにも、両頬を固定済み。
あれ?
もしかして詰んでる?
「い、嫌がるのを、無理矢理するのは、良くないと思いますっ!」
鼻が触れ合い、口付けまで僅か数ミリ。
寸でところで現れた助け船。
ホッと胸を撫で下ろすも、声を聞いて少し驚いた。
「あら? 宇垣さんは何が気に入らないのかしら?」
「そういうのは、お互いの同意が必要だと思いますっ!」
おどおどした普段の態度はどこへやら。
宇垣さんは両手を握り締め、声を張り上げ抗議した。
「あぁ、そういう事ねぇ」
私の頬に手を掛けたまた、意味ありげに伊藤さんは笑みを浮かべた。
「宇垣さんも、栗田さんとキスがしたいのね? 良いわよ。私の後で良ければ」
「そ、そ、そういう意味じゃありませんっ!!」
異議ありと、顔を真っ赤にしながら叫ぶ宇垣さん。
それを楽しげに観覧する同級生達。
後々まで語り継がれる伝説が、また一つ増えた気がした。




