電征
「病室の入り口に『皆綾初乃』と書かれていたっスが、それが『天空希望』の正体ってことっスか」
『初皆綾乃』聞いたことがある
確か人気絶頂で突然失踪したアイドル
「Vtuber的には『正体』じゃなくて『前世』と言った方が正しいですね」
マネちゃんが訂正し、希望ちゃんが話を続ける
「そう、私はアイドルだった。車で事故に巻き込まれるまでは…」
「事故でその姿に…」
希望ちゃん、いや皆綾初乃の痛々しい姿を見やる
「当時のマネージャーと車でスタジオに行く途中に暴走したトラックが突っ込んできてね」
「マネージャーは即死だった、けど私は生き残った…生き残ってしまった」
「炎上する車の中から救助されたの、目が覚めたら集中治療室の中」
「初めて自分の姿を見た時は絶望したわ、この世の全てを恨んだ、実際に自殺を図った時もある」
「大きい事故だったけど当時の事務所の権力で被害者の皆綾初乃は公にならなかった、表向きは失踪という形になった」
「どうやって死のうかだけ考えて生きていた私に姿を見せずアイドルに再びなれるVtuberは希望を与えてくれた。」
「あのー話したいことってそれっスか?」
クローディアが話の腰を折る
つくづく空気読めないヤツだな
「あ、ごめんね、ついみんなと会えたから嬉しくなっちゃって話長くなっちゃった」
希望ちゃんは笑顔で言った、たぶん…
顔も包帯で覆われているので表情はわからないが、眼を見る限りおそらく笑っている
「本題は私たち100万電能力越えが何故自分の真名が思い出せないってことっス」
クローディアが本題に触れる
珍しく少しいらだっているようだ
「今の貴方たちはVtuberそのものになろうとしているわ」
「はぁ?」
「それって…」
「電死するってことっスか?」
全員が同じ疑問を抱く
身体中から嫌な汗が噴き出るのを感じる
「違うわ、貴方たちはあいつらとは違う」
今まで電死したVtuberを『あいつら』と称した希望ちゃんから深い増悪を感じたが、突っ込まずに次の言葉を待つ
「電死するのはVtuberに取り込まれた状態、今の状態は逆にVtuberを取り込んだ状態なの」
「取り込んだ?」
「そもそも電死という状態は、Vtuberとして道を踏み外した者たちを強制的に意識を乗っ取り、Vtuberとして正しい行いをするようにするものなの」
「けれど、意識はVtuberになっているけど身体はVtuberになっていない、いずれ彼女たちは老いていってリスナーに忘れ去られるわ」
「今の状態は老いないということっスか?」
「それだけではないわ」
希望ちゃんは端に立っていたマネちゃんに目配せをする
瞬間、マネちゃんは果物ナイフを手に取り
クローディアの腹を刺した
「グッ!」
うめき声をあげてクローディアは刺された腹を抑える
腹から勢いよく血が流れる
「何して!?」
マネちゃんを突き飛ばしてクローディアに駆け寄る
クローディアは依然として腹を抑えている
「傷が…塞がっていく」
「え?」
よく見るとクローディアから止止めなく流れていた血液は嘘のように止まっていた。
「これでわかりましたか?完全に覚醒したら首を切り取っても元に戻ります。」
私に突き飛ばされたマネちゃんがズボンに付いた埃をはたきながら述べた
謝らんぞ、指の先ちょっと切るだけでよくないか?
「つまり不老不死になるってことっスか?」
「そう、この状態を『電征』と言うの」
『電征』…なんかちょっとカッコいい響きだ
「ちょっと待って欲しいっス、それが自分の名前を忘れる理由になってない」
「確かに!」
肝心な事忘れてた
『電征』なんてカッコいい響きで惑わしやがって
「ああ…それね」
希望ちゃんはまるでテレビのリモコンの場所を聞かれたかのように軽く答える
「ちょっとした副作用だよ。これから不老不死になるのに自分の名前も親の記憶も必要ないでしょ」
「親の記憶?」
「ああ、まだ儀式前だからか…心配いらないよ。貴方たちの親は…」
「私なんだから」
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